その笑顔の向こう側
@gekka_0906
第1話
テーマ「その笑顔の向こう側。」
月あかり程度の暗い部屋。
僕がいて、君がいる。
ベッドの上で、ただ、ただ、あえぐ君。
荒い息遣い。
「もうっ。。。。だめっ・・・!」
そういうと君は達した。
僕も君の最深部で果てた。
荒い呼吸を戻そうと、必死に息を吸ったり吐いたりする君。
同じように僕も習った。
息が整ったころ、君は言った。
「ねぇ、また会おうよ。」
僕はにこりとだけ笑って、そのままシャワーへ向かった。
シャワーを浴びると、すぅっと頭の中がクリアになっていった。
「なんて返事しようかなぁ。」
シャワーの音でかき消えるほどの声でつぶやいた。
シャワーを出ると、君はベッドにまだ裸で横たわっていた。
「先にシャワー浴びてごめん。シャワーいいよ。」
そういって、シャワーを促した。
「じゃぁ、浴びてくるね。」
そういって、ベッドから降りてシャワーへ向かった。
すると、ふと、こちらを振り返って、こういった。
「ねぇ、また会おうよ。」
そういうと、今度こそシャワーへ入っていった。
君がシャワーを浴びている。
僕は煙草を一本吸い始めた。
――君も同じなんだね。
心でそう呟いて、部屋を出た。
携帯に複数の新着メッセージ。
一つ一つに返事をして歩き出した。
部屋を出て少し歩くと、駅が見える。
そのまま改札を通り、電車に乗って、二駅ほど先で降りる。
改札に向かって直進。
すると、見覚えのある顔が改札の外にあった。
僕は何も言わずに、改札を通る。
そして見覚えのある子にわざとらしく声をかけた。
「どうしたの?こんなところで。」
君はにこにこと嬉しそうに笑顔で言った。
「遅いよぅ。待ってたのにぃ。」
そうだ、さっき返事を返したんだ。
16:23 [会いたいなぁ。今日暇だったりしない?]
17:58 [空いてるよ。じゃぁいつもの駅で。]
こんな感じで。
そうだった。
君とは何回目だっけ?
名前が思い出せない。
顔を見たのになぁ。
まぁいいや。
「それで?僕と念願かなって会えたわけだけど、何かあったの?」
君は僕の右側に回り腕を組んだ。
「もう、女の子の口から言わせる気?」
と少しすねた顔をした。
あはは。ごめんね。と返して、頭をなでる。
何がそんなに楽しいのかと思うほど、君はにこにこ笑っている。
「とりあえず、何か食べようか。」
僕がそういうと、君はSNSを開いて
「これが今めっちゃ話題のスイーツ!これ食べたーい!」
いいよ。とだけ答え、頭の中は、別のことを考えていた。
――ミーハーめ。
適当にスイーツを食べて、いつもお決まりの部屋に行く。
部屋に入るなり君はキスをしてきた。
「今日は私はお姫様ね。」
そういうと、右足を出してきた。
「仰せのままにお姫様。」
右足を軽く持ち上げて、薄ピンクのパンプスを脱がせた。
左足も同様に。
次にお姫様抱っこでそのままベッドへ運ぶ。
コンビニで買った、缶チューハイを口に含みそのまま君の口の中へ流し込む。
「うふふ。本当にお姫様になった気分。もう一回。」
と、おねだり。
「仰せのままにお姫様。」
缶チューハイを再び口に含みそのまま君の口の中へ流し込む。
君が、ごくりと喉を鳴らして飲むのを確認した後、優しくベッドに沈めた。
楽しんだ後、君は必ず一緒にシャワーを浴びたがる。
シャワーを浴びて僕は煙草に火をつけた。
「もう、会うのはやめよう。」
僕がそういうと、君の声はひゅっと音を立ててそのあとはすすり泣きに変わった。
「ごめんね。じゃぁ。」
僕は服を着替えて、部屋を出た。
僕の後ろからは、行かないで。やだ。と泣き叫ぶ君の声だけが響いた。
携帯を確認すると、また複数の新着メッセージ。
確認だけして、その日は家に帰った。
自分で言うのもなんだけど、僕部屋はおしゃれな方だ。
特別インテリアにこだわりはないけど、過ごしやすさを追求したらそうなっただけだ。
「はぁ、疲れた。」
誰もいないのについ、漏れてしまった。
そのとき携帯がなった。
電話だ。
今日はもう、誰とも話したくない。
そう思いながら、携帯の画面を見ると登録外の番号からだった。
「もしもし?」
――誰だろう?
そう思って、電話を取ると、突然男の声で、
「てめぇ!俺の女に手ぇだしてんじゃねえぞ!」
と怒声が飛んできた。
なにやらわめいているが、こちらが黙って聞いていると、電話の後ろから聞き覚えのある声がした。
あぁ、さっきの子か。
「やめて!私が悪いの!『 』くんは関係ないの!!」
「うるせぇ!後で覚えてろよな!」
と聞き覚えのある声に対して怒鳴った後、電話に戻ってきた。
「・・・てめぇ、次に俺の女と会ったらただじゃおかねえからな!」
と、RPGの雑魚も真っ青な雑魚らしいセリフを吐いて、切れた。
後ろで聞こえたあの聞き覚えある声。
でも顔も名前も思い出せない。
でも、いいや、もう二度と会わないだろうから。
そう思いながら、その日は眠りについた。
朝、目が覚めた僕は、とりあえず携帯をチェックした。
時間は6:59。
――まだこんな時間か。
複数届いてるメッセージを流し読みしていると、その中にあるメッセージを見つけた。
「今夜17:00、例の子たちとセッティングした。お前も必ず来いよ。」
同じサークルの奴だ。
サークルと言っても、サークルらしい活動といえば、『別の大学との交流』だ。
聞こえはいいが、要は合コンだ。
朝の身支度を整えて、適当にパンをかじりながら、返事をした。
「わかった、必ず行くよ。」
そのあと、届いていたメッセージに一つ一つ返事を返す。
1:02[明日遊ぼうよ(*´ω`*)]
7:22[ごめん、今日は大学行かなきゃ。]
一つ目完了。
2:17[寂しいよぅ。]
7:23[ごめんね。今日は大学行かなきゃ。]
二つ目完了。
6:27[今日大学来る?確か授業同じだったよね?]
7:24[行くよ。確か一緒だったはずだよ。]
三つ目完了。
「ふぅ。」
そうして、自分の部屋を出た。
大学と自分の部屋はそんなに離れてはいない。
歩いて、15分といったところだ。
「おはよー」
「あ、ねぇ、昨日のドラマ見た?」
「げー!今日アレじゃん、最悪ー!帰ろうかなあー」
「サークル行きたくねー」
「俺大学やめてぇ」
いろんな会話が聞こえてくる。
そんな会話を流し聞いてたら、何人かの女の子の集団がこちらを見ていた。
にこりと笑って、手を振ると、
「きゃー!」
と言って顔を赤らめて走って行ってしまった。
――なんなんだ。
そう思いながら、朝返事をした君と待ち合わせた場所に行く。
「『 』くん、おはよ!」
「おはよう。」
そういってにこりと笑顔で返事をした。
君はたしか・・・・・。
名前なんてどうでもいいか。
適当に君の話を聴いて相槌を打ちながら、適当に授業を受けた。
授業中に携帯が震えた。
10:48[その子だれ?]
10:49[その子って?]
10:50[今隣にいる子]
10:51[同じ授業取ってる子だよ]
10:51[そんなのわかってる。そういうことじゃなくて。]
10:52[彼女じゃないよ。ただの友達」
10:53[後でちゃんと説明してよね。]
返事を返そうとして、授業の終わりのチャイムが鳴った。
隣の君は
「このあと別々だねー。じゃぁ、またあとでね。」
そういうと、教室のドアで待っていた女の子たちとどこかへ行った。
――僕も移動しなきゃ。
席を立って、ドアに向かう途中で、後ろから服の裾を引っ張られた。
「どこいくの?ちゃんと説明して。」
そういって涙目でこちらを見上げてる。
「とりあえず、移動しよう。」
そういって、さりげなく手をつないで君を教室から連れ出した。
あまり人が来ないベンチに座って、思い出し始めた。
たしか、君は―――
「私だけって言ったのに!!どういうこと?!」
急に怒り出した君。
えっと、君は確か。
誰だっけ?
まぁいいや。
「落ち着いて?」
僕はにこりと笑って見せたが、君は大粒の涙を流しながら、つづけた。
「へらへらしないで!ちゃんと説明して!」
――君の名前も思い出せないし、さっき隣に居た子の名前も覚えてない。
心の中でそう呟いて、
「うん、友達だよ。」
と答えておく。
「嘘!あの子ともやったんでしょ?!」
すごい剣幕だ。
「うん、だから友達。」
「最低!!!!!!」
大きな声でそう言うと君は泣きながらどこかへ走っていった。
――ふぅ。友達が一人減ったな。
そう思いながら、喫煙所に向かった。
喫煙所にはたまたま、朝メッセージを返した、同じサークルの奴がいた。
「おう。見てたぜぇ?盛大に泣かれてたな。」
「趣味が悪いぞ。覗いてたのか。」
そういいながら火をつけた。
「なぁ、いい加減女遊びやめたらどうだ?今夜も例の子たちとセッティングしたんだからよぅ。そろそろ本命作れよ。命がいくつあっても足りないぜ?」
奴はあきれたように僕に言ってきた。
「お気遣いどうも。」
もう一度にこりとわらって煙を吐く。
僕は俗にいう、「ヤリチン」と呼ばれる類の人間なんだろう。
今までにもこういうことはあった。
実は本当に刺されそうになったことがある。
僕は基本的に相手の名前を覚えない。
覚えないのは感情が入ってしまうから。
感情が入ってしまうと、いろいろ面倒なことが多い。
そんな気がして、あえて名前を覚えていない。
女の子はかわいいが、どうしてそんなことをしているのか聞かれたら返事に困る。
僕もわからないからだ。
なんとなく相手の求めてることがわかる。
どうしてほしいか。
どう触ってほしいか。
どんな言葉が欲しいか。
ただ、相手の求めてるものがわかったから、それを行動に移しただけだ。
「私だけだよね?こういうことするの。」
同じセリフを何度聞いただろうか。
僕はそれに対して、にこりと笑って頭をなでるだけ。
それだけ。
何も言わない。
あとは相手が解釈してくれる。
それで、さっきのようなことが起こるんだけど。
「そういや、例の子たち、粒ぞろいらしいぞ!これは期待せざるを得ない!!」
そういってにかっと笑う奴。
「お前こそ本命とやらをみつけないのか?」
ふと、疑問をぶつけてみた。
「俺は可愛い子と楽しくすごせりゃそれでいいんだよ。お前とは違うの。」
そういうと、奴の携帯が鳴った。
電話の内容からするに例の子だろうか?
別段興味もないけど。
電話がおわり、奴がこちらを向いて真剣なまなざしで言ってきた。
「おい、今夜俺は本気で行くぜ。ぜったい例の子、落とす!」
そんなに可愛い子なのか。
まぁ、いつもと変わらずに過ごせばいいか。
そんなことを思いながら、午後も授業を受けた。
―――――17:00 居酒屋 某所
「「「カンパーイ!!」」」
カンカンッとグラスがぶつかる音がして、各々口をつける。
「あれ?一人足りないけどいいのか?」
今日は確か3:3だったはずだ。
一人相手も、こちらも足らない。
「あぁ、大学にいたとき、電話があったろ?その時、一人来れなくなったって言ってたから、事情話して、あいつにはキャンセルしてもらったんだ。」
続けて小声で言ってきた。
「つまり、俺は例の子だけを狙えるってわけ。お前も一人いるんだから、仲良くしろよな。」
そういって、いつものようにニカッと笑って、女の子に向き直った。
「じゃぁ、自己紹介からしようか。」
お決まりのパターンで進んでいく。
自分に順番が回ってきたとき、ふとなんだか急に疲れてしまった。
「僕は―――」
自己紹介をしようとしたとき、グラスの割れる大きな音がした。
音の下方向へ目をやると、一人の女の子が客に向かって平謝りしている。
手が滑ってしまったんだろうか、グラスを置く前に落としてしまったらしい。
客はものすごい剣幕で女の子に向かって怒鳴っている。
「やだぁ、ドジね、あの子・・・。あぁいう子、嫌いなのよね。」
僕の向かい側の子がそう呟いた。
奴が狙っているという、えっと名前なんだっけ?
その子も怪訝な顔をしてる。
奴は一度白けた雰囲気を戻そうと必死に盛り上げようとしてるのがうかがえる。
「君はなにか失敗して怒られたことないの?」
僕はちょっとした興味で聞いてみた。
「あたしは、失敗してもなんだか許してもらえちゃうの。だから、あんなふうに平謝りなんてしたことないよ。」
そういって、ケラケラ笑った。
向かい側の子はよく見ればそれなりに可愛かった。
奴は僕たちに興味も抱かずに熱心に例の子に話しかけている。
例の子たちはお酒があまり強くないのか、酔ってしまったらしい。
僕たちもそれなりに飲んだので、ほろ酔いではあるが。
外で少し酔い覚まししようと、一度会計を済ませ外に出た。
「とりあえず、連絡先交換しようよ!」
奴が楽しそうに、例の子に言うと、例の子もまんざらでもないのか
「いいよ~。」
と答えていた。
「あたしたちはどうする?」
と向かい側に座ってた子が聞いてきた。
「君はどうしたい?」
と聞くと
「じゃぁ、交換しましょ。」
「いいよ。」
こんなのいつものことだった。
合コンして、連絡先交換して、意気投合すれば二件目。
あるいは部屋へ。
僕たちはというと、
「じゃぁ、また連絡するね!」
「うん、また。」
そういって、駅で別れた。
携帯を見ると、複数の着信。
登録してない番号からだった。
折り返すと、聞き覚えのある男性の声だった。
父だ。
「飯はちゃんと食べてるか?生活費は足りてるか?」
「大丈夫ちゃんとやってるよ。安心して。」
「ならそれでいい。」
それだけ言うと電話を切った。
時折、父から心配の電話がかかってくる。
僕には母がいない。
物心ついたときに亡くなった。
男で一つで僕を大学まで行かせてくれたのだ。
感謝している。
ただ、それだけだ。
特別何の感情もない。
父との電話で、酔いがさめてしまった。
複数来ていた新着メッセージも読まずにその日は家へ帰った。
よく朝起きると、すでに13:00
大学は完全に寝坊だった。
携帯にはたくさんメッセージが来ていた。
「今日は学校来ないの?」
「最近あいてしてくれないじゃーん。相手してよー。」
などなど
ため息をつくと、返事を始めた。
5つ返事を終えたところで、昨日向かい側に座っていた子からメッセージが来ていた。
23:15[今日はありがとう。楽しかったよ。よければ明日二人で飲まない?]
特に断る理由もないので、承諾の返事をして、とりあえず身支度をした。
身支度をしながら思ったことがある。
僕は感情の抑揚があまりない。
つまり、思いっきり怒ったり、泣いたりしてないのだ。
母が亡くなった時でさえ泣かなかった。
君たちは僕の何にひかれたんだい?
僕はそんな疑問に駆られて、メッセージに追加の質問をぶつけてみた。
[君は僕の何が良かったの?]
返事はみんな一緒だった。
「『 』くん、かっこいいから。」
―――顔か。
自分ではイケメンだなんて思ったことないが。
君たちが言うんだ、そうなんだろう。
ただ、みんな「僕」ではなく、「顔」を見ていた。
そう思ったら、腹立たしくなってしまって、片っ端からブロックした。
ただ一人だけ、違う返事をくれた。
今夜会う予定の向かい側にいた子だ。
[あたし、あなたのことまだ何も知らないもの。そんなのわからない。]
僕は君の名前さえ憶えていないのに。
君は僕を知りたい。と思ってくれてるんだね。
そう思うとなんだかうれしくなった。
心が温かくなった気がした。
僕は誰かににこりと笑ったその先を見てほしかったんだ。
笑顔ではなく「その先を見てほしかった。」んだ。
―――17:00 居酒屋 某所
「おまたせ!」
そういって、君は席に着いた。
「大丈夫だよ。そんなに急がなくても。」
僕は、そういって、にこりと笑った。
すると君は真顔になりこういった。
「ねぇ、そうやって笑うのやめなよ。なんていうか、本当に笑ってないみたい。」
そこで、僕は、はっとした。
本当に笑ってない。と言われたのは初めてだ。
本当に笑うって何だろう。
その日は何も覚えてなかった。
いつ解散して、いつ家について、寝たのかも記憶になかった。
僕は思った。
この子は違うのでは?と。
――この子をもう少し、知ってみたい。――
初めての感情だった。
その日は僕から誘ってみた。
[今から会えないかな?]
返事はすぐ来た。
[いいよ。じゃぁ、いつもの居酒屋で!]
その日の僕はなんだか晴れやかだった。
「おまたせ!―――ちゃん。」
fin
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