第19話 祠の秘密 上

 ゲートが開かなくなってしまった。

 原因の究明と新しい打開策の検討は必要とはいえ、今やるべきことも多くある。

 渡は自宅にて、次の行動の計画を立てていた。


 渡の前に、マリエルたちが並ぶ。

 誰もが緊張した顔つきをしていた。

 それだけ、事態を重く見ているのだ。


「ステラは付与の作成を頼む。『変化』の付与は全員が人の目を気にせずに動くためにも最優先で用意してもらいたい。重要な役割だ、頼んだ」

「はい。あなた様のご期待に、必ず応えてみせます。どうか安心してお待ちください」

「この前の試作品は一日もかからなかったけど、どれぐらいかかりそうだ?」

「変化の付与は、防寒などに比べると術式が非常に複雑になり、細かな作業が続きますの。ですから、一週間はかかりきりになると思います」

「十分だ。ポーションの製造はまだ先になるから、今は付与の作業に注力してほしい。変化が終わったら、『気配遮断』や『能力向上』『人払い』なんかにも取り組んでほしい」

「了解いたしました」


 重要な仕事を任せられて、ステラが恍惚とした表情を浮かべていたが、渡の状況が良くないことも理解している。

 珍しくステラは真っ当な受け答えをして、すぐに作業に取り掛かり始めた。


 ステラの部屋には彫刻の道具が揃えられていて、長テーブルの上に数々の形をした彫刻道具と、手元を柔らかく照らすライト、そして片目につける拡大鏡が置かれていた。

 今回の『変化』に使われるのは貝で、ブローチにして仕上げられる予定だ。

 柔らかく加工がしやすい上に、魔力の通りが良いとステラは言った。


 ステラが去って、四人になった部屋で、渡がエアを見る。

 今回の責任を感じ、一番気負っているのがエアだが、その真価が発揮される場面ではなかった。


「エアには今回、お地蔵さんを直せそうな人を探して欲しい」

「うん、わ、わかった」

「そんなに難しく考えなくて良い。ひとまずリストアップしてもらうだけでも良いんだ」

「アタシにできるかな……?」

「格闘技の動画とかサイトを調べたり、おやつを探したりしてるだろ。やることはそれと変わらないよ」

「そっか。それならなんとかなるかな」

「やることは単純でも、大切な仕事だ」

「うん! がんばる!」


 エアには検索を頼む。

 細やかな判断までは難しいだろうが、リストアップしてもらうだけでもかなり違う。

 それにパソコンやスマートフォンに対して、十分に使いこなしている点も大きい。

 クローシェは興味がないわけではないのだが、それよりはエアと一緒に何かをするほうが楽しいようで、このあたりの主体性に欠けたため、頼めない。


「クローシェは今回、単独で俺とマリエルの護衛を頼む。一人だと負担もあるだろうけど、今は猫の手も借りたいところなんだ」

「わかりましたわ!!」

「アタシは猫じゃないし! 虎だし!」

「悪い。そういう意味じゃないんだ。あくまでも慣用句ってやつだ」

「ふん、主が相手だって、ここは譲れないんだから」

「悪かったって。で、どうだクローシェ」

「オーッホッホ、わたくしにお任せくださいまし!」


 これまでクローシェには、あまり頼ってこなかった。

 どちらかといえば、エアとセットでの活躍を期待してきたためだが、今回はそうも言っていられない。

 胸を張り高笑いする姿は典型的なお嬢様キャラのようだが、同時に地球においてはその身体能力はとても頼もしい。

 特に優れた嗅覚は、きっと役に立ってくれるだろう。


 そして、マリエルだ。


「マリエルと俺は、もう一度お地蔵さんのチェックだ。修繕してもらうにしても、気になる点がある」

「ゲートとの関係性ですね」

「ああ。祠では不思議な模様が刻まれていたんだ。お地蔵さんだって、良く見たら何か・・あるかもしれない。その辺りをいい加減にして修繕したら、取り返しがつかない事態になる恐れが高い」

「もしかしたら、二度と家族とは会えなくなるかもしれないんですよね」

「……そうだ。だけど、そうはさせない」

「ご主人様、私たちはどうなろうと、ご一緒させていただきます。その覚悟があることは、忘れないでください」


 事前にマリエルとは気になる点を打ち合わせていた。

 まずは渡自身がもう一度、自分の目でしっかりとお地蔵さんを確認する必要がある。


 最初にお地蔵さんにゲートを開いてもらった渡だからこそ、気づけるなにかがあるかもしれない。

 人に任せるのはそれからだろう。


 マリエルはようやく両親と再会したばかりだ。

 エアだって故郷に家族を残しているだろうし、クローシェはエアを追って、なりゆきから奴隷になってしまった。


 ウィリアムには大きな迷惑をかけてしまうだろうし、モーリスとの約束を早速破ることになる。


 誰かの悪意で起きたこととはいえ、このままにしていて良いわけがない。

 渡とマリエル、そしてクローシェは、再びお地蔵さんの元へと向かった。




 そこで。


「マリエル、クローシェ。これを見てくれ!」

「あっ、これは!?」

「お地蔵さんに何かありますわ!」


 お地蔵さんに隠された秘密を見たことで、渡たちは、大きな手がかりを得ることになる。

 この発見が、後にさらなる飛躍へと繋がることになるのだった。


――――――――――――――――――――

 今回ちょっと短いんですが、更新優先で。

 色々締切が重なってて、更新キッツーって感じですが、平日は可能な限り更新頑張ります!


『Good End.1 掛け違えたボタン』を限定近況ノートに公開しました。

https://kakuyomu.jp/my/news/16817330667225629321


 IFルートのエンディング、私好きなんですよね。

 今後もちょこちょこ書くと思いますが、IFエンドについては限定のままになります。

 良かったら読んでね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る