第16話 報告

 王都の祠から宿へと戻った渡たちは、しばらくして帰ってきたマリエルを迎えた。

 久しぶりに親友に再会して、じっくりと話す時間を持てたマリエルの表情はとても楽しそうだった。

 ニコニコと笑顔を浮かべていて、雰囲気からして柔らかくなっている。

 普段もきれいだが、上機嫌な今はより魅力が増していた。


 部屋に置かれていたテーブルを囲んで、お互いの報告をしあうことになった。


「俺たちもマリエルに伝えたいことがあるけど、先にそっちの報告を聞いておこうか。フィーナさんと食事をするんだったな」

「忙しい中、お時間をいただけてありがとうございました」

「楽しめたか?」

「はい、とても。フィーナと近況を報告し合って、とても安心することができました。少しだけですが、私の領地のその後についても知ることができました」

「良かったなあ。これからもできるだけ、そういった時間を作れるようにするつもりだ。また後で詳しく教えてくれ」

「はい!」


 仲のいい友達との時間は何よりも貴重だ。

 マリエルは奴隷だが、奴隷として主人に仕える時間だけでなく、自分自身のためにも時間を使ってほしい。

 それはエアやクローシェにとっても同じことだ。


 クローシェの場合は家族と会うと問題が起きそうだが、そういったことを除けば、今後も友達や家族といった大切な人との時間は、できるだけ取れるようにしてあげたかった。

 渡自身も実家に帰ったときはとても落ち着いた。


 マリエルの両親について話題が出なかったのは引っかかるが、それも今後調べたいところだ。


「俺の方は、あの後ついに祠を見つけた」

「この大きな王都で本当に見つけられたんですね」

「発見にはクローシェが役に立ってくれた」

「クローシェさんお手柄ですね」

「おほほほほ! それほどでも! あり! ませんわ!」

「すぐに調子に乗る」

「クローシェ、役に立ってくれるのはありがたいが、天狗になるなよ」

「はい……すみましぇん……」


 シュンと肩を落とすクローシェだが、あまり調子づかせると良くないタイプだ。

 今後しっかりと奴隷としての立場を教えないといけないだろう。

 この辺りは、奴隷商館で教育をされただろうマリエルとエアに対し、クローシェはそういった教育を受けていない違いが如実に出ていそうだ。


 エアもお調子者の一面はあるが、それでもある程度相手を見ていた。

 お仕置きをしないといけなかったのはウィリアムの時ぐらいだろうか。


 祠で出会った謎の美女についても報告をした。

 マリエルもまったくの予想外だったのは同じようで、少し考えこんでいた。


「明日祠のゲートについて調べるんですよね?」

「ああ、そうだ。何かあるのか?」

「いえ、その方と前にあったのは星見ヶ丘でした。もしかしたら、あのあたりにもゲートがあるのかな、と思いまして」

「ああ、その可能性はあるな。となると装飾品やポーションの買い入れが捗るぞ」

「あと気になるのは忠告でしょうか。北には行かない方が良いとのことですが……」

「まあ何が何でも北に行きたい理由もないしな、他に候補があれば、別の場所を先に訪れる予定だ」


 そもそも王都のゲートが複数拠点に飛べるのかどうかもまだ分かっていない。

 先の予定を決めるのは時期尚早だろう。


 結局女の正体については、一つも推測が進まなかった。




 夕食を終えて、風呂にも入って。

 さあ寝るかという段になった。

 困ったのがベッドの問題だ。

 旅行で疲れているということもあって、全員が別々のベッドで寝ていたが、今夜はクローシェがいる。


 マリエルとエアが期待のこもった目で渡を見つめていた。

 クローシェだけがキョトンとしていて、意味が分かっていない。


「しかし、まさか王都旅行中に人数が一人増えるとは思ってなかったな」

「宿の主人が驚いてましたね」

「あれは王都の奴隷商館に用があったと思ってる顔だったな。俺だってまさか決闘を申し込まれて奴隷が増えるなんて思ってなかったしな」

「うう……その節はご迷惑をおかけしました」

「まあまあ、主も奴隷が手に入って良かったじゃん」

「そうは言うが、これから部屋とか小物の用意も必要だから大変だぞ。部屋数に余裕があって助かった」


 丁度引っ越しを終えたところだ。

 住む人間が増えたからといって、また時間と手間をかけて引っ越していられない。

 それに人が増えれば増えるほど、人間関係は面倒で管理の手間が増える。

 渡も主人と奴隷という上下関係を前提とした立場でなければ、処理能力を超えてしまっていただろう。


「じゃあ、そろそろ今日は寝るか。クローシェはここで寝ててくれ」

「あら、主様とマリエルさん、お姉さまはどちらに?」

「ちょっとベッドの数が足りないから、俺の部屋のベッドで一緒に寝ることにした」

「クローシェさん、失礼しますね。おやすみなさい」

「あら? おやすみなさい?」

「じゃね! おやすみ!」

「はい、お姉さまもおやすみなさい?」


 マリエルとエアがあまりにも当たり前に言うものだから、クローシェはキョトンとしながらも、夜のあいさつを交わしてベッドに入った。

 渡はまだ、この三人が男女の関係であることは伝えていなかった。

 あえて言うことでもないだろうと放置していたのだ。


「あら? わたくしだけ一人で寝るということかしら?」

「ニシシ、主、今日もいっぱい可愛がってね」

「私もですよ。エアだけ可愛がってたら嫌ですからね」

「分かった分かった。順番だ。手の空いてるほうは、いつもみたいにもう一人を責めるんだぞ」

「……あら、あららら!? あのマリエルさんとお姉さまが奉仕しておりますの!?」


 クローシェが顔を真っ赤にして、耳をピンと渡たちの部屋に向けた。


『んっ、ああっ、あるじっ、あるじぃっ!! すごい、すごいよっ! いつもより、はげしいっ!』

『ふふ、エア、あなた顔が蕩けてますよ』


「うぅぅうう……なんてうらやましい。お姉さまぁ……あっ……」


 クローシェにとっては衝撃的な、刺激に満ちた一夜になった。


――――――――――――――――――――――――――

これぐらいだったら何の声か分からないからセーフ!!(多分)

書籍化できたらこういうのはもっと加筆してえなあ。


あと近況ノートを更新しました。

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ぜひご覧ください。

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