第14話 山の管理人 後

 渡は只野とは分かれて車に乗り、山まで先導する。

 マリエルだけでなく、エアやクローシェ、ステラといった美女と一緒にいることに只野は最初ビックリしていた。


 つい先日、ポーションの存在について一部とはいえ報道されたばかりだ。

 この時点で渡たちは、安高の存在についても、その現在についても把握していない。


 安全面からも諜報面からもエアやクローシェは護衛として欠かせない。

 ステラは魔法使いの立場から山の管理役として、別行動を取るわけにも行かなかった。


「本当は別々に行動できたら良いんだけどな」

「仕方ありませんわ! いま主様が単独行動して何かがあったら、取り返しがつきませんもの」

「そうそう、アタシたちに任せてくれたらちゃんと守るから。その分はたっぷりと食べさせてくれたら良いし。……ケプッ」

「エア、お行儀が悪いですよ」

「まったく。アホほど食べやがって。お腹が出ても知らないぞ」

「大丈夫だもーん。アタシは胸とお尻は大きくなっても、お腹には出ない性質だし」

「よし、じゃあ今晩しっかり確かめてやろう」

「やん、主のエッチ」


 車を走らせることにも慣れ、道も十分把握していることもあって、会話をしながらでも順調にたどり着いた。

 そろそろミニバンの購入を検討しても良いかもしれない。


 車から降りた只野がキョロキョロと見渡している。

 冬の寒さにも負けないほどに、山は緑が生い茂っている。

 少なからず龍脈の影響を受けているのだろう。


「ここが只野さんに管理をお任せする山です」

「はあ、これは大変な仕事だ」

「急ぐ必要はありませんから、少しずつ畑を拓いていってください」

「ちなみに道具とかは?」

「家の方に用意していますよ。こちらです。水と電気、ガスもありますから、住むこともできます。冷蔵庫とか電子レンジとかも使ってもらって結構です」

「これは至れり尽くせりですね」


 納屋にはステラの作業場があるため、そちらには入ってほしくない。

 平屋建ての古家屋を作業場として使ってもらうことにした。


 休憩にも使えるし、問題はないだろう。


 畑の開拓にはモトダ製の五七CCエンジンの個人用耕運機と、マタギ製のエンジン式のチェーンソー。

 それに安全用の耐震手袋や防刃作業服なども用意していた。


 トラクターのような業務用は用意できなかったが、今後必要であれば導入する予定だ。

 只野がピカピカの耕運機を楽しそうに見つめ、ハンドルを触った。


 すでにガソリンも入れてあるため、その気になれば今すぐにでも作業を開始できる環境だ。


「無理はしなくて結構です。本当に小さくて結構ですから、春頃には小さな畑ができてると助かります」

「まあ一人で管理できる範囲でがんばりますよ」

「今後、木の伐採は俺たちも手伝う予定です。すでに予定地には目標を打ち込んでいるので、納屋に近いところから少しずつ始めて行ってください」

「わっかりました。お給金に負けないぐらいがんばります」


 只野は寒そうに手に息を吹きかける。

 よく晴れていたが、十二月の寒空と山の風は体温を激しく奪う。

 防寒対策は必須だろう。


 カイロを揉んでせわしなく足踏みする初老の男性を見ていると、一人でこんな仕事を頼むことに、どうしても申し訳ない気持ちが出てくる。

 説明書を読んだり、手順を確認する只野から距離を取り、渡はマリエルに話しかけた。


「今度こっそりと防寒の付与の品を渡すのも良いかもしれないな」

「せっかくですし、ステラさんの実験でしてもらいましょう」

「おお良いな。ステラ、やってくれるか?」

「はい、ようやくあなた様のお力になれて、本当に嬉しいです」


 幸せそうに顔をとろけさせているステラの対応を見て、渡は苦笑を浮かべた。

 とはいえ、ステラの役立ちたいという気持ちは間違いなく本物だ。

 今も目をキラキラと輝かせて、頬を感動で紅潮させていた。


 やる気があることはとても良いことだ。

 主人として、そのやる気を損なわせるような発言には気をつけるべきだろう。

 フリーランスとして働いていた時は、クライアントの言動に何度もやる気を削がれたことがあった。


「ステラにはとても期待してる。よろしく頼む」

「お゛っっっっ❤ おお、お任せください❤」


 ビクビクと体を震わせるステラは、ふらつきながら杖にすがりついた。

 内股になってガクガクと膝を震わせる姿には、安心して任せられる要素がどこにもない。


 感激に昇天しかかるステラの姿を見て、本当に大丈夫なんだろうか、と一抹の不安を抱いた渡だった。


 渡はステラから視線を外し、只野に近寄った。


「必要なものがあれば、遠慮なく希望を出してください。俺たちは毎日は来れないですが、しばらくは週一程度、顔を出す予定です」

「分かりました」

「もし知らない人が入ってきたら、すぐに出るように言ってください。どうしても言うことを聞かないようなら、すぐに連絡をくれれば、俺が対処します。只野さんが危険を冒して対処する必要はありません」

「……誰か来るんでしょうか?」

「今のところはその予定はありませんが、非常に希少な生薬なので、野菜泥棒みたいな犯罪者が寄ってくる可能性を危惧しています」


 只野が一瞬不安な表情を浮かべた。

 今後は防犯対策として、ステラに人除けの術式を張ってもらう予定だ。


 錬金通のような高精度、かつ大規模なものは用意できないが、山の入口付近だけなら十分に対応できるらしい。

 本来の入口以外から入ってくるものには対応できないが、何もしないよりは確実に良い。


 これもステラを頼らないといけないんだよなあ。

 仕事ぶりについては信頼している。高い技術は本物だろう。


 だが、今以上に頼って彼女はどうにかならないのか。

 一抹どころか、分厚い不安が胸を満たして、渡は今後のことが少し心配になってしまうのだった。


――――――――――――――――――――

いよいよ山の管理人も見つかり、畑の開拓も進みます。

こちらについては、他人に任せられるところが良いですね。


昨日、今日とギフトいただきました。

ありがとうございます。

限定近況ノート、次はマリエルのクリスマスを題材で書こうと思います。


次回、「ステラ、付与の作成(仮)」です。

お楽しみに。

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