第30話 三人で過去へー2

「文化祭の次の日、振替で休みだったよね。その日の夕方、四時頃にこの和室にいたの。音楽を聞こうと思って、棚のCDをあさっていたら、あるものが出てきた……ちょっと待って」


 棚から例のCDと〝写真〟と〝メモ〟を取り出して二人の前に置いた。

「それがこれ、CDと写真とメモ」


 さくらが写真を手に取り

「ずいぶん古い写真」と言った。

陽菜はメモを手に取った。

「陽菜、メモを読んでみて」と私が言った。

「うん。読むよ」


〝セプテンバーを聴くとき、写真を胸に抱きながら目をつむり聴くこと〟


「〝セプテンバー〟って、このCDに入ってる曲ね」と陽菜が聞いた。

「うん、そう」

「前に、おじいさんが好きだってアンが言ってた曲でしょ」

さくらは覚えていた。

「そう。〝アース・ウィンド・アンド・ファイアー〟の〝アース〟を蚊? って、さくらは聞いたよ」と私が言うと、

「えー、全然覚えてない」と、とぼけたけど、きっと覚えてる。

そんなさくらとのやり取りはどうでもいいように、陽菜が私の顔を見て聞いた。

「このメモの意味は?」



「えっ、今、〝タイムスリップ〟って言った?」

陽菜が驚いて聞き返した。さくらはポカンとしている。

改めて二人に言った。


「そのメモの通りにすると、写真の裏書にある1978年に行くことが出来るの」

「えーっ、どうしたのアン? 何の冗談?」さくらが大きな声を出した。

「冗談じゃないの」と、静かに、二人の耳に囁きかけるように、丁寧に、言った。


 陽菜は私が真剣なことが分かったんだろう。

でも、普通に考えれば荒唐無稽だ。

陽菜もどう整理すればいいのか分からないためか、しばらく無言だった。


 私の顔を見て、写真を見て、メモを見て、ようやく口を開いた。

「アン、過去に行ったの?」

さくらが口をポカンと開けた。

「うん、行った。1978年のじいちゃんと会った。まだ一歳の私のお母さんも見た」


「信じられない。でも、アンの表情で、本当の事なんだと分かる」

陽菜が私の顔のあと、写真を見て聞いた。

「この写真はどこ?」

「六本木に昔あったスクエアビルっていうビル」

「スクエアビル……」

さくらは、何を話せばいいのか分からないのか黙ったままだ。


 私は過去での出来事を話し始めた。


・・・・・・・

 写真を胸に抱き〝セプテンバー〟を聴いていたら、目の前が真っ白になり、目がぐるぐると回った。

若い男性の声で気づいたら、六本木のスクエアビルの前にいた。

和室にいたのに、なぜ六本木なのか分からなかった。

家に帰らなきゃと思い、駅までの道を聞き、駅で大江戸線を探したけど見つからず、駅員さんに聞いたら、大江戸線という路線はないって。

日比谷線で恵比寿に行って、〝国鉄〟で五反田に行き都営浅草線へ乗り換えると教えてもらった。

駅員さんとのやり取りと、改札の中にいる駅員さんがお客さんの切符を受け取り切っていたことが不思議で、駅員さんに今が何年なのか聞き、過去だと分かった。


 お金を持っていなかったので、駅員さんから借りて戸越に戻った。

自宅までの道は一部舗装がされてなくて、家までの道にマンションなんか無かった。

改築前の古い家だったけど、自分の家は分かった。

玄関の戸を叩くと、中から〝若いじいちゃん〟が顔を出した。

葬式をしたばかりだったので、目の前に生きているじいちゃんがいるって、泣きそうになった。


 若いじいちゃんは、私が来ると思ってた。未来のじいちゃんが、私が来るだろうと話していたみたい。

未来のじいちゃんは二回過去に来て、私と同じように、気づいたら六本木だったって。


 外出していた〝若いばあちゃん〟と〝一歳のお母さん〟が帰ってきた。

若いじいちゃんは私を上司の娘って説明した。


 そのあと、若いじいちゃんに言われて、浩ちゃんと呼ぶことになった。

浩ちゃんに連れられ、六本木のDISCOに行った。

〝写真〟のスクエアビルはほぼ全館がDISCOだった。

浩ちゃんと一緒に、大音量の音楽ときらめく照明に身を委ねて踊った。

DISCOは想像を超えて幻想的な場所だった。

ほんとに楽しかった。忘れられない。

・・・・・・・・


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