第16話 文化祭ー1

 十月二日、日曜日、今日は文化祭だ。

うちの高校で一番盛り上がるイベントかも知れない。


 朝早くからクラスのみんなが頑張って、〝たこ焼きの屋台〟は十時にはお客さんを待つだけになった。


 十時半頃から生徒やOB、父兄の人たちが次々と入場してきた。

私たちの屋台の右隣りは〝輪投げ〟。お父さん、お母さんと行った神社の縁日で挑戦したことを思い出す。

景品をどうやって集めたかは知れないが、生徒たちの弟や妹、子供たちが喜ぶだろう。

左隣は〝焼きそばの屋台〟だ、負けられない。


 少しすると、呼び込みをしていたクラスの女の子たちがお客さんを連れてきた。「たこ焼き一つください」

クラスの石田くんが

「はい、一つですね!」と、とびっきりの笑顔で答えた。

石田くんの実家は〝お好み焼き屋さん〟。たこ焼きもやっているので、手慣れたものだ。たこ焼きをくるんと上手に裏返していく。

石田くんという存在がなければ、この企画は候補にも挙がらなかったと思う。


「美味しそう、一つ買ってみる?」

小さい女の子を連れたお母さんが一つ頼んだ。

客は客を呼ぶというのか、列が出来て盛況になってきた。

「私も焼いてみたい」とさくらが言って、石田くんの手さばきを見ていたが

「やっぱり無理かも」とあきらめた。陽菜が

「石田くんに任せましょ」とさくらの肩を叩いた。

しばらく三人で屋台を眺めていたけど、これで大丈夫と確信した。


「ここは大丈夫そうだから、少し見て回ろうか」と陽菜が言った。

「その前に屋台をバックにして写真を撮ろうよ」と、さくらが言い、同じクラスの女子に撮ってと頼んだ。

三人で屋台の前に立ち、石田くんがたこ焼きを焼いている姿を入れて撮ってもらった。

「じゃ、行こう」陽菜に言われて三人で散策に出かけた。


 私たちの高校では三年一組、二組と言わずに、31HR(さんじゅういちホームルーム)、32HR(さんじゅうにホームルーム)と呼ぶ。

三年は39HRまである。私のクラスは32HR、例の〝悪玉三人娘〟は37HRだ。

「37に行ってみようよ」とさくらが言った。陽菜が

「〝あいつら〟のHRだよ」とイヤな顔をした。


 私は、二人にも言っていなかったが、〝あいつら〟がポップを破った犯人じゃないかと疑っていた。

催し物は別に見たくもなかったけど、〝あいつら〟の顔を確認したいと思った。

「うん、陽菜、行ってみようよ」

「アンもそう言うなら」と行くことになった。


 37HRの〝お化け屋敷〟は、体育館の一部を使っていた。

入り口にチケット売り場があったが、〝生徒は無料〟と書かれていた。

悪玉三人娘の姿はない。


「どうする、入ってみる?」

さくらが行こうと言ったのに、すでにビビっている。陽菜が笑って

「入ろう」と二人の手を引っ張った。


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