第13話 DISCO音楽
家では、和室で〝じいちゃんの音楽〟を聴く時間が増えた。
そう、〝DISCO音楽〟だ。
じいちゃんのCDを引っ張り出しては次々と曲を聴いた。
同じ〝DISCO音楽〟でも、いろいろな種類があることが分かった。
〝マイ・ガール〟で覚えたテンプテーションズのような黒人のグループ、
〝キング・オブ・ソウル〟と言われるジェームス・ブラウン、
アース・ウィンド・アンド・ファイアーのようなブラスセッションも使う乗りの良いもの、
アラベスクのような女性グループ、
〝一発屋〟なのか分からないが〝ジンギスカン〟のような、ネタものと言っていいようなもの。
他にもいろいろ……
少し調べてみたけれど、じいちゃんが好きなのは60年代、70年代のようだ。
共通して言えることは、それぞれが楽しい音楽ということと、〝踊れる〟ことか。
踊れるというより、最初から踊ることを目的として作られたのかも知れない。
大きな音量で聴いていたら、
「少し音量を下げなさい」とお母さんが注意しにきた。
でも、小さな音で聴いてもこの音楽は楽しくない。
じいちゃんが亡くなって以来、受験勉強にも身が入らなかった。私は部活をやっていないので、やっている人よりは時間が取れるはずだけど。
親友の二人、陽菜はバスケ部、さくらは美術部だ。
私は、高校一年のときにバレーボール部に入ったが、一人、合わない先輩がいていじめられた。それが原因で部活は止めてしまった。
そのとき、お父さんやお母さんは
「そんな部、やめちゃえば?」と言ったが、じいちゃんの反応は違っていた。
「なんだ、その先輩は。先輩とは後輩を指導する側の人間だろう。じいちゃんが学校に行って諭してやる!」と、今にも学校に乗り込みそうに言った。
「あ、じいちゃん、大丈夫だから、ね」
「なにが大丈夫なんだ」
「ほんとに大丈夫だから」懸命に言った。
「そうか、アンがそう言うなら、分かった」
じいちゃんの剣幕は今も忘れない。
正義感の強い人だった。いつも本質について考える人だった。
じいちゃんがいた時も、和室にいる時間は今ほどではないけれど多かった。
じいちゃんはいつもソファーに座り、好きな音楽を聴き、私はそれを耳にしながら、カーペットに寝転がって読書をする。
それはとても気持ちの良い時間で、ずっとこの時間が続けばいいのにと思っていた。
CDやレコードを代えるときに、じいちゃんは話しかけてくる。
話の内容はじいちゃんの昔話が多かった。ただ、部屋に入ると必ず
「アン、今日はどうだった?」って聞いてくるので学校の話をいろいろ話した。
部活での悩みもお父さんお母さんより先に、この部屋でじいちゃんに打ち明けた。
「昔はDISCOで踊った」という話は、じいちゃんの昔話からのエピソードだ。
「DISCOってクラブと違うの?」と最初に聞いたが、じいちゃんはクラブを知らなかった。私も行ったことはないけど。
じいちゃんはDISCOの話をするとき、昔のその時間に戻っているかのように、上を向いて、どこか遠くを見るように目を輝かせていた。
当時はカラオケなどなく、DISCOは安くて朝まで遊べた話も何度も聞いた。
「じいちゃん、それ前にも聞いたよ」
「おー、そうか」と言いつつ、また話す。
この部屋にいるとじいちゃんとの思い出が次々と頭に浮かぶ。
涙が出てくる。
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