第29話 錬金筋・魔法使い通 前

 王都にゲートで移動して、マリエルの案内で歩いていく。

 最初は人通りの多い大通りを歩いていたが、やがて道が少し細くなり、人の姿もまばらになった。

 それだけでなく、歩く人の様相も少しずつ変化していた。


 薬や薬草の臭いを漂わせている人や、杖や指輪、何らかの装飾品を身に着けたり、緻密な刺繍を施されたローブに身を纏う人も多かった。


「さあ、見えてきましたよ。ここからが錬金筋です」

「えっ、あれ!? もう着いたのか」

「ええ。知らない人には気付かれない、強力な人除けの術式が施されているそうですよ」


 マリエルにそう言われて、初めて到着していることに気づくことができた。

 視界に入らなかったわけではない。

 目に入っていたのに、意識に上らなかった。


「はぁー、これって魔法か? それとも錬金術?」

「持続的な効果を発揮する器具を使用してるので、錬金術の力ですねえ」


 渡の率直な疑問に、両方に素養のあるステラが答えた。


「錬金術ってスゴイんだな。ちなみにステラはこういう技術は持ってるのか?」

「はい。これほど効力の強いものは、扱う素材もとんでもない希少性を求められますから現実的ではないですけどね。規模を小さくしたり、もっと効力を落とせば、十分にできますよ」

「そうか。助かるな」


 自宅や購入した山、あるいは今後設立する工房にこれらの技術を利用してもらえばかなり秘匿性を高められるだろう。

 エアやクローシェといった、武人として一流の存在でも、これら人除けの効果からは逃れられなかった。

 人の気配は探知していたから、護衛には支障をきたさなかったが、問屋街を見つけられたかといえば、見つからなかっただろう。


 感心しながら、錬金筋に入った。


 幅六メートルほどの、車道一車線ほどの幅の道を挟んで、ずらりと先まで店が並んでいる。

 どれも三階建てで、高さがほとんど一緒だった。

 いわゆるうなぎの寝床と呼ばれる細長い店の作りになっていて、商品が床から天井までビッシリと埋まっている。


 トングや菜箸のようなもの、ビーカーや鍋と、用途をおよそ想像できるものは二割ほど。

 あとは一体何に使うんだろう、と思うような不思議な形状のものが多い。


 素材も様々で、滅多に見かけないガラス製品もあれば、不思議な色合いの金属製のものも多かった。

 中には刃渡りが数メートルにもなる刃物もあって、マグロかクジラでも切るのか、想像も難しいものもある。


 使い方が分からずとも、見たことのない形状の品を見るのは、想像の余地も含めて楽しかった。

 渡は目を輝かせて、錬金術の品を眺める。


 こういう時一番にはしゃぎそうなエアは、意外にも冷静を保っている。

 あるいは心のなかでは興味津々なのかもしれないが、護衛をしっかりと優先するのだ。


 そしてエアを慕うクローシェも、当然羽目を外すことはなかった。


「へえ……なんだか使い道の良く分からない道具がすごく並んでるな」

「これは圧縮器ですね。素材の強度を高めたいときや、特殊な魔力の付与にも使ったりします。あら、これは品質の割にお安いですね。金貨八枚ですよ」

「金貨八枚っ!?」

「あら、こっちの圧搾機は金貨二十枚ですって」

「に、にじゅうまい……」


 渡は思わず叫びそうになった。

 マソーから大幅に減額してもらっていたとはいえ、マリエルやエアよりも高額な器具とはとても思えない。


 とはいえ、この世界では奴隷の相場は非常に安く、特殊な用途の道具が驚くほど高い。

 作れる者が限られてとんでもない希少性があるし、どこでも生産できるわけではないため、輸送費なども上乗せされて大変な価格になるのだ。


 見た目ばかりの鈍ら宝剣が、同じくマリエルたちよりも高かったことを思い出した。

 そういった相場から考えれば、むしろステラの感想のほうが、こちらの世界では正しいのだろう。

 

「俺は相場は分からないが、別にぼったくられてるわけじゃないんだな?」

「一つ一つを生産地に赴いて買うなら、もっと安いお店はあると思います。ただ、これだけまとまった品揃えだと、この錬金筋で買った方が良いのではないでしょうか」

「分かった。……今後の投資とはいえ、高く付くなあ。トホホ……」


 渡には錬金術の設備として、何が必要なのかは分からない。

 たとえば包丁やビーカー一つでも、地球産の刃物とかでも良いのでは、と渡は思うのだが、ステラには否定された。


 勝手が違うのだという。

 一番は余計な魔力の影響を受けない、与えないことだ。


 安定した品質を求めるには、どちらも良くなく、そういった特殊な用途に沿った金属は資源としても製法としても、特に希少なのだとか。

 また、制作者の魔力を注ぎやすい材質もあるのだという。


 渡は今日まで砂糖の販売で溜めてきた多量の金貨を、ここで一気に吐き出すことになりそうだ。


「これでポーションをちゃんと作れなかったら、ひどいぞ」

「あらあら……あなた様にどんな折檻を受けてしまうんでしょう? ああ、いけませんわあっ❤」

「おい、一体どういう妄想をしてるんだッ!?」

「ああ、そんなひどいことまで……」


 ステラがポッと頬を赤く染めて体をくねらせたりするものだから、本当に頼って大丈夫なのか、渡はとても不安になってしまった。

 マジで勘弁してくれ。


――――――――――――――――――――

めちゃくちゃ忙しいので、短めで。

コメントも全部読んでますが、返信遅れます。でもやる気に繋がるのでコメントは欲しい! よろしくね(わがまま)


最後に、ギフトいただきました! ありがとうございました!

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