第11話 女系ー1
土曜日、おばさん、おじさん、ノンが家に午後やってきた。
うちは女系家族で、じいちゃんもお母さんの父親だ。
お父さんはいわゆる〝マスオさん〟で、お父さんの親族とは縁遠い。
おばさんもお母さんの妹、常に〝女〟で物事が回っている。男の人の影が薄い。
「まずは、お線香をあげましょう」とおばさんが切り出し、おばさんのあと、おじさん、ノンと、三人が順番に線香をあげた。
「お父さんはまだお母さんに会っていないわね」。おばさんの言葉にノンが
「えっ、何で?」と聞いた。
「四十九日で天国に行くか、地獄に行くか、閻魔様が決めるのよ。それまでは彷徨っているの」
「ふーん、でも、じいちゃんは天国だよね」ノンが聞いた。
「もちろんよ」とおばさんが答えた。ノンは安心したのか
「ばあちゃん、きっと待ってるね」と言った。
ばあちゃんの笑顔が浮かんだ。
寝たきりになってからはお化粧もしなくなり、皺が目立ったけれど、両方の頬に出るえくぼが可愛かった。昔のばあちゃんを知らない人は、えくぼも皺と思うかも知れないけど。
「和室に行っていい?」とノンが誰ともなく聞いた。
「いいわよ。アン、一緒に行きなさい」とお母さんが言ったので、二人で和室に入った。
「このオーディオ凄いよね、売ったらいくらくらいになるかな?」
いかにもノンのセリフだ。
口には出さなかったけど、(売るわけない、絶対売らない)
(じいちゃんの大切にしていたものだから)
ノンに言ったら、「だってじいちゃんもういないんだよ」と言いそうだ。
何日か前に棚の上にあったCDは片付けられていた。お母さんが片付けたんだろう。
ノンが棚の中のCDをあさり始めた。一枚一枚、引っ張り出しては眺めている。
興味があるんだか、ないんだか。しばらくほうっておいた。
「あれっ、このCD変に薄い」と突然ノンが言ったので、ノンの手からCDを取って、確かめた。
CDが薄いのではなく、ケースが薄かった。自分で作ったCDのようだった。
「これ、自分で作ったCDだよ」とノンに教えた。
「へえ、じいちゃん、そんなことも出来たんだ」とノンが驚いたように言った。
ノンは知らないと思うけど、じいちゃんは私なんかより、よっぽど機械やパソコンに詳しかった。
そのCDのケースの中に、自分で作ったと思われる日本語と英語でのラベルがあった。
1.マイ・ガール
(ザ・テンプテーションズ、ソウルステップ)
2.ゲット・レディ
(ザ・テンプテーションズ、オリジナル)
3.リーチ・アウト・アイル・ビー・ゼア
(フォー・トップス、ソウルCC)
4.セイム・オールド・ソング
(フォー・トップス、ニューソウルCC)
5.ロック・ユア・ベイビー
(ジョージ・マックレー、ソウルチャチャ)
6.裏切り者のテーマ
(オージェイズ、ソウルチャチャ)
7.セックス・マシーン
(ジェームス・ブラウン、オリジナル(セックス・マシーン))
8.シーズ・ルッキング・グッド
(ウィルソン・ピケット、クックチャチャ)
9.愛のテーマ
(バリー・ホワイト&ラブ・アンリミテッド・オーケストラ、フォーコーナー)
10.悲しいうわさ
(マーヴィン・ゲイ、セクシーチャチャ)
11.ボール・オブ・コンフュージョン
(ザ・テンプテーションズ、オールドマン)
12.ドント・レット・ザ・グリーン・グラス・フール・ユー
(ウィルソン・ピケット、スケーター)
13.サンシャイン・デイ
(オシビサ、マスタード・ステップ(サンシャイン・デイ))
14.天使のささやき
(ザ・スリー・ディグリーズ、ソウルチャチャ)
15.アイ・キャント・スタンド・イット
(ジェームス・ブラウン、ポップコーン)
16.黒い戦争
(エドウィン・スター、オリジナル)
17.シンク
(リン・コリンズ、シンク)
18.ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラブ
(ダイアナ・ロス&スプリームズ、ソウルCC(ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラブ バージョン))
19. ソウル・パワー
(ジェームス・ブラウン、ポップコーン)
20. スーパー・バッド
(ジェームス・ブラウン、ポップコーンセブン)
21.アイ・キャント・ヘルプ・マイセルフ
(フォー・トップス、ニューソウルCC)
1.My Girl
(The Temptations、soul step)
2.Get Ready
(The Temptations、original)
3.Reach Out I‛ll Be There
(Four Tops、soul CC)
4.It‛s The Same Old Song
(Four Tops、new soul CC)
5.Rock Your Baby
(George McCrae、soul chacha)
6.Back Stabbers
(The O‛jays、soul chacha)
7.Get Up,I feel Like Being Like A Sex Machine
(James Brown、original(sex machine))
8.She‛s Lookin‛ Good
(Wilson Picket、cook chacha)
9.Love‛s Theme
(Barry White、four corner)
10.I Heard It Through The Grapevine
(Marvin Gaye、sexy chacha)
11.Ball Of Confusion
(The Temptations、old man)
12.Don‛t Let The Green Glass Feel
(Wilson Picket、skater)
13.Sunshine Day
(osibisa、masterd step(Sunshine Day))
14.When Will I see You Again
(The Three Degrees、soul chacha)
15.I Can‛t Stand It
(James Brown、popcorn)
16.War
(Edwin Star、original)
17.Think
(Lyn Collins、think)
18.Stop! In The Name Of Love
(Dianna Ross & Supremes、soul CC(Stop! In The Name Of Love Version))
19. Soul Power
(James Brown、popcorn)
20. Super Bad
(James Brown、popcorn7)
21.I Can‛t Help Myself
(Four Tops、new soul CC)
左から、〝曲名〟、カッコの中は〝歌手名〟と〝ダンス名〟だろうか?
〝マイ・ガール(My Girl)〟の一番右に〝ソウルステップ(soul step)〟と書いてある。
「一番右は何?」とノンが覗き込んで聞いた。
「これはこの曲で踊る〝ダンス名〟だと思う」と言ったら、ノンはびっくりした顔をして
「じいちゃんってダンス踊ってたの?」
「じいちゃん、ちょうど七十歳だったでしょ。その年代の人は、若い頃みんな〝DISCO〟で踊っていたんじゃない? もっと幅広い年代かも知れない」
「〝DISCO〟? クラブのこと?」
「あんた、クラブに行ったことがあるの?」
「ないよ……ほんとにない」って言いながら
「でも、友達は行ったことがある人いるよ」と言ったので、少し驚いた。
高校一年のくせして。
「凄いね、今の若い子は」と、言い方が年寄りじみてると自分でも思ったが、ノンにやはり言われた。
「なに年寄りみたいな言い方してんのよ」
私もクラブに誘われたことがある。けれど行かなかった。
変な背伸びはしたくなかった。大学生になれば自然と行くようになるんだと思っていた。
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