第15話 準備と事件ー2

 ところが、文化祭の前々日、学校で思ってもいない事件が起きた。


 さくらと陽菜と三人で作った〝たこ焼き屋台〟のポップが無残に破られていた。


 クラスの仲間も遠巻きでその破られたポップを見ている。

さくらが、破られて描かれているものも分からなくなった紙片を一つ一つ拾い集め始めた。

「さくら……」陽菜は立ち尽くしていた。

さくらが紙片を拾い続けながら、大きな声をあげた。

「誰、誰がやったの!」


 おそらくパソコンには元のデータが入っているから、また作ることはできる。

でもそういう問題じゃない。

怒りが込み上げてきた。誰が。


 騒ぎを聞いた拓海が来て、私の肩に手を置いた。そして言った。

「ひどいな、誰の仕業だろう」

拓海が憤っている。いつも笑顔の拓海がめずらしく険しい顔をしている。

私はその顔を見つめてドキドキした。


「アン、さくら、犯人を見つけるよ!」陽菜が厳しい顔をして言った。

「うん」、二人で同時に答えた。


 そのとき、担任の遠藤先生が来た。

遠藤卓司、みんなは〝えんたく〟って呼んでる。


「こんなことをして何になるのか……文化祭は大丈夫か?」、〝えんたく〟が誰ともなく言った。

「はい、大丈夫です」私が答えた。

「大丈夫です」と陽菜も答えた。

「竹本と浅見がそう言うなら安心した」「いいか、このことで変に犯人捜しをしないこと」と〝えんたく〟が言った。

「何でですか? こんなひどいことされたのに」と、さくらが食ってかかった。

「先生、こんなことを許すんですか?」と拓海も言った。

「まずは、文化祭を成功させよう。犯人の狙いが催し物の失敗なら、思い通りにさせないことだ」と〝えんたく〟は私たちをなだめるように言った。


 しばらく誰も話さなかったが、

「分かりました」と陽菜が言って、みんなは怒りを胸にしまって押し黙った。


 ポップはクラスの部屋の隅に置いていただけだから、誰でもポップを破ろうと思えば出来る。


 これがテレビの刑事ものなら〝動機〟を調べるだろうと思った。

クラスへのいやがらせ?催し物を失敗させる?それとも私と陽菜とさくら、私たちへのいやがらせか?そうなのかも知れない。


 でも、〝えんたく〟の言う通り、犯人捜しよりポップをまずは作り直さなきゃ。

さくらはさすが、すでにパソコンに向かって再印刷を始めている。

印刷した上にマジックで上書きしたものが一部はあるが、それもそれほど時間がからずに出来るだろう。


 犯人はポップが元通りになっているのを見ればきっと驚く。


 〝たこ焼きの屋台〟は、必ず成功させる。


 陽菜もさくらも、そしてクラスのみんなも目の色が違う。

成功させるんだという空気を感じる。

クラス全体の一体感のようなものを感じて胸が熱い。

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