第20話 過去へー3
戸越駅から自宅への道も、道のりは同じだが全てが違う。
道は一部が舗装されていない。道々の家は平屋か二階建てで、マンションなどない。
違う世界を歩いているようだ。
家が見えてきた。
平屋だけれど、間違いない。〝うち〟だ。
この光景はアルバムの写真で記憶がある。
その写真は、玄関の前でじいちゃんとばあちゃんが子供のときのお母さんと亮子おばさんの肩に手をやって、四人で写っていた。
今、その玄関の前に来た。
しばらく立ち尽くした。五分ほどだろうか。
今が1978年なら、お母さんは1977年生まれのはずだからまだ一歳。おばさんはまだ生まれていない。
家は、二人が生まれたあとに改築したって聞いた。
決心がつかなかった。(自分のうちだけど、怖い)
落ち着こうと思い、駅までの道を半分くらいゆっくりと戻った。
そこで立ち止まり、そして決心した。
家に戻り、木の玄関の扉をトントンと叩いた。
「こんにちは」
もう一度叩いた。
トントン
中で人が動く気配がした。
誰かいる。誰か出てくる。
「はーい」という声がした。
扉が横にガラガラという音とともに開いた。
若い男の人が顔を出した。
おそらく二十代半ばだろう。
この目は……
若いけれど間違いない。じいちゃんだ!!
ついこの前、火葬場で骨だけになってしまったじいちゃんだ……
じいちゃんが目の前にいる。
柩の中のじいちゃんの顔を思い出し、泣きそうになった。
「もしかして……、アンだね。いつか来ると思っていたよ」
「えっ……」
言葉が出てこない。
おそらく私の口は開いたままだ。
若いじいちゃんは笑顔になり(笑うと目が無くなるのは変わらない)、
「まあ、入りなさい」、そう言って家に入れてくれた。
玄関を入って左の部屋に、五十代だろうか、男の人がテレビを見ていた。
おそらくひいじいちゃんだと思った。
ひいじいちゃんは、少しいぶかしげな顔をして
「いらっしゃい」と言った。
「お邪魔します」と答えた。
若いじいちゃんに連れられ、奥の〝あの和室〟に入った。
オーディオも、じいちゃんの指定席であるソファも私が知っているものではないけれど、位置は同じだ。
間違いなく〝あの和室〟だ。
じいちゃんは押し入れから座布団を出して、
「座りなさい、今、お茶を持ってくるから」と部屋を出て行った。
座布団に座り、少し待っていると、じいちゃんがお茶を運んで来た。
「はい、どうぞ」
若いじいちゃんは私のことを知っている。
いつか来ると……と言った。
(どうして……)
「冷めるよ」じいちゃんに言われ、まずはお茶を飲んだ。
「あの……」
「おそらく、気づいたら〝昔〟にいたんだね」
「はい、六本木から電車を乗り継いで来ました」
「へえー、よく来れたね」
「あのー、村木浩二、私のじいちゃんですよね」
「そうだよ、びっくりしたかな?」
「起きていることが理解できません」
「そうだろうね」「アンがいた世界は何年?」
「西暦の2022年です」
「そうか、〝未来の俺〟は元気かな?」
「じいちゃんは先日亡くなりました」
若いじいちゃんは
「えっ……」と絶句し、しばらく無言だった。
「そうか、俺は2022年に死ぬのか」
「前に〝未来の俺〟が来たときは2019年と言っていた」
「足は悪かったけど、他は問題ないようだったのに」
若いじいちゃんは、自分が死んだことにやはりショックを受けているようだった。
「じいちゃんが来たんですか? 未来のじいちゃんと話したんですか?」と私は聞いた。
「うん、不思議だよね」
「〝未来の俺〟は二度来たよ、アンと同じく、気づいたら六本木だったって」
「未来の俺が訪ねてきたとき、最初は何か気がふれている人間がやってきたのかと思った。でも、話を聞いて信じた。自分と同じ過去を共有しているからね」
「妻、アンのおばあさんは、今外出してる。娘、アンのお母さんも一緒だよ。昨年生まれたばかりだけどね」
私のお母さん?
お母さんに会って、いえ、見てみたい。
ばあちゃんにも会いたい。
ベッドで寝ていたばあちゃんのやさしい笑顔を思い出した。
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