第23話 過去へー6
NEPENTAは、若い人で一杯だった。
アフリカをイメージしているらしく、〝大きな像〟の置物があり、中に南国の木が茂っている。
浩ちゃんがチケットを買って見せてくれた。
「これでワンドリンク飲めるから」
奥に入ると、たくさんの人が踊っていた。
「浩ちゃん、未来のじいちゃんが言ってた。DISCOは曲によってステップが決まっていて、それで踊るんだって」
「店によっても違うけど、今はステップで踊る人はあまりいないね。もっと前なら全盛期だったし、DISCOもちょっと〝ワルな場所〟だった。最初は〝踊り場〟って言ってたよ」
「それから、横浜の方では〝ハマチャチャ〟って独自のステップもあるみたいだ」
「へえーー」
「あそこが空いてるから座ろう」
テーブル横の席に座った。
座っている人たちはみんなタバコを吸っている。
〝禁煙〟なんてないみたい。
照明がギラギラと音楽に合わせて動いていて、その照明の光にタバコの煙が重なり
ゆらゆらと揺れている。
和室で聴いていた音は何だったのだろうかと思うほどに、音量が全然違う。
今、大音量でかかっているこの曲はじいちゃんの和室で聴いたことがなかった。
「浩ちゃん、この曲はなんていう曲?」
「〝マンハッタン・バス・ストップ〟、少し前の曲だね」
「〝未来の俺〟は〝バスストップ〟っていう踊りのこと、何か言ってた?」
聞いていないので、
「知らない、聞いてない」と言った。
「そうか、バスストップっていうステップがあるんだよ。ステップの基本中の基本なんだけど、〝マンハッタン・バス・ストップ〟は、〝ウルトラバスストップ〟っていう複雑なステップで踊る人がいた」
バスストップもウルトラバスストップも分からない。
踊る人たちをボーっと眺めていたら、別の曲がかかった。
(あ、この曲は知ってる)
(アース・ウィンド・アンド・ファイアーだ)
「浩ちゃん、これアース・ウィンド・アンド・ファイアーでしょ!」
「よく知ってるね。〝宇宙のファンタジー〟だよ」
ゆったりとした流れから、
♪タッタタッタ、タタッタタ とリズムが変わる。
和室で聴いたときも印象的だったのでよく覚えてる。
でも和室とは音量が違うので、なんだか曲も違うのかと思うほどだ。
若いじいちゃんとの会話は、初めてとは思えない。心地いい。
ただ、音がすごくて、話すときには顔を近づけないと声が聞こえない。
浩ちゃんの顔は照明に照らされ、赤くなったり、青くなったり、黄色になったりしている。
「アン、少し踊ろうか」と浩ちゃんが言った。
(えっ、踊る?)
学校でダンスの授業はあるけど、目の前で踊っている人たちの踊りは全然違う。
腰を振って、頭を左右に振ってる人もいる。
上半身は動かさず、足だけを前後左右に動かしてる人もいる。
「さ、アン、踊ってみよう!」
「うん」
浩ちゃんに手を引かれて、踊っている人たちの間を抜け、少し周りとの余裕があるところに出た。
浩ちゃんが踊り始めた。
激しい踊りじゃないけど、なんだか格好いい。リズムに合ってる。
私も浩ちゃんを真似て踊ってみた。自分ではぎこちない。
「おー、アン、うまいじゃないか」
褒められるとちょっとうれしい。
大音量の音楽ときらびやかな照明に身を任せて体が自然と動く。
音楽と照明と踊りだけの世界。
いつもは嫌いなタバコの煙も照明に照らされて幻想的に見える。
DISCOって楽しい。
二曲踊ったあと、浩ちゃんが
「飲み物を取りに行こう」と言って、二人でカウンターに行った。
「アンは何にする。アルコールはだめだからジュースかな?」
「うん、ジュースがあるならオレンジジュースで」
浩ちゃんが頼んで飲み物をもらった。
さっきより人は増えて、最初に座った場所も他の人が座っている。
(席は自由なんだ)
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