四章 拡大

第01話 これからの計画

 古代遺跡での清掃を終えて、渡たちは地球での自宅に帰ってきた。

 お風呂に入って汗と汚れを綺麗に落とし、さっぱりとした気持ちでお茶を飲む。


 ようやくポーションの自家製造に第一歩が踏み出せそうだ。

 まずは自分たちで魔力の保有した薬草を育てられるようになる。そのうえで地球でポーションが製造可能かどうかを確認する。

 そういった面倒な手順を守らないと、長期的で大規模な製造は異世界からの輸入に頼ることになる。

 当然、ゲートでの流通がボトルネックになって、成立しなくなってしまうだろう。


「タメコミ草が十分に育ったら、爺ちゃんの畑の土に混ぜてもらって、再度薬草が育つまで待つことになるな。これから冬になるから、最短でも春まで待たないといけない」

「気の長い話ですね」

「まあ、普通は種を植えて、次の瞬間にグングン育つのが異常なんだよな」


 古代都市でのタメコミ草の成長速度は異常だ。

 薬師ギルドにそれとなく聞いたところによると、あれば魔力自体が成長を促進するタメコミ草の性質と、魔力災害を起こすほどの濃密な魔力に溢れた古代都市だからこそ起きた現象だそうだ。

 他の場所では普通の植物としての成長速度とあまり変わらないらしい。


「その間はどうするの?」

「ポーションの販売を続けつつ、早く錬金術師の奴隷を確保したいところだなあ」

「こればかりはタイミングや運の問題ですわね。基本的に困窮することの少ない職業ですし、奴隷になるなんてよっぽどのことがない限り、見つからないですわ」

「ああ。奴隷商の人も同じことを言ってたよ」


 とはいえ、まったくないとも言い切れない。

 失火が原因で火事になって財産を失ってしまったとか、保証人になっていて、他人の借金を背負うことになったなど、本人の才覚以外の理由で奴隷になるケースも、少数ながらあるようだ。

 奴隷商のドーラからは気長に待つように言われているし、それこそ素行の悪いものには任せられない仕事だから、長期的な構えでどっしりと待つしかないだろう。


「あとは土壌に魔力が多く含まれてる農園候補地を探すことかな」

「ご主人様は魔力について分からないんですよね」

「古代都市ぐらい濃密だと、体が勝手に反応して嫌でもわかるけどな」

「あれは例外です」


 マリエルに怒られてしまった。

 あれは失敗だった。

 あの後も何度も体の調子を確認されて、問題がないか何度も質問された。

 辟易する渡とは違い、マリエルやエア、クローシェの三人ともがとても真剣な態度で訊ねるものだから、相応に危険だったのは理解した。


「となると、土地の選定は私かエア、クローシェが行うことになりますね」

「実際の契約は俺がするからそこは構わないけどね」

「そもそも魔力が豊富な土地とか売りに出されてるもんなの? アタシには考えられないけど」

「そうですわね……。わたくしたちの感覚からすると絶対に手放したくない土地ですけど、主様たちの場合、魔力に気付けない人がほとんどでしょうから、チャンスはあると思いますの」

「可能性はあるか」


 渡の感覚を標準とした場合、日本人のほとんどは魔力を感じ取れない。

 ただ、言語化できない感覚として、なんとなく雰囲気を感じられる場合はあるようだった。


 本来なら好立地な土地なのに不思議と人の寄り付かない現象だとか、神社の空気がどことなく清涼に感じたり、パワースポットなどと呼んでみたり。

 それを普遍的な感覚として信じられているわけではないが、一部の人間には有難がられている。


「どこかしらに売られている可能性は、かなり高いかと思います。問題は、現地に赴いて、魔力量を確認する必要があることですね。当たりを引くまで、何度もチャレンジする必要があるかと」

「不動産屋との交渉が大変だな。むしろ適当に車で走って、魔力が豊富なところを見つけてから、売られてないか調べても良いぐらいか?」

「どれぐらいの頻度で見つかるかもまだ不明ですから、どちらにせよ一度散策してみるのは良いかもしれませんね」


 大阪市内でそういった土地を得るのは、渡の今の資産状況ではかなり難しい。

 しかし市外や県境などの人の手の入っていない、管理されていない山などであれば、あるいは魔力の豊富な土地が手に入る可能性は十分にあった。

 今後はそんな山を探すことになるかもしれない。


「山を買ったら、こっちでもアタシたち全力で鍛錬できるじゃん。ニシシ」

「天狗が出たって現代の怪異にならないようにしてくれよ」

「テングってなに?」

「天狗か。天狗は……なんだろうな」


 まっすぐに聞かれると、説明には困る。

 こういう時こそスマホで調べようと取り出した渡だが、多量の通知が来ていることに驚いた。


「おっと、亮ちゃんからすごい着信が来てるな」

「何か困ったことでもあったのでしょうか?」

「前みたいな断れない頼みは困るんだけどなあ」


 遠藤亮太から何度も着信があり、メッセージも届いていた。

 返信を待てないあたり、かなり急いでいたのだろう。

 渡が異世界に行っている間、電波は届いていない。

 自然とスマホの着信を知る手段もなくなり、通知が届くのに時間差ができていた。


 亮太にも関係性があるのは分かるし、散々世話になっているのも確かだ。

 亮太の援助がなければ、今の稼ぎや人脈は手に入らなかっただろう。

 同じ規模にまで成長するのにはもっと多くの段階を必要としたはずで、そうなると余計なトラブルを招くことも多かったかもしれない。


「これは、ちょっと困ったことになったかもしれないな」


 メッセージアプリに長文で連絡が入っていて、しばらく黙って文章を読んでいた渡だが、次第にその表情は緊張したものへと変わっていった。


――――――――――――――――――――

長らく更新お待たせしました!

私事で急に忙しくなってしまいましたが、なんとか落ち着きました。


今日の更新は頑張って二つ書いてまして、6月の近況ノートを新たに公開しました。

作中時間に合わせて、ハロウィンの一夜を楽しんでいます。

2500字ぐらいで、いつもより分量多めです。


ギフトのお礼ですね。楽しんでくださいm(__)m


そして、5月分を全体公開にしました。

エアにマタタビを与えたら、「ん゛おっ❤」「あへぇ❤」って大変なことになってしまうお話です。相当エッチです。


どちらも楽しんでいただければ幸いです。


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