第29話 三人で過去へー1

 犯人捜しの件で悔しい思いを共有したこともあり、私たち三人の絆はより深まった気がしていた。


 タイムスリップのこと、二人に話そう。唐突に、そう決意した。

「陽菜、さくら、二人に話したいことがあるの。今日の放課後、大丈夫なら私の家に来ない?」

何かただ事ではないと感じたのかも知れない。陽菜もさくらも一つ返事で

「いいよ」と言った。


 さくらの部活はなかったが、陽菜は部活を休んでくれた。

学校からいつもの道を三人で駅まで歩いた。


 私の話を早く聞きたいはずだけど、陽菜もさくらも黙ったままだ。

間が持たないと思ったのか、さくらが昨日のお笑い番組の話をしてきた。

「今って漫才とか第七世代っていうでしょ。陽菜は誰が好き?」

「別に。好きなコンビもグループもいない」

「アンは?」

「第七世代かは知らないけど、ノンスタイルかな。漫才の王道でしょ。さくらは誰が好きなの?」

「花子」

何となく分かる。

陽菜はあまり興味がなさそうで話に入ってこない。


 そんな話をしているうちに駅に着いた。今だと次は2番線だ。

三人で発車待ちの電車に乗った。

すると目の前に拓海が座っていた。

「三人とも、どこへも寄らず、帰り?」、拓海が私たちに聞いてきた。

「私の家に行くの」と答えた。

「へー、いいな。アンのおじいさんのオーディオ、また聞いてみたいな」

拓海は混ざりたがってる。

拓海にもほんとうは話したいが、〝二人に話したいことがあるの〟と言ったし……まずは二人にだけ話そう。


「拓海くん、今度聴きにきて」

陽菜とさくらは私と拓海のやり取りを聞いている。

陽菜は私の拓海への気持ちをうすうす気づいているので、何となく聞かれていると話しづらい。

「うん。女の子たちの邪魔はしないよ。それにしてもおじいさんのオーディオは凄いよな」目を輝かせてそう言った。


 電車はすでに発車していて、次は戸越駅だ。

駅に着き、拓海に

「じゃ、またね」と言った。

「拓海くん、またね」と陽菜とさくらも言った。


 家に着いた。

「今は誰もいないから、さあ入って」と、玄関に備えてあるスリッパを二足出した。


 戸越駅から出たあたりから、どう話そうかとそればかり考えていた。

誰もいないけれど、陽菜もさくらも

「お邪魔します」と靴を脱いでスリッパに履き替えた。

「じいちゃんの和室で話そう」

「うん」二人が答えた。


 和室を見て陽菜が、

「久しぶりにこの和室に来た。先におじいさんにお線香をあげていい?」と言った。

私はすっかりそのことを忘れていた。やはり陽菜はさすがだ。


 別の部屋にある仏壇に陽菜、次にさくらがお線香をあげた。私も続いてあげて、3人で和室に戻った。


「ちょっと待ってね。紅茶を入れて来るから。棚にあるCDでも眺めていて」

「はーい」と、さくらが、らしい返事をしたが、早く話を聞きたいのだろう。何かそわそわしていた。


 紅茶を用意して、和室に戻ると、二人はCDを眺めていた。

「はい、どうぞ」と言って、カーペットにそのまま座っている二人の目の前に紅茶を置いた。


「いただきまーす」、さくらに続いて陽菜も

「じゃ、いただきます」と紅茶を一口飲んだ。


 少し間を置いて陽菜が言った。

「それで、アン、話って何?」。さくらも

「そうそう、何なの? 何なの?」とせわしない。


二人の顔を改めて見た。

さくらは早く聞きたいと目を輝かせていた。陽菜は落ち着いて私が話すのを待っている。


(何もかも話そう)

「どう話せばいいのかちょっと迷ってる……この話は家族にもしていない。今、初めて二人に話すの。驚かないで聞いてね」


 二人とも黙って私の口元を見ていた。


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