第28話 犯人捜しと再挑戦ー2

 帰宅し、いつものようにじいちゃんの和室に入った。


 そして、あのCDと写真とメモを手に取った。

写真を眺めながら、自分で自分に問いかけた。


(アン、どうする? また過去に行ってみる?)

(でも少し怖い)

(浩ちゃんとまた会いたくないの? DISCOに行きたくないの?)

(もちろん会いたいし、行きたい)


 自分自身のそんなやり取りが頭の中でリフレインし、しばらくの間、悶々としていた。

浩ちゃんの顔、まだ一歳のお母さんの笑顔、そしてDISCO。

あの幻想的な場所にもう一度行ってみたい。


(アン、やっぱり行こうよ)

(うん、そうだね。行こう)


 CDをセットした。写真を胸に抱いた。準備は出来た。

〝セプテンバー〟をかけて目を瞑った。


 ♪Do you remember The 21th night of September?

   Love was changing the minds of Pretenders

  While chasing the clouds away

(君は覚えてるかい 九月二十一日のあの夜を

 よそよそしかった僕らのこころを愛が変えていったよね

 雲を追い払うように)


 あのときは、最初の歌詞が繰り返し聞こえた。でも、今は普通に曲が進行している。何も起こらない。あのときと違う。


 期待がくだかれていく。

浩ちゃん、そっちに行けない。


 過去でのあの日のことが次々と頭に浮かんでは消えていく。


 六本木で気づいたこと、駅員さんにお世話になったこと。

そうだ、電車賃を返していない。

家の戸を叩いて浩ちゃんが顔を出したこと、一歳のお母さんに会ったこと、六本木のDISCOに行ったこと、音と照明に身をゆだねて踊ったこと。

あの幻想的な場所は忘れられない。

そしてエンゼルのドアを開けて現代に戻った。


 二度と過去には行けないんだろうか。

じいちゃんはどうだったんだろう。必ず過去に行けたのか、それとも成功したのがニ回だったのか。


 月曜日は〝スポーツの日〟で祭日のため、三連休だった。休日の間、なぜ過去に戻れなかったのか、何度も考えたが、分からなかった。


 火曜日、脱力感というんだろうか、何もする気がない中、学校に行った。


 一時限目の授業が始まる前に、陽菜が声をかけてきた。

「アン、〝えんたく〟から回答があったら、すぐに教えてね」

「うん、分かった」

「アン、なんか元気ないね」

「そんなことないよ、大丈夫」

陽菜は勘が鋭い。


 私はタイムスリップのことを誰にも話せず、心ここにあらずのような状態で気持ちが落ち着かないでいた。

何か大切なことも受け止められていないかも知れない。

私をよく知っている人は、私の言動や行動にいつもと違うものを感じるだろう。きっとお母さんもそうだ。


 お昼休みに入るとすぐ、〝えんたく〟が教室に顔を出して、

「竹本、ちょっと職員室に」と言った。


 職員室に入ると、最初に〝えんたく〟が

「僕はまず先生たちにこう話した。『生徒が懸命に準備したものを破壊するような行為は諫めなければいけません。ただ、〝人を憎まず〟。決して犯人を罰するつもりはありません』って」

先生たちは協力してくれたそうだ。

「ただ、どの先生も怪しいと思う人間は見ていないようだ」

「そうですか、分かりました。遠藤先生がこの件を引き受けていただいて感謝しています」

「うん。やったのが誰かは分からないが、きっと後悔しているはずだ」

「そうですね。ありがとうございました」

〝えんたく〟に深くお辞儀をして、職員室を出た。


 教室に戻った。早速、陽菜とさくらを呼んで、〝えんたく〟から言われたことを話した。

「さすが〝えんたく〟。でも、私もさくらもアンも犯人を見つけるだけの情報は得られなかったってことだね」。

「うん」さくらと私が答えた。

「私たちが動いていること、きっと犯人には伝わっていると思う。〝えんたく〟の言う通り後悔して、びくびくしているかも知れない」と陽菜が言った。


 続けて、

「文化祭の催し物は成功して、犯人の思惑通りにならなかった。犯人が後悔しているとするなら、もうそれでいいのかも知れない。どう思う?」

「私も、もういいんじゃないかと思う」と答えた。

「私はくやしい。犯人を徹底的に追い詰めたい」さくらは少し泣きそうな顔をして強く言った。それを聞いた陽菜は

「さくらの気持ちは痛いほど分かる。でも、くやしいのは私もアンも同じだよ。それでも、もういいと思う」


 私はさくらを後ろから抱きしめて

「さくら、くやしいよね。でも、陽菜の言う通りだと思うよ」

さくらは、しばらくの間、私に抱きしめられたままだった。

そして、ようやく落ち着いたのか小さな声で言った。

「分かった……分かった」

さくらの気持ちが、私と陽菜の心を針で刺しているような感覚だった。


 犯人は結局分からなかったが、数年後に判明する。

同窓会で、大人になった美奈子が

「やったのは私たち」と言ってきた。

同窓会には陽菜もさくらも参加していた。

私も含めて三人で

「やっぱり」と、何か重しが取れたような、清々しい気持ちになるが、まだまだ先の話だ。

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