第25話 過去へー8

 自宅に戻った。


「アン、お帰り、どこに行ってたの?」とお母さんがいつもの調子で言った。

「少しブラブラとしていただけ」

「そう、ご飯はまだ大丈夫でしょ」

「うん」


 近づいてお母さんの顔を見た。

(一歳だったお母さんに会ってきたよ。可愛かった)

何だかお母さんを抱きしめたくなった。

「なに? どうしたの?」

「何でもない」

「変な子」


 じいちゃんの和室に戻り時計を見た。

確か、和室で〝セプテンバー〟を聴いていた時は午後の四時頃だった、今は四時半、三十分しか経っていない。


 過去の六本木で気づき、家まで電車で行って、若いじいちゃんに会い、六本木のDISCOに行って、帰りにエンゼルへ。

六時間くらいは過去にいたはずだ。


 浩ちゃんが言っていた通りだ。

未来と過去の時間の長さ、時間経過は違っている。

(なぜなんだろう)

また、過去で気づいたのは〝六本木〟、〝和室〟から〝六本木〟だったけど、過去から未来へは〝エンゼル〟から〝エンゼル〟だ。


 タイムスリップを私は経験した。


 誰かにこのことを話したい。陽菜とさくらに話してみたい。拓海に話してみたい。

でも、私とじいちゃん、浩ちゃんだけの秘密にしないといけないのかも知れない。何かがきっかけで未来を変えるようなことをしてはいけない。それは浩ちゃんと約束した。


 タイムスリップで分かっているのは、〝この和室とスクエアビルとセプテンバー〟、〝エンゼル〟が、過去と未来の空間を繋ぐ役割をしていること。それだけだ。


 浩ちゃんは、じいちゃんが過去に来たのは二回って言っていた。

それは、やっぱり写真の裏書に書かれていた1978年だったのか?それとも違う年か?

それから薫さんのこと、聞いてみればよかった。大学生のときにすでに会っていたはずだ。


 和室には、未来に行ったときと同じ〝あの写真〟と〝あのメモ〟がそのまま落ちていた。三十分ほどだったので、お母さんにも見られていないはずだ。

じいちゃんは、私がきっと写真とメモを見つけ過去に行くと思っていた。そのことを浩ちゃんに話していた。だから浩ちゃんが私のことを知っていた。


 じいちゃんは、なぜタイムスリップのことを私に言わなかったんだろう。


 疲れが襲ってきた。


 今は体が重い。

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