第03話 ウェルカム商会に、ウェルカアアアム!
異世界の素材、器具を用いて、地球でポーションを製造することには成功したが、これでは内製化に成功したとは言えない。
薬草を自生させ、地球の技術で器具を生産・あるいは代用する。
そして、最後に量産化する。
口で言うには簡単だが、これを実際に成し遂げるのはかなりの難事になるだろう。
特に、前回購入した錬金術の道具は最低限度の物で、魔力や術式の付与といった高度な調合を行うには、別の特殊な器具が要ることもあるようだ。
「とりあえず、ウェルカム商会に顔出しだな」
「ステラの杖の件ですね。彼女が満足できる物があると良いんですけど」
「後は資金調達だ。なんでも幅広く取り扱ってるみたいだけど、どうだろうな。マリエルとクローシェの二人も、必要な物があれば、遠慮なく言えよ。別にステラだけ
「わたくしもよろしいんですの!?」
「お心遣いありがとうございます。ご主人様に可愛がっていただけるように、可愛らしい下着などあれば、希望してみますね」
「あ、うん……」
そういう意味で言ったわけではなかったのだ。
ステラの業務上の必要な物を大量に買っているから、釣り合いを取る意味での提案だったが、マリエルの色っぽい表情にクラっとして、渡は曖昧頷いた。
ウェルカム商会にはすでに人をやって、ウィリアムの予定を押さえてもらっている。
先日の錬金術関連の出費でかなり手持ちの資産を吐き出してしまった。
これまでの砂糖の代金を回収した上で、ウィリアムから杖や錬金術のための道具などが手に入るなら、調達したいところだ。
◯
久しぶりに訪れたウェルカム商会は、急発展に伴って店舗と人員の拡大を行っていた。
隣の古い民家を買収したのか、取り壊して、新しい店舗の一部として建ててしまうらしい。
活気のある所に人はますます寄り付くためか、店舗前には多くの人で賑わっていた。
渡たちは今日も裏口から入った。
どうせなら新しい砂糖と珈琲豆を搬入しておいた方が、ウィリアムも喜ぶはずだ。
エアとクローシェが業務用サイズの砂糖袋を冗談のように積み上げて運び、ステラが珈琲豆を運ぶ。
ステラは獣人族ではないはずだが、肉体に作用する魔法には長けているらしく、かなりの力を発揮できた。
「当店へウェルカアアアアアアアアアアアム! お久しぶりですワタル様!」
「おー! ウィリアムだ~! ウェルカーム!」
「おお、エアさんも、ウェエエ~~~ルカムですぞっ!」
「ニシシシ!」
「な、なんですかあ、この店はぁ……」
「こんにちは、ウィリアムさん。やっぱりこの店はこれがないと、来たって感じがしないな」
「店員一同が叫ぶ名物ですからね、ステラもすぐ慣れますよ」
初来店のステラがビックリして、少し引き気味だったが、マリエルが優しく取りなしていた。
たしかにビックリする挨拶だが、この大きな声が、異世界で初めて店に訪れたときには、拒絶されていないのだと、安心を覚えたものだ。
裏口から見える店内はそれなりに混雑しているが、渡たちはウィリアムの案内ですぐに商談室に案内された。
「あらためて、お久しぶりです。とても繁盛されてるんですね」
「ははは、それもこれもワタル様のおかげでございます。おかげで、長らく苦労をかけていた家内にも、最近ようやく良い目を見せてやれております」
「奥さんも喜んでいるでしょう」
「いや、それがあなたが商売繁盛して元気なら、それが一番の幸せ、なんて言ってくれるんですけどねウハハハ!」
「それは良かった……」
ウィリアムが笑み崩れながら、恥ずかしそうにコーヒーを飲んだ。
ひどい惚気話を聞かされている、と思いながらも、仲が良さそうで何よりだ。
少なくとも、贅沢を覚えたなどと愚痴を言われるよりはよっぽど良い。
ただ、出された珈琲が甘くて仕方がない。
砂糖の入れすぎではないだろうか。
このまま聞かされてはたまらないと話を変え、店の増設について尋ねた。
ウィリアムもこの辺りの空気を読む能力には長けているから、態度を真剣なものにすぐ切り替えた。
「店を大きくするだけでなく、当商会はよろず屋ですからね。取引量自体を増やしております」
「前に見た時も本当に色々ありましたよね」
「砂糖と珈琲のお陰で、利益だけでなく規模も大きくなりました。それだけに、高価な砂糖や珈琲は輸送にも気をつけないといけませんし、新しい店員も増やす必要がありますが、人を選ぶのには苦労しています。素行の悪いものを招くと、どんな被害を受けるか分かりませんからね。奴隷はその点安心ですけどね、悪い奴らってのは、その奴隷からもうまく情報を吸い出しますから、油断はできません」
店が大きくなれば何でも楽になるわけでもないらしい。
大きいなら大きいなりの苦労が生まれる。
「素行と言えば、裏路地とかは今も治安が悪いんですか?」
「相当風通りは良くなりましたね。モイー様が来て以来、景気が良いものですから。悪さをするより、まともに働いたほうがよほど実入りが良いのでしょう。私どもが店を拡張できるのも、そのおかげですよ。あの方は誠に名領主ですね」
「なるほど」
最近の渡のモイー卿の印象は、数寄者が行き過ぎた、珍しいもの好きのオタクだが、それは一面でしかない。
あらたに自領となった南船町だけでなく、星見ヶ丘など、領地全体を今も刻一刻と栄えさせていた。
それだけに、錬金術師の件はともかく、魔法の杖や錬金術の器具についてはモイー卿を頼ることも考えている。
「先にこちらを渡しておきましょうか。新しく入荷した砂糖と珈琲豆です」
「おおっ、これはありがたいですな。近頃では近隣領地だけでなく、隣国との交渉の場など、幅広く扱うようになっているようで、需要が高まっておりまして」
「ただ、今以上の量を用意するのは難しいと思ってください」
「そうなんですか?」
「ええ。現地での生産量や、俺たちの輸送能力が限界に近いです」
正確には、砂糖や珈琲豆を購入することはできるが、それを運搬することが難しい。
ただ、異世界でいくらでも手に入る、などという事実をバカ正直に言うつもりはなかった。
では人員を派遣しましょう、と言われても困るからだ。
「では、いつも通り手形払いでお願いします。それで、他のご要件は?」
「実は相談にのっていただきたくて」
「ほう……。魔法具と錬金術に使う道具ですか……」
ウェルカムが得意げに頷いたのを見て、渡はこれはいい結果が得られるかもしれないと、期待した。
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最新話まで、読者の皆様ウェルカアアアアアアアアム!
っと、もう少しであとがきがウィリアムに乗っ取られる所です。危ねえ。
作中の時期的に、クリスマスがありますよね。
近況ノートで書いて欲しいキャラがいるかな、と思い募集してみます。
ただ、募集の回答だけだと寂しいので、本文の感想もお願いしますね!
それでは次回は後編ですね。果たして目的の杖(や素材)錬金術の道具は見つかるのでしょうか。お楽しみに。
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