第63話 ケダモノですわ!

 エアを交えて、クローシェとの初夜が明けて。

 目が覚めると、エアのおっぱいが顔を埋めていた。

 エアは相変わらず抱きつき癖が直らない。

 たまに別々に寝ている時でも部屋に入り込んでくる時がある。


 ゆっくりと顔を引き抜いた。

 すーすーと寝息を立てて気持ちよさそうに寝ているエアは、熟睡してるようだ。

 普段なら気を張っているのに、自分の隣だとこんなにも安らぐのかと思うと、少しうれしくなる。


 抱き着いている腕をゆっくりと解いて上体を起こすと、反対側で仰向けにクローシェが寝ていた。

 両腕を上げて足を開いた寝姿は小学生の男の子かと思うほどの寝相の悪さで、広いベッドを買っていなければそのまま落ちていたかもしれない。

 ものすごく綺麗で整った顔立ちと、豊満な肉体を持っているのに、色気のかけらもない寝方なのが、なんとなくクローシェっぽくて、渡は笑ってしまった。


 〇


 目が覚めたクローシェが、渡の顔を見るなり先ほどから喚いている。

 正直うるさい。

 恥ずかしくて動転しているのか、渡を抱きしめると、がぶがぶと肩口を噛みついてくる。


「ううう、ケダモノ、ケダモノですわ!!」

「おいおい、そんなに噛むな。噛み痕を残して自分のものだって主張したいのか?」

「ちちち、違いますわ!」

「初心な反応で受ける」

「お姉様!?」


 ぷぷぷ、と笑いだすエアの反応に、クローシェが驚愕している。

 まさか味方をしてくれると思っていたのだろうか。

 これまでの関係性を見るかぎり、エアは全力でクローシェで遊ぶ間柄だろう。

 締めるべき場面では味方をしてくれるだろうが、こんな時は全力で弄り倒す未来しか見えない。


「そういえば、エアはもっと達観してたな」

「恥ずかしいのは恥ずかしかったけど、奴隷に堕ちた時からずっと覚悟してたから」

「ああ。急に自分の全権限を賭けて勝負を仕掛けたクローシェとは違うわけか」

「その言い方だと、まるでわたくしが考えなしのバカみたいじゃありません!?」

「それは負けて奴隷になってる奴がいう言葉じゃないな」


 普通の判断能力があれば、いきなり全賭けするんじゃなく、事情を訊くだろうし、勝負を仕掛けるにしてももうちょっとやりようがあったはずだ。

 マリエルの口車に乗せられたとはいえ、不用意にすぎる。

 まあ、クローシェとしては家族同然に大切に思っているエアが、突然奴隷に堕ちているのを見て、平静を失っていたのだろうが。


「ううううう……と、とにかく、主様はもうちょっとわたくしに優しくするべきです! あ、あんないやらしいおねだりを次から次に言わせて……あああああ、思い出しただけで恥ずかしいですわ!」

「最後は嬉々としてやってたくせに」

「言わないでええええええっ…! はず、恥っ! 一生の不覚!」

「なあエア、クローシェが次回以降に同じことをしないと思うか?」

「無理。どうせすぐに同じように恥じらいも忘れておねだりする」

「だよなあ……」


 ぐおおおおお、と呻いて転がり回っているクローシェだが、そろそろ落ち着いて服を着てほしい。

 仰向きになっても豊かさを保ったままの乳房だとか、鍛えられた太ももだとか、あるいは股間だとか、そのままにしていてはいけない場所が見えている。

 渡もせめてもの情けで見て見ぬふりをした。

 さすがにたっぷりと楽しんだ翌朝から渡もその気にはならず、下手に構うとますます長引きそうだと判断して、ダイニングに向かう。

 昨夜は一人で寝たマリエルが朝食を作ってくれているはずだ。


 〇


 魔力災害を起こしている古代遺跡に、魔力を蓄えるタメコミ草を栽培する作戦は失敗した。

 ではこれで諦めるべきなのか、というと、それは早計というものだ。

 少なくとも薬師ギルドに現状を報告して、何らかの対策が取れないか質問してみるのが筋だろう。

 専門家である彼らであれば、渡たちの知らない対策を知っている可能性が高い。


 それに、古代遺跡のゲートの清掃が途中だったことも気がかりだ。

 クローシェのピンチだったために急遽中断することになったが、できればゲートの機能を十全に発揮させるためにも、清掃はちゃんと終えておきたい。


 渡たちは早速薬師ギルドへと赴いていた。


「あら、まさかタメコミ草がダメだったの?」

「ええ。どうも思った以上に魔力が濃いようで」

「そう……」


 受付のおばちゃんが何やら考え込んだ。

 普通では考えられないような状況なのだろうか。

 あるいは今の情報だけで、渡たちが植えようとした場所をある程度推測できているかもしれない。


「一つ聞くけど、あなたたち危険な実験とかしてないでしょうね?」

「とんでもないです。私たちは善良な市民ですよ。少なくともここの領主のモイー卿御用達の商人ですよ」

「あら、そうなの!」

「ええ。俺は故あって魔力の非常に豊富な場所を利用できるんです」

「そういうことなら、まあ好きにしたら良いんだけど」


 ギルドにしたら犯罪の片棒を担ぐなることになると危惧したのだろうか。

 安心してほしいものだ。

 しかし、やはり貴族の名前は強い。

 モイー卿の名を出すと、途端に信用して貰えたのだから。


 受付のおばちゃんはしばらく考えた後、ゆっくりと候補を話し始めた。


「方法は二つ考えられるかしらねえ。一つ目は、とても高額になるけど、吸魔石を使用する方法。これだと大量の魔力を石に吸収させて、畑に埋めておくだけで長期間、周りに魔力を与えることができるわ」

「良い方法じゃないですか。どれぐらいの金額になるんです?」

「お得意様価格で、金貨十枚ね」

「……嘘ですよね?」

「本当よ。元々魔術研究とかに使う貴重な道具なのよ。薬草栽培なんかに使うものじゃないわ」


 とんでもない金額だ。

 優秀な奴隷が一人買えてしまう。


「他に方法はないんですか?」

「これから言おうと思ってたのよ。もう一つが、魔力を遮断する素材を周りに廻らせて、その中でタメコミ草を育てる方法よ」


 説明によると、魔力を遮断する素材がいくつかあるらしい。

 それらを張り合わせてビニールハウスのようにすることで、その中で魔力を有限にして、タメコミ草を育てるのだ。

 地中に浸み込んでる魔力量などは気になるが、妥当な方法に聞こえた。


「それで、こっちはどれぐらいの価格なんですか?」

「大きさや素材によるけど、銀貨五枚ほどあればできるんじゃない?」

「じゃあお願いします」


 ひとまず一番遮断性能の良いもので試してみることになった。

 やれやれ、これで上手くいってくれると良いのだが。


――――――――――――――――――――――

ということでクローシェとの初夜明けと薬草栽培のその後ですね。


あと、最近ギフト連日いただいてありがとうございます。

先日、リワードから一冊ファンタジー用の資料を購入しました。


週末に体調を崩してしまって、吐き気と戦いなら執筆してました。

原稿が遅れており、帳尻合わせが大変ですが、頑張ります。

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