第2話 別れー2

 火葬場に来る前の告別式。


「最後のお別れです」と担当の方が出棺前に言った。

私は、お母さん、お父さんと一緒にじいちゃんの顔を覗き込んだ。

じいちゃんは化粧してもらったためか、ちっとも死んでいるように見えなかった。

突然起きて「アン、今日は何してた? 楽しかったか?」って言いそうだった。


 涙が自然とこぼれて頬に伝わった。

「アン、大丈夫?」お母さんがハンカチをくれた。

私と話すとき、いつもじいちゃんは笑っていたので、笑っていない柩の中のじいちゃんは、よそよそしくて、じいちゃんじゃない気がした。


 柩の中のじいちゃんの体の周りに近親者で花を入れた。

花の上に、じいちゃんが大好きだった音楽の歌詞カードも入れた。

じいちゃんにどうしても〝上〟で聴いてもらいたかったから。

本当はCDを入れたかったけど、燃えないものはダメと言われた。


 じいちゃんの影響で私は〝DISCO音楽〟が大好き。

じいちゃんが一番好きだと言っていたのは、アース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth,Wind & Fire)の「セプテンバー(September)」だった。私も好き。


 じいちゃんのCDを借りてこの曲を友達に聴かせると

「アンのおじいさん、こんなの聴いてるの? 演歌じゃないの?」って驚いてた。

「格好いいね!」

「どこかで聴いたことある」

「誰の曲?」

「アース・ウィンド・アンド・ファイアー」と教えた。

「アースって蚊?」

「あんたってバカなの?」と言ったけど、まあいい。


 イントロはギターとパーカッション、軽やかな弾む感じで、そのあとブラスが入って来て盛り上がり、歌が始まる。

同じ年の子はきっと知らない。こんなカッコいい曲を知っているのが誇らしかった。


 おばさんと親戚の女性たちは、じいちゃんの顔を見て

「顔きれいね」

「ほんとほんと」

と、じいちゃんとの別れを楽しんでいるように見えた。

従姉妹のノンは所在投げで、表情がない。

この子はいつもそうだ。馬鹿みたいにはしゃぐときもあれば、全く関心を示さない時がある。じいちゃんが亡くなった病室ではあんなに泣いていたのに。


 親族の列の最後、着物を着たいかにも品の良いおばあさんに目がいった。


「あの人誰?」

私が小声でお母さんに聞いたら「後でね」と言われた。

その人はじいちゃんを見つめて、かすかに微笑んでいた。

それは、まるで赤ちゃんを見るような優しい目だった。


 何人かで柩に釘を打った。お母さんに言われて、私もトンと打った。

その柩を男の人たちが持って、参列者の間を通り霊柩車に乗せた。


 喪主のお父さんが霊柩車に乗った。

そのあとを、お母さんと私が乗ったハイヤーが続いた。他の人たちはマイクロバスだった。

ハイヤーの中、お母さんも私も何も話さず、ただ前を見ていた。二十分くらい走っただろうか、車が火葬場に着いた。

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