第44話 王都
翌朝、碧流町を出て旅の二日目も色々なことがあった。
寄港した町にはそれなりに名の知れた道場があったため、エアが腕を落とさないために鍛錬に参加して大暴れしたり、そこで渡が体験入門をしたら十メートル以上吹き飛ばされたり。
師範とエアの模擬戦闘で人外のやり取りを見たり。(実際は目で追えなかったので見えてはいない)
血の昂ったエアがベッドに潜りこんで夜の戦いが始まったり。
刺激的なあれこれを終えて、渡たちはついに三日目。
当初予定していた日程通り、王都に辿り着いた。
「長かったような短かったような」
「アタシはしばらく船は良いかなあ。じっとしてるのキツイよお」
「私も本ばかりというのも飽きてしまいますね」
「トランプもそればっかりだと面白くないしな」
王都が見えたということで甲板に出た渡たちは、その光景に思わず声を上げた。
王都は平地にあった。
その代わり、見上げるような防壁が都市を囲んでいる。
川下から見上げる格好になるため、王都の中を見渡すことはできない。
一部の高層建築物だけが、その格好を見せている。
非常に幅の広い川がぐるりと都市を囲んでいて、堀として機能していた。
山城ではなく平城なのは、王都まで侵攻された時点で敗北が決定しているからだろうか。
ある意味では都市機能に全振りした行政都市と言えるだろう。
船の上から路上で王都に向かって歩く沢山の人々や、逆に王都から出ていく商人の馬車、騎馬やモンスター使い、あるいは冒険者と思われる武装した人々が見える。
川にも他の船が続々と集まっていて、よくぶつからないものだと渡は感心する。
「おおお、スゴいな! 王城がカッコいい!」
「王都に来るのも久しぶりですが……、久々に帰ってきた感じがしますね」
「船から見る眺めもいい」
三者三様な感想を抱きながら、船から王都を眺める。
一際強い風が吹いて、帆が大きく膨らんだ。
ポカポカと陽気に包まれて、快晴が続いている。
絶好の観光日和だ。
いざ目的地が近づいてきたことで、あらためて今回の旅の目的を確認しておく気になった。
「マリエルは王都に長く住んでたんだよな?」
「はい、王立学院に通っていましたので」
「じゃあ王都の観光案内は任せたぞ。話を聞くに名所がいっぱいありそうだからなあ」
「楽しみ! アタシも一杯回りたい」
「ふふ、これは責任重大ですね。分かりました。精一杯案内させていただきます」
美術館、劇場、博物館に各種ギルドの催し、宗教施設も王都というだけあって威勢を保っているし、その気になれば驚くほど長く滞在することができるだろう。
「一応、王都での目的を確認しておくぞ。一杯あるからな」
「分かりました」
「うん!」
渡の言葉にマリエルとエアが真剣に頷く。
観光ではあるが、それだけでは終わらない。
二人が良く分かってくれていて嬉しい。
渡は指を一本立てた。
「一つ目は商品の仕入れだ。王都にしかない貴重な品があれば、それを購入したい」
「現地でしか手に入らない一部の特産品を除けば、一番豊富な品揃えですからね」
「特に薬や魔法の品、付与のかかった品、あとは薬草や植物の種とか、見たいものが一杯ある」
「そういえば、最初はアタシの剣も王都で購入しようかって話になったんだっけ」
「ああ、そう言えばそうだな。懐かしい。すっかり忘れてたよ」
「アタシはずっと覚えてたけどね」
価格こそ高めになるだろうが、品揃えの豊富さは国内最高峰だ。
渡たちが特産品を買い付けに移動する手間と時間を考えれば、高額になっても手に入れたいものが出てきてもおかしくない。
「二つ目はマリエルの家族の情報を得ることだ」
「ご主人様、忙しい中お手を割いていただいてありがとうございます」
「なあに、俺もマリエルの故郷には用があるからな。コーヒーノキの栽培が可能かどうか知りたいし」
マリエルの両親の行方がわかれば、すぐにでも保護する予定だ。
何らかの伝手を頼って問題なく過ごせているなら良い。
マリエルが奴隷となったことで、両親も奴隷になっている可能性も十分に考えられた。
その際は購入者と交渉するもとも必要になるだろう。
またその後の生活をどうやって保証するかなど、考えないといけないことは一気に増えてしまうが、見捨てるという選択肢はなかった。
故郷の領主が誰になっているのか、統治は上手く行ってるのか、という情報も併せて得る必要があった。
渡は三本の指を立てる。
「三つ目はゲートについて情報を集めることだ。これは研究所や王都の図書館、学院の歴史研究をしている学者に聞いてみる、という形になるだろうか」
「私の母校の先生に一人、歴史を専門にしている方がいましたので、一度相談して、そこからより詳しい方を紹介していただくという形になるでしょうか」
「マリエルには頼りっぱなしになるが、よろしく頼む」
「ご主人様のお力になれば、私も嬉しいです」
そう言ってくれるマリエルの表情がとても明るいものだったので、渡も嬉しかった。
ゲートが安定して今後も動くものなのか、そもそもどういった物なのかを知ることは欠かせない。
あるいは、別のゲートを探したり、起動するかどうかを確認できればより良いだろう。
その際にさらに別の異世界にたどり着くのか、あるいはこの世界の別の場所にたどり着くのか、はたまた大阪以外の場所に飛ぶのか。
考えられる可能性はいくらでもある。
「しかし、検問がものすごく長いな……」
「ガンガン進むから、もう少し待っててくれ!」
「分かりました」
すぐ近くを通った船員にそう言われて、渡たちは旅の準備をしながら、王都に入れる時間を待った。
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