第18話 祠の先①

 あっ、と声を上げる間もなく、渡とマリエルの二人はゲートに吸い込まれ、向こう側に移動していた。

 渡たちをさらに驚かせたのは、一度開いたゲートが、すぐに閉じてしまったことだ。


「ど、どういうことだ!? どうしてこんなに早くゲートが閉じてしまう」

「エアとクローシェがいません。すぐに後を追ってくれるはずですが……来ませんね」


 これまでお地蔵さんと異世界の祠を繋いでいたゲートは、非常に長時間開いたままにできていた。

 そうでなければ砂糖の大量輸送などできない。


 この場所のゲートに問題があるのか、あるいは王都に問題があるのか。

 複数に移動できる拠点による仕様なのか。

 渡たちにはまだ見当もつかなかった。


「あの二人が俺たちを放っておくとは思えないよな。どれぐらいでゲートが再度開くと思う?」

「分かりません。私たちはこれまで短時間で複数の行き来をしたことがありませんでした。もし同じ機能だと仮定して、最短で私たちが行き来したのは二時間弱ぐらいではないですか」

「最悪そんなにも待たないといけないのか。くそっ。まさか声に出しただけで跳ばされるとは思ってなかった。俺のミスだ」

「違います。知らないことは対処のしようもありません。どうか責めないでください」

「……そうだな。ありがとう」


 じりじりとした焦燥感に襲われて、渡はゲートが開かないかと凝視していたが、向こう側が見えるだけだった。

 ゲートの異変もおかしかったが、この祠の周囲も同じぐらい問題がありそうだった。


 他の場所に比べて浸食が激しく、祠はぼろぼろに見えた。

 床はとても堅い石材が敷き詰められているのだが、その床も土がかなり覆ってしまっている。

 柱は蔦が覆い、部分的に欠けたりもしていた。

 非常に長い年月放置されていたのだろうことは間違いなかった。


「ここはどこなんだろうな。エアとクローシェの二人がいない状態で動いていいものかどうか」

「露店の女性からは危険だと言われていたのですよね。私はこの場に留まった方が良いと思います。ここなら他人の目を避けてくれるでしょうし、安全です」

「周りの様子は気になるけど、そうした方が良さそうだな。ついでだ、祠の写真を撮って保存しておこうか」


 時間を無為に過ごしたくなかった。

 渡はスマホを取り出すと、祠の姿をカメラに収めていく。

 構造物が蔦に巻かれたり苔に覆われているのは同じだが、その程度がひどく、神字も埋もれてしまっている。

 もし文字に呪文や魔法陣のように力が宿っているとすれば、十分な力が発揮できないとしてもおかしくない。


「はあ……早く来てくれ。二人とも」

「あの二人になにかあるとは思わないので、その点だけは安心ですね」

「まったくだ。俺たちの方がよっぽど危ないよな。まあ一番弱いのが男の俺というのが情けないが」

「平和な世に生まれたんですから、良いことですよ」

「エアがすぐそばにいたときは、それをむしろ誇れたんだけどなあ。今はもっと鍛えてたら良かったと思うよ」


 戦士として育てられたエアとクローシェはともかく、貴族だったマリエルも最低限の護身を身に付けている。

 武器の扱いもでき、いざという時に咄嗟に動ける以上、渡ともし本気で争えば、男の腕力でどうこうならないぐらいには強い。

 渡ならば命を奪うのに躊躇してしまうだろうが、マリエルはすぐに動ける。

 世界間による常識の違いとはいえ、男としての矜持はどこかに行ってしまった。


「こんなことならエアとクローシェに荷物を全部預けるんじゃなかったな。水も食べ物も預けっぱなしだ」

「仕方ありませんよ。今後は離れない様に気をつけましょう」

「そうだな。そっちの備えの方が良さそうだ」


 祠の認識阻害の機能に頼って、渡たちはしばらくその場に座って、エアとクローシェを待った。

 祠の中で、外の様子を伺う。

 南船町も王都も共に町としての栄えた様子を持っていたが、この祠の外部は裏路地ということを差し引いても、とても寂れてみえた。

 人の気配は感じられず、とてもゲートが繋がっている場所には思えない。


 忠告の意味は何だったのか。

 気にはなったが、渡とマリエルは話を続けながら、二人の到着を待った。


「主っ!! 無事!? 良かった!」

「主様、マリエルさん、お待たせしましたわ!」


 そして分断されてから三十分後、ゲートが開き、二人が飛び出てきた。


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ようやく月末月初作業が終わったので、更新を再開します。

お待たせしました。今回は短いですがご容赦を。

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