第9話 学校ー1

 次の日、学校に着くと、早速さくらが

「アン、大丈夫? しばらく休めばいいのに」

「そうはいかないでしょ」

陽菜も加わり、

「顔を見たら安心した」と言ってくれた。


 陽菜にはエンゼルのマスターと話した件を喋りたかったけど、さくらに話すと話が大きくなりそうでちょっと怖かった。


「あんたでも熱が出ることあるんだね」と、いきなり後ろから。美奈子だ。

聡美とみゆきもいる。

私たちは、この三人を〝悪玉三人娘〟って陰で呼んでる。


「何よ、あんたたち」、さくらが突っかけたが、

「さくら、ほっときなさい」と陽菜が言った。

私も、今はこの三人娘に関わる元気がない。

「行こう」と二人の背を押しながら離れた。

聡美がベーってしている。

(あの三人はいつかギャフンと言わせてあげる)


 昼食は、学校内でパンを売っているので、それをいつも買っている。

パンは早い者勝ちだ。


 急いで行ったけれど、お目当ての野菜とハムのサンドイッチはすでに無かった。仕方なく、玉子サンドにした。

机で食べていると、陽菜も玉子サンドを持ってやってきた。

「アンも? お目当ての売り切れてたね」

さくらはいない。あの子は顔が広いので、別のクラスにでも行っているのかも知れない。

チャンスだ。

陽菜にエンゼルに行った話をしよう。


「陽菜」

「何?」

「先週の金曜日、エンゼルに一人で行ったの。この前話したじいちゃんの友達、〝薫さん〟のことをマスターが知っているかもと思って。マスターとじいちゃんは友達だったから……」

「何となく、アンがモヤモヤしていると思ってた。それで? どうだったの?」

「マスターは薫さんを知ってた。じいちゃんが大学生のときにバイト先で知り合ったって」

「えっ、そんなに前?」と陽菜は驚いたように言った。

「うん、陽菜も〝そんなに前〟って思うでしょ」

「うん、おばあさんが亡くなってからの友達かと思った」と陽菜が答えた。


 エンゼルでの光景を思い浮かべた。

「今思い出したけど、あたしが薫さんの話をマスターに聞こうとしたとき、マスターと奥さんが、何か目くばせして、奥さんが首を横に振ったの」

そうだ、はっきり思い出した。確かに首を横に振った。

「何か変だった」


 陽菜はそれを聞いて、少し黙ったあと

「薫さんって人は、アンのおじいさんの友達、それだけじゃない気がする」

「えっ、それだけじゃない?」

「うん」

「どういうこと?」

「それは分からないけど」


 もう一度エンゼルに行ってみよう。

「陽菜、エンゼル付き合って!」

「分かった、いいよ、付き合う。ただ、今日の午後は部活があるので、明日でもいい?」と、申し訳なさそうに陽菜が言った。


 陽菜はバスケ部に入っている。

何度も試合を見たことがあるが、三点シュートが得意な得点王、部にはなくてはならない存在だ。

下級生の女子には陽菜のファンが結構いる。陽菜は私から見てもベリーショートでボーイッシュ、格好いい。


「うん、じゃ明日の帰りに。確か、さくらは部活だったはず」「さくらに内緒って言うわけじゃないけど……」

「大丈夫、さくらにはまた話そうよ」と陽菜は言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る