第27話 犯人捜しと再挑戦ー1

 学校は、文化祭の余韻で全体に少しだらけているような感じだった。


 陽菜が、一時限目の授業前に

「犯人は必ず見つけるから」と厳しい顔で言ってきた。

私はタイムスリップのことで頭が一杯になっていて、正直、犯人はどうでもよかった。でも

「うん」と返事をした。

さすがに陽菜は見逃さなかった。

「アン、なんだか気乗りしていないでしょ、くやしくないの?」と詰め寄られた。

「もちろんくやしいよ。分かった、どうやって見つける?」

「聞き込み」

何だか刑事ドラマみたいになってきた。

「私も聞き込みやる」、さくらが近づいてきて言った。

「さくら、聞き込みって知ってるの?」

「知ってるよ。テレビでやってた」


 一時限目開始前の予備チャイムがなった。

〝えんたく〟が教室に入って来て

「みんな、文化祭お疲れ様。〝たこ焼きの屋台〟は大人気だったな、ほんとにお疲れ様」と話した。

自分が担任をしているクラスの催し物が盛況だったので、ほんとにうれしそうだ。

〝えんたく〟のニコニコ顔がみんなにも伝染した。


 昼休み、陽菜とさくらと三人で打ち合わせをした。

「さくらは顔が広いから他のクラスの生徒に聞き込みをかけて。でも、全員は時間がかかるから、聞いた生徒が他の生徒にも聞いてもらえるように」

「アンは先生たちに聞いて。アンならちゃんと受け止めてくれると思う」

「私はうちのクラスを担当する」

陽菜がてきぱきと指示を出した。

「破られたときの写真は撮ってあるので、LINEで送っておく」とさくらが言った。

「分かった」と私が答えた。

明日の昼にまた集まって状況を確認することになった。


 先生たちは「犯人探しなんか止めなさい」と言いそうだ。

最初に〝えんたく〟を説得しようと考えた。


 午後最初の授業が終わってすぐ職員室に行った。

〝えんたく〟は国語の先生で、机に座って何か準備をしていた。

私が近づくと

「おー、竹本、どうした?」

「先生、文化祭で私たちが作ったポップが破られましたね」

「うん」

「犯人を見つけようと思ってます。ポップは教室の後ろに置いてありました。教室で何か怪しい動きをする人がいなかったか、先生たちにも聞きたいんです」

〝えんたく〟は少し考えて、

「うーん、生徒が犯人捜しをすること、先生たちは反対するだろうな」

「何とかなりませんか?」

「竹本、先生たちに聞いてみるのは僕にまかせてくれ。僕がうまくやるよ」

「えっ、本当ですか、ありがとうございます」

「少し時間をもらうよ」

「はい」


〝えんたく〟に感謝した。


 次の日の昼、三人で集まった。


「先生たちへの聞き込みは〝えんたく〟がやってくれるって。ただ、時間がどのくらいかかるかは分からない」と私が言った。

「分かった。さくらはどう?」陽菜が言った。

「同じ学年の生徒全員は無理なので、私たちのHRと同じ階のHRに絞ることにしたけど、いいかな?」と、さくらが言った。

「それでいいと思う」陽菜が答えて、私は頷いた。

「私の方は、いまのところ怪しい人間を見たって生徒はいなかった。まだ全員に聞けたわけじゃないので、引き続き聞き込みをする」

「明日の昼にまた集まろう」、陽菜が少し厳しい顔で言った。

  

 また次の昼に集まった。


 会ってすぐ、さくらが

「自分が嫌いな生徒を『あの子が犯人じゃないの』と、何も見ていないのに言う人がいて困った。でも、隣のクラスの生徒が、聡美がうちのクラスから出てきたのを見たって言ってた。聡美がこの階にいるのは変じゃない?」と言った。

私たちのクラスは32HRで、校舎の一階。

31HRから34HRまでが同じ階、聡美は37HRで二階だ。


「うーん、教室から出てきただけだと、それだけで犯人とは言えないね」と陽菜が言った。

「そうね、怪しいけど」と私も言った。

陽菜の同じクラスの生徒への聞き込みは何もなく、〝えんたく〟の報告を待って、また集まることにした。


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