第28話 温泉で……

 久々に訪れた碧流町。

 国中から温泉の美容や健康効果を求めて、多くの観光客の訪れる景勝地の一つだ。


 相変わらず温泉上がりのしっとりと濡れ肌の観光客が道を歩いていたり、多くの露天や土産物屋が流れていたりと、賑わっていた。

 真冬の季節ということで、何かしら羽織っている人も多いが、防寒の付与の施されたい服を着ているのか、そんなに薄手で大丈夫かと思うような人も少なくなかった。


 海外の女優が授賞式などで着る、大胆すぎるほどカットされたドレスを着ている女性も何人も見かけた。


 すれ違う時に目に入って、渡はつい視線で追いかけてしまう。


「なんか……すごいな。寒くないんだろうか?」

「あれはご主人様、自分たちが付与術の品を豊富に揃えられる者だと権勢を示しているんですよ。ああいう人に失礼なことを働くと大変なことになりますから、ナンパとかしちゃダメですよ?」

「し、しないよ! しないって! 信じてくれよ」

「ニシシ、主は女好きだからなー。アタシたちがしっかり魅了しておかないと、フラフラ行っちゃいそう」


 そう言って、エアが渡の腕を恋人つなぎにした。

 同時に腕を抱き寄せて、豊満な乳房に挟み込む。

 柔らかな感触に包まれて、心地いい。


「まったくですわ! ただでさえわたくしたちで満足しないで、別の女性に手を出そうとするのですから」

「いいえ、あなた様の魅力は全世界の女性に届くべきですわぁ」


 たしかに綺麗な女性だったが、それは魅了されていたわけではない。

 ただただ、季節外れなまでに薄着だったから目が吸い寄せられただけだったのだが、皆はなかなか信じてくれなかった。


 いや、まあ自業自得だとは分かっているのだ。

 なんだかんだと女性ばかり、四人も奴隷を侍らせているのだから、女好きな男と指をさされても、渡には反論できない。

 まったくもってその通りです、と肯定するしかない立場だった。


 というか、ステラの考えは少し危うい。

 渡はそれ以上話が続かないように、温泉について話題を変えた。


「今日はマスケスさんに教えてもらっていた、別の浴場に行こうか。そこは少浴場ごとに分けられてて、貸し切れるらしいんだ」

「おおー、主が私たちの裸を眺めようとしてる。そんなにアタシ達の体が見たいんだ」

「不潔、不潔ですわ! 温泉であんなことやこんなことを……あわわわ……」

「違うって。これは世話になったお前らに感謝してだよ」


 ニマニマと笑うエアとは対称的に、クローシェは顔を赤く染めて、慌てだした。

 このあたりは以前から一貫して奥手な割に、妄想が激しい。

 いわゆるむっつりすけべという奴なのだろうか。


 慌てるとすぐに渡を変態だなんだと言ってくるので、一度わからせる必要があるだろう。


「クローシェ、すぐにそういうことに結びつける奴がエロいんだぞ」

「わ、わたくしがエロい? わたくしがエロぅぃいっ!?」


 なにやらショックを受けているクローシェだが、基本的にエア絡みでいつも余計な妄想をしている姿しか渡は見ていない。

 そういう意味では、渡に負けず劣らず脳内お花畑なのだが、どうも自覚がなくて困る。


 頭を抱えるクローシェがマリエルに慰められながら、温泉宿に入った。


 ◯


 温泉に浸かりに来たのは、二つの理由がある。

 一つ目は慰労をかねて。


 今回の宿はすごく高いのだ。

 もともとこの世界は、贅沢品はびっくりするぐらい高い。


 貧富の差が大きな社会というべきか、それでもマリエル達を連れてきているのは、お地蔵さんが壊れたときに、マリエル達にとても助けられたからだ。

 彼女たちが献身的に支えてくれなければ、渡はもっと狼狽えていただろうし、正確な判断もできなかったに違いない。


 二つ目は温泉の素の補充を行うためだ。

 今回お地蔵さん、ゲートの修繕はできたが、異世界との行き来ができなくなることは、あまり予想していなかった。


 今後は万が一を考えて、ある程度の在庫を抱えておくべきだろうと考えた。

 榊原千住と連絡を取ってくれた綾乃小雪は、温泉の素の利用者であるし、十分なお礼も必要だった。

 彼女の協力がなければ、お地蔵さんの修復がどれだけできたか。


 宿で料金を支払った渡たちは、さっそく脱衣所に向かった。

 以前は多くの人が入る大浴場なのに対して、今回は貸し切りの少浴場。


 

 効果効能は太古の昔、神々が浸かっていたという王族御用達の場所から距離が開くほどに下がってしまうと言われているが、非常に近い温泉宿だ。


 脱衣所からサッと服を脱いで一番に浴場に来た渡は、外気の寒さに身震いした。


 四方を壁で囲まれた吹き抜けの温泉は、他の浴場などと同じく、源泉掛け流しだった。

 一度汲み上げられた湯が湯船に流れてドドドドド、と一定の音を立てていた。


 浴場はまだ午前ということもあって、明るい光が差し込んでいた。

 湯からはもうもうと湯気が立ち上っている。


 綺麗に切りそろえられた光沢のある石が湯船の表面に貼られていた。

 浴場は白い石が、湯船は黒い石で統一されている。


 夏場でも日本より少し涼しい異世界は、冬になると寒さがキツい。

 急いで桶で湯を掬うと、ゆっくりと体にかけた。


 同じ源泉を利用しているとはいえ、掘る穴の深さや距離、湯の流し方によって湯温度は変わる。

 この宿では前回利用した大浴場とか異なり、ややぬるめの長時間浸かれる温泉のようだった。


 じゃばっと音を立てて湯がかかると、温もりが得られてえも言われぬ心地よさがあった。


 掛け湯をしたことで、湯船に足先からゆっくりと入る。


「うお゛おおおおお……!」


 濡れたタオルを頭に乗せ、全身の心地よい温もりに包まれて、渡が声を上げた。

 いいお湯だあ!

 顔だけは寒いが、頭が冷えてそれもまた良し。


 自分だけ先に気持ちよくなっていて良いのかな、と思っていたところ、マリエルたちが浴場に入ってきた。


「あら、思ってたよりも広いですね」

「おー、いー匂い!」

「うう、わたくしがエロい……そんな、黒狼族の姫として貞淑に育てられたわたくしが……?」

「あらぁ、すごい。わたし温泉に入る機会って一度もなかったんですよねえ。初めての温泉が碧流町なんてすごいです」

「おおっ……すごい眺めだあ……」


 すでに何度も肌を重ねた相手ばかりだ。

 だというのに、脱衣所から浴場へと入ってきた四人の姿を見た時、渡は一瞬にして魅了された。


 それぞれが抜群のスタイルをしているが、一人として同じではない。


 エアは身長が高く、虎の遺伝子を持つためか体つきもしっかりとしている。

 強靭な骨格と靭帯に支えられた豊満な肉体は重力に完全に抗っている。


 マリエルは身長が一番低く、体つきはむっちりとした感じだが、だらしなさはまったく感じない。


 クローシェはよりしなやかな狼らしい肢体に。

 ステラは爆乳揃いの四人の中で、一番大きな膨らみを持っていた。


 ある意味では共通しているのが、腰の位置が高く脚が長いということだろうか。


 地面より深い位置に掘られた湯船のため、見上げるアングルになって、四人の下乳や股間がモロに目に入って、刺激が強すぎた。


「あー、主がエッチな目をしてる!」

「や、やっぱり主様が一番変態ですわ! すっごい目で見てましたもの! 野獣の目つきですわ!」

「あはは、あまり明るいうちに見られるとやっぱり照れくさいですね。今更なのは分かっているんですけど」

「あらあら。この体で良ければ、わたしは幾らでも見ていただきたいですわあ。あなた様、わたしの体、どうです?」


 ニヤニヤと笑うエアは視線を気にした素振りもなく、むしろ前かがみになって乳房を持ち上げ、渡を誘惑する。

 クローシェは鬼の首を取ったように元気を取り戻し、渡を笑顔で何度も変態と罵った。


 マリエルは恥ずかしげに体を隠すが、タオル一枚ではかえって扇情的になってしまい、ステラは恍惚とした表情を浮かべて、手を後ろに組んで、見せつけた。



 なんて刺激的な光景だ。

 このままだと温泉に浸かるのを楽しむこともできなさそうだった。


 ごくり、と渡は唾を飲み込み、太ももを閉じて、湯船に頭の先まで深く沈み込む。


 それからは随分なになってしまったとか。




――――――――――――――――――――

ストーリー的には何の進展もないけど、私が書きたかったからこれでいいのだ。


もはや知る人も少ないでしょうが、クローシェのセリフはストレイト・クーガー兄貴から。


次回は年末年始について。

それが終わると、ウェルカム商会であるイベントが起こり、教会に行くつもりです。

日本でも活躍するのでお楽しみに。


あと、ギフトをいただいてありがとうございます。

限定ノート更新しますね。


またコンテスト中ですので、★をいただけるととても助かります。

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