第05話 モイモイ、イモイモ!?
モイーは食事室に移動すると、急いで食事に取り掛かった。
揚げたての熱々が美味しいと言われたら、ゆっくりとして冷えてしまうなどということは避けなければならない。
日本酒にワイン、エールなど、普段モイーが飲む酒を用意して、それぞれに飲み合わせを確かめる準備が整った。
「それではいただくか。イモ料理と聞いた時には、まさかこのような物が出てくるとは思わなかった」
テーブルの上に載っているのは、二つのイモ料理。
まずは、モイーは魔性のカリカリポテトなるものに食指を伸ばした。
モイー芋自体がすこし大きめのため、八等分されたそれも、一般的な芋に比べれば少し大きい。
それを口の中に放り込む。
「ホフホフッ、アフイなっ……! ……むっ……!? ぬあんだこの味は!? これが本当にイモなのか!?」
「調理を見ていただいた通り、芋そのものですわ!」
カリカリ、ザクザクっとした、イモとは思えない固い歯ごたえ。
中からはホコホコとしたイモ本来の柔らかさを感じる。
口の中に揚げた油とイモの甘み、そして調味料に使われた塩の味が舌の上を広がっていく。
「この食感、この旨味、味わい! どれを取っても、我の知るイモとは違う……! ウモイッ!!」
「ホーッホッホッホ! 当然でしてよ。さあ、モイー卿、お酒も飲んでみてくださいまし!」
今ばかりはやけに高慢そうなクローシェの態度も、モイーには気にならなかった。
勧められるまま酒に手を伸ばす。
「うむ……おおっ、熱々のイモと油に慣れた口に、酒がじつに合うな! そして、酒を飲んだあとにカリカリポテトなるものを食べると、これがまた実に旨い!! この、ガリガリとした固い食感が、クセになる」
「ちょっと揚げすぎなぐらい丁寧に揚げるのが大切ですの」
ただ固いだけではなく、ほこほこのイモの感触も楽しめるのが良い!
特にこれはエールと合うようだ。
個人の家では油は高いから、さほど調理されることはないだろう。
だが、大衆屋台で大量のイモを揚げている店がでる未来が見えた……!
「油の甘味と芋の甘味と旨味、そして塩の組み合わせはまさに革命的だ! 酒のアテの無限ループ! 暴力的とさえ言える旨さである! イモ、イモが美味い! イモイモイモモイモイモイー!!」
気づけば皿にたっぷりと盛られていたカリカリポテトが、残りわずかになっていた。
元々がイモであり、たっぷりと油を使っていることもあってか、お腹がかなり膨らんできていることにも気付く。
そして、己が興奮しすぎたことにも気づいた。
渡たちがニヤニヤと、してやったりといった表情で見つめているではないか。
特にクローシェと呼ばれた奴隷はよほど嬉しいのか、笑み崩れていた。
モイーは咳払いを一つして、平静を取り戻した。
「オホン、つい我としたことが、夢中になって食べてしまっていたな。恐るべし魔性のカリカリポテトよ」
「魅惑のポテトサラダも負けず劣らずの美味しさですわよ!」
「うむ、そちらもいただくか」
思っていたよりも酒が進んでしまった。
あくまでも今回はアテの試食だと言うのに、あまりにも組み合わせが良すぎる。
モイーはポテトサラダに目をやった。
先ほどのカリカリポテトフライも芋らしい色合いではなかったが、こちらもタダの蒸かしイモに比べると華やかだ。
イモの黄みがかった白に、ベーコンの赤、胡椒の黒、卵の黄色。
皿の上に菜っ葉が敷かれ、その上にこぶし大ほどの大きさで魅惑のポテトサラダが盛られていた。
「ふむ……」
「どうでして?」
「すまんな、もう一口いただく……うむ……これは……ほう……なるほど、そういうことか……うむうむ……いやしかし? ……ほほう……そうくるか……」
「モイー卿…………?」
モイーは特別な感想を漏らすことなく、フォークでポテトサラダを口に運び続ける。
その度に一口お酒も飲むものだから、少しずつモイーの顔には赤みが増して、今はかなりの赤ら顔になっていた。
「イモ……これがイモ……? モイー芋? これではまるで……別物のようではないかッッ!」
「ヒッ!?」
「これが、これがモイー芋の真価だというのか!? まったりとしたコクとポテトのどっしり具合、芋本来の甘味を活かしながらも、ゴロゴロっとしたベーコンの旨さ! ピリッとした刺激をくれる胡椒の煌めき! 芋! これがイモっ!? イモモ!? イモモイ!? モイモイイモモイ!?」
イモ、イモモ、イモイ、モイモイ、モモモイ!
モイ! モモモイ!
「主様、どうしましょう。こ、壊れてしまいましたわ……!」
「し,しらん。クローシェが責任を取って落ち着かせてくれ」
「無理ですわ!! そうですわ、調理長!? 長いお付き合いなのでしょう、こういう時どうされてるんですの!?」
「ああ……芋……これが真の芋の真価。神の祝福が、美食神の祝福が見える……!」
「ダメですわ! こっちも使い物になりませんわ!?」
「アハハハハ、イモイモモイモイだって! アハハハハ!」
「ちょっとお姉様、爆笑してないで助けてくださいまし!」
「アタシ知らニャい。落ち着くまで待つしかないんじゃない?」
イシシシ、ニシシシとお腹を抱えて笑うエア。
オロオロと見渡すクローシェ。
モイ、イモモイと叫びながらポテトサラダとポテトフライを食べながら酒を煽るモイー。
神に感謝を捧げる調理長。
そして呆れて途方に暮れる渡とマリエル。
混迷を極めた空間で、ステラが自分たちの前にも並べられたポテトフライを一つ口に運ぶと、
「あら……本当に美味しいですわぁ」
と呟いた。
そして永遠とも思える時間が過ぎ、ようやくモイーがまともな思考を取り戻した。
酒がまだ残っているのか、それとも醜態が恥ずかしいのか、赤い顔では判別がつかない。
それでもモイーは表情だけはキリリと引き締めながら、ポテトフライの欠片を頬につけたまま言った。
「我はこれまでモイー芋を特産品としながらも、その素材の味を活かす努力が足らなかったようだ。酒のアテを持って来いという我の命に対して、とても優れた回答だった」
「オーッホッホッホ! わたくし、大! 勝! 利! ですわ!」
一時はオロオロとしていたクローシェも、直々の褒め言葉には鼻高々だっただろう。
普段少し活躍が足らないとボヤいていたから、なおさら嬉しかったに違いない。
豊満な胸を反らしてニンマリと笑みを浮かべた。
うーん、デカい。
渡はあれだけの醜態を晒していれば、クローシェの態度も許されて不敬罪にはならなさそうだ、と安心しながら、モイーの続く言葉を聞く。
「うむ、そこで褒美として、発案者の名を取ってクローシェフライ、クローシェサラダと呼ぶことにしよう。料理人として名を残すのは誉れである。ありがたく受け取ると良い」
「ほげっ!? わ、わたくしこれでも黒狼族の戦士ですのよ! 料理人として名を残したら、お父様とお母様に殺されてしまいますわ!」
「ニシシ……っていうかクローシェが揚げられるみたいじゃない?」
「お姉様!? 笑い事じゃありませんのよ!? モイー卿、申し訳ないのですが、どうか元々の名前でお願い致します!」
「むっ、そうか……では魔性クローシェカリカリポテトと魅惑のクローシェポテトサラダだな?」
「違います! まったく話が通じておりませんわ!?」
「冗談だ」
「お貴族様だからって言って良い冗談と悪い冗談がありますわー!?」
クローシェのアオーン、という遠吠えが領主館に響いた。
なお、名前はちゃんとクローシェの要望が伝わったらしい。
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クローシェ……くろうしぇ、苦労シェイ……苦労性……。
連休中はポケモンみたいなゼルダみたいなARKみたいなゲームとDBDってゲーム三昧で過ごしました。
花粉が飛散し始めていて、体調的にちょっとキツイですが、気持ち的にはリフレッシュできました。
さて、レビューや★、ギフトもまたいただいておりまして、いつもながら本当にありがとうございます。
心からお礼申し上げます。
有料ギフトいただいた方には、マリエル、両手恋人繋ぎSイラストを公開していますので、良ければ見てくださいね。
https://kakuyomu.jp/users/hizen_humitoshi/news/16818023213159118118
次回は『防諜①(仮)』、また地球での活動の予定です。
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