第17話 祠の転移先
クローシェを迎え、祠を見つけた翌日。
そろそろ九月も中旬になってきたことで、涼しい日が増えてきた。
残暑厳しい日本の風土と違い、こちらは涼しくなり始めるのが早いようだ。
他にも優れた面は多いが、この一点は日本よりよほど優れていると感じられた。
渡がベッドから起きて寝室を出ると、憔悴したクローシェの姿があった。
渡に気づくとハッと息を漏らして、全身を緊張させる。
普通の反応ではないので、気になった。
目が合うと、グルグルと喉を鳴らしてクローシェが唸る。
威嚇されるようなことをしただろうか。
「ううううううっ」
「どうした、クローシェ」
「はわわわ……な、何でもありませんわ!!」
「そうか? なんか顔が赤いし、目のクマがひどいし、もしかして環境に慣れずに体調でも崩したんじゃないだろうな?」
「ち、近づかないでくださいまし! ぐるるるっ!!」
さらに顔を真っ赤にして目をきょどきょどと落ち着かない様子で、じりじりと距離を取られる。
明らかに挙動不審な態度だった。
後から部屋を出てきたエアが笑う。
「あはは、気にしないでいいよ。クローシェは昨日のエッチをこっそり聞いてて、照れてるんだよ」
「あー、そういうことか。すまないな。俺もわざわざそのために部屋を分けるわけにもいかないし、なんとか慣れてくれ」
部屋を一応分けたとはいえ、宿からすれば一室に変わらない。
おまけにこの時代の建物は防音性能などお察しだ。
色々な音が聞こえただろうし、クローシェの黒狼族の優れた鼻なら、臭いも嗅いだことだろう。
とはいえ奴隷に遠慮するというのもおかしな話だ。
慣れてもらうしかない。
「わ、わたくしも相手をしなくてはいけませんの?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど」
「へ? そうですの? 今晩は相手をしてやるから、夜に俺のベッドに来い、とか」
「俺は元々マリエルにもエアにも、夜のお勤めを強要したことは一度もないよ。というかなんだそのセリフ。どこの悪徳貴族だよ」
「そうですの……」
「意外か?」
「失礼ですけど、そういうことを一番に男性は求めるものだとばかり思っておりましたわ」
「まあ期待してなかったと言えば嘘になるけどな」
「ひやっ……!? わ、わたくし純潔の乙女ですのよ!」
「ふーん、エッチじゃん」
「ッ!?」
真っ赤な顔で自分の体をかき抱くクローシェの姿は、渡の嗜虐心をむしろ煽った結果になったが、渡はあえて何も言わなかった。
時期が来れば、クローシェとも体を重ねる日はきっと来るだろう。
〇
「さて、流石に場所が分かってるとすぐだな」
「大広場からほど近い、いい場所ですねえ」
「でもちょっと裏路地だからその点は気になるかな」
「まあエアとクローシェの二人がいるんだ。何かあっても守ってくれるだろう? 裏路地で目立つって言っても、この三人がいたらどこでも目立つしな」
祠に来ていた。
南船町でもそうだったが、祠は表通りにはなかった。
この辺りは意図的な設置なのだろう。
あまり治安が良くないのは王都でも変わらないらしく、エアとクローシェは自然と警戒をしていた。
渡はもう極端な警戒は諦めた。
それよりはエアたちの判断を尊重した方がたしかだ。
「今回は誰もいないな」
「王都とはいえ、常時利用者が訪れるような場所ではないのかもしれませんね」
「そう考えると、世界にどれぐらいの利用者がいるんだろうな。こんな便利な物、できるかぎり使いたいところだろうに」
「すぐに離れる人が多いからではなくて?」
「でもアタシたちみたいに団体で移動する場合もあると思うんだよねえ」
「あの教授の話だと、少ないなりにそれなりに利用者がいるって話だったけどなあ」
人の通った痕跡は残っている。
裏通りに続く足元は草や苔、ゴミなどがなく綺麗な状態だからだ。
すれ違わないにしても、それなりには利用者がいるのだろう。
王都にすぐに寄れるということを考えても、利用者は他の場所よりも多いのではないだろうか。
「相変わらず汚いな……」
「こちらの祠も清掃しますか?」
「後だ後。さすがに今からやってられない。さきに確認するぞ」
「クローシェ、この前みたいに急に誰か出てくるかもしれないから、警戒」
「承知しましたわ」
渡はこんなことなら清掃道具を持ってくるべきだったか、などと思いながら、ゲートの中央に立った。
普段であれば近づくだけで、地球と異世界との境となるゲートが開かれるのだが、今回は何も起きない。
「おっ……? ゲートが開かないが、なんか頭の中にイメージが湧き上がってくる。六つか」
「私も失礼して。本当ですね、方角とおおよその距離でしょうか。……残念ながら都市の名前とかは分からないようですね」
南の方角に近いのと遠いのと。
これはもしかしたら、どちらかが南船町の可能性がある。
東に一つと西に一つ。北東に一つと北の遠目に一つ。
合計六つもの転移先が候補に思い浮かんだ。
「うーん、北には行かないほうがいいんだよな。じゃあ――」
「あるじッ!?」
「ご主人様!?」
ウン!! と音がしてゲートが開いたかと思うと、渡と隣にいたマリエルの体が吸い込まれた。
瞬時の反応したエアが近寄り手を伸ばしたが、その手は宙を掴む。
エアとクローシェは呆然とゲートがあった場所を見つめた。
――――――――――――――――――――
本業が忙しいので数日お休みします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます