第6話 エンゼルー2
エンゼルのドアの横に塗装の剥げた天使がいる。
ドアは自動ドアなんかじゃなく、これも塗装が一部剥げた固い木で出来ている。
いかにも〝昔ながらの喫茶店〟ですと、誇示しているように思える。
重いドアを開けると、マスターがいつもの恰好で
「いらっしゃい! アンちゃん昨日は大変だったね」と言ってくれた。
「マスター、ご参列いただきありがとうございました」と私はお礼を言った。
「浩ちゃんとは長い付き合いだからね。寂しいね」とマスターはしんみりとした表情になった。
店の中には三人ほどのお客さんがいた。
エンゼルが満員になったのを見たことはない。
ほとんどの客が常連で、それぞれ座る場所を決めている。
私たちも、一番奥のいつもの四人席に座った。
うちの学校は校則があまり厳しくなく、自主性を重んじる校風で、制服はあるが着なくてもいい。そのため、ほとんどの生徒が私服だ。
帰りに、喫茶店やお団子屋さんなどに寄って何かを食べて帰る生徒は多い。
「今日はどのパフェにしようかな? ねえ、二人は何にする?」と、さくらは楽しそうだ。
陽菜は頼りになる存在だが、一方さくらは、私が悲しい時やつらい時でも、それを忘れさせてくれる明るさがある。さくらの笑顔に助けられたことは多い。
「私はフルーツパフェにする。アンは?」
「陽菜がフルーツパフェなら、私はチョコレートパフェにする」。さくらが
「アン、珍しいね。じゃーあたしはプリンアラモード」。ガクッ。パフェ食べるんじゃなかったの?まあパフェの同類かも知れないけど。
マスターは注文を聞く間もニコニコとしていた。
「了解!」マスターが奥に向かって注文を繰り返した。作っているのは奥さんだ。
そうだ。マスターはじいちゃんの古い友達だから、もしかすると薫さんのこと知っているかも知れない。
(今度、一人で来て聞いてみよう)
「はい、お待たせ」
コーヒーや紅茶などの、シンプルな〝カップと液体〟と違って、パフェは見た目がはでやかで、目で美味しさを感じる。
食べようとしたら、
「ちょっと待って」と、さくらがスマフォを構えた。
「何度も撮ってるでしょ」と私が言ったら
「いいのいいの」って、またSNSに上げている。
作業が終わって、ようやく三人で
「いただきます」と食べ始めた。
美味しい、いつ食べても美味しい。アイスも生クリームも程よい甘さでほんとに美味しい。
「アン、チョコレートシロップのところ、少しちょうだい!」、半分食べたさくらが言った。
「はい、どうぞ」
いつものことだ。必ず人のも欲しくなる。
「アン、今日は朝から少し変だよ。何考えてるの?」と陽菜が言った。
確かに自分は少し変だ。なぜか薫さんが頭の中にずっといる。どうしてかは分からない。食べていたさくらも
「確かにアンは変。お葬式で疲れちゃった?」
「うん、そうかも知れない」と答えた。
ほんとにそうかも知れない。
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