第12話 女系ー2

 曲名を眺めていたら、九曲目の〝愛のテーマ〟が目についた。


 これってエンゼルでマスターが教えてくれた曲だ。

(聴いてみよう)

「ノン、ちょっと一曲かけてみていい?」

「いいよ」


 CDをセットし、曲順を9に。


 エンゼルで聞いたときも感じた、荘厳さっていうのか、広い草原にいるような、落ち着いた曲で心が癒される。

〝バリー・ホワイト〟って人の曲だと書いてあった。


 ノンは他の曲も色々聴いてみたいようだったが、目で制して、最後まで聴いた。

この曲は歌がない、インストルメンタルだった。

ダンス名には〝フォーコーナー〟と書いてあった。

ダンス名で検索すればおそらくYoutubeなんかに踊りが出てくるかも知れない。

でも見たいとは思わなかった。


 知らなくていい。

じいちゃんとの思い出の一つとして、他の情報に汚されたくなかった。


「少しおなか減ってきちゃった。みんなのところに戻るね」とノンが言った。

「うん」


 じいちゃんは、若い頃、薫さんとDISCOで踊っていたんだろうか。

クラブも行ったことがないから、比較も出来ないが、どんなとこだったのか?

じいちゃんがあるとき言ってた。

「昔はカラオケなんて無かったから、夜、安く遊ぶならDISCOしかなかった。ワンドリンク制って言って、ワンドリンク分のお金を払えば、ずっと中で遊べたんだよ」


 じいちゃんにいつも話を聞いていたので、〝DISCO〟が自分の中では神格化されていた。

〝DISCO〟とか〝バブル〟とか、何だか古い人はずるい気がしていた。


 曲名をまた眺めていたら、〝セプテンバー〟がないことに気が付いた。

じいちゃんの一番好きな曲のはずなのに。

歌手名でも〝アース・ウィンド・アンド・ファイアー〟がない。なぜだか分からなかった。


 みんなのところに戻った。


 お母さんとおばさん、ノンは菓子を食べていた。

お父さんとおじさんはテレビのバラエティ番組を見ていた。


 おばさんの顔を見ていてマスターが言ったことを思い出した。

薫さんについて、(亮子ちゃんはなんて?)って、なぜか言っていた。


 ノンがいるけど、思い切って聞いた。

「お母さん、おばさん、薫さんはどこに住んでるの?」

二人は驚いた顔をし、お父さん、おじさんはこちらを向いた。

ノンはキョトンとしている。

「薫さんがどこに住んでるか、なぜ知りたいの?」

お母さんが聞いたすぐあとに、おばさんが

「姉さん、薫さんのこと、アンに話したの?」

「ええ、お父さんは亡くなったし、火葬にも参列していたから」

「そうだけど……、どう話したの?」

お父さん、おじさんは何も言わずテレビを見ているが、話を聞いている。


 ノンは感が良いところがある。

「薫さんって、火葬を待っているときにアンが話していたおばあさんね」と聞いた。お母さんがノンに

「薫さんはおじいちゃんの友達だったのよ」

「友達?」

「そう」

あまり興味がなさそうだったが、ノンがおばさんに聞いた。

「ママも知ってるの?」

「ええ、知ってるわ」


 でも、私がほんとうに聞きたいのはそれだけかってこと。


「薫さんの話はもういいでしょ、もう一度お茶を入れてくるわね」お母さんはこれ以上いいでしょと、言葉だけでなく態度でも示した。おばさんも

「手伝うわ」と逃げた。ノンはまたお菓子を食べ始めた。


 お茶が用意されたので、話題を変えてみた。

「じいちゃんって、昔DISCOで踊ってたの?」と私が聞くと、お母さんが

「そうみたいね。お父さんの時代とは違うけど、私が中学くらいかな? その頃のDISCOは何だか凄かったみたい」

「その頃のDISCOって?」

「芝浦の湾岸エリアに〝ジュリアナ東京〟っていうDISCOが出来たの。〝バブル〟ね。お立ち台というのが店の中にあったらしいわ、女の子たちはボディコンで踊ったっていう時代」

「ボディコン?」とノンが聞いたので、

「ちょっと待って」お母さんがスマフォで〝ジュリアナ〟と検索して写真を見せてくれた。


 体のラインがはっきりと見える、超ミニのドレスを着た女性が踊っていた。手には毛で飾られたセンスのようなものを持っていた。ノンが

「へー、なんだか凄い」

「姉さんも言ったけど〝バブル〟よ」とおばさんが言った。


 DISCOも時代によって踊りとか違うんだろう。

自分が興味あるのはじいちゃんの時代。

じいちゃんの踊っていた踊りはどんな踊りだったのか。

じいちゃんの踊りが見たかった。


 いつの間にか、お母さんとおばさんは最近の物価の話をし始めた。


 ほんとうは薫さんの話を深く聞きたかったんだけれど、お母さんもおばさんもあまり話をしたくないように思えた。

お母さんと二人の時に、改めてゆっくり聞くことにした。


 夕飯をみんなで食べて、三人を玄関で見送った。

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