第31話 王と双樹の皇06

 一文字は岩魚からの依頼内容の東都双樹への儀式魔術に関する護衛、補助、それに関わる危険分子の排除に関する話へと切り替えていった。

 一文字は資料から写真を数枚取り出し、写真をメンバーの前のテーブルに置いた。そのうちの一枚の神主の服を着た三十台前後のイケメンな日本人男性を指さした。


「荒谷清彦当時二十九歳、元宮内庁式部官で儀式関係を担当していた男です。神道系統と風水陰陽術に精緻していたようですね。元々学んでいた神道に風水陰陽術で計算し、大樹への儀式魔術の割り込み魔術を構築したようです。そして、不老不死を得んが為に実行に移し、京都の惨劇を生みました」


 一文字は写真を忌々しい表情で見ている。ロレッタは首を傾げながら思った事を口にした。


「でも、隊長。この人は六年前に死んでいるんですよね? 何がL.M.Dへ依頼するほど警戒するのですか? 」

「良い質問です。ロレッタ、当時、この男と関係各所調べ上げて排除しましたが、あまりにも突然だった為、関係者等を解明しきれず残党がかなり残ってしまいました。何よりこの時使われた割り込み魔術の資料が見つかっていません」


 一文字はテーブルの上に置かれた荒谷清彦あらやきよひこの写真以外の写真をコツコツと指で叩き、今回の依頼において重要人物の二人を示した。一人は見るからに私腹を肥やしていそうな中年をわずかに超えた脂ぎり太った男。もう一人は二十歳前後で粗暴な風体をした男の写真だった。


「この太っている方が荒谷琢史あらやたくし年齢四十八歳、防衛省財務部部長、粗暴な風体をしているのが荒谷琢史の一人息子、荒谷荒太あらやこうた二十一歳東都南防衛校三年訓練生です」

「む・・・如何にも奴らだな」

「ええ、如何にも奴らなのですが、荒谷琢史は当時も後ろ暗い所もかなりあった人物でしたが、魔術方面には詳しくなかったようで、当時色々してくれたみたいですが排除枠から外されました」


 ロレッタはムゥと顎に手をやり唸りを上げた。オラジとグローサリーはテーブルに置かれた荒谷琢史及びその周辺関係者の横領、武器横流し等の資料を見つつ、訝し気な顔をした。


「坊主。こりゃL.M.Dの諜報部の資料か? これを見るに日本の警察機構に渡せば、十分に逮捕等の出来るようじゃが何故せんのだ? 」

「逮捕だけじゃ足りないからですよ。僕らも、樹皇家も」

「随分と恨みが深いな。事を起こした張本人ではないのだろう? 」

「ええ、張本人ではありませんが、先程も言いましたが当時色々とね。荒谷琢史及びその周辺関係者には警備配置を勝手に変えられたり、警護官の装備の質を落されたりと間接的に邪魔され、結果、僕達L.M.Dや森林十架教、宮内省の警護官達の動きが阻害されました。その為に初動が遅れ、先ほど話した惨事につながりました」


 一文字は六年前の京都の惨事において荒谷清彦以外の原因として、荒谷琢史の行動にも問題があった事を恨み辛みを混ぜて告げる。


「ウグッ・・・それは。しかし、何故その時に排除処分しなかったんだ。混乱したその当時なら出来ただろう」

「それは荒谷清彦の割り込み魔術の資料が見つかってないからですよ。あの豚はあの男にかなり劣等感を抱いています。その為、あの男が失敗した計画に興味を持たない訳がありません。しかも、その内容が不老不死なら猶更。それを示すかのようにあの豚は影で積極的に動いています。いくら私腹を肥やし醜い豚でも鼻の利きは視るべきものがありますからね。L.M.Dや樹皇家は豚の一般的な悪事を見逃し、泳がせているんです」


 フンっと鼻息を鳴らし、嫌悪感等を隠さず荒谷琢史を見下している一文字の珍しい態度に部隊メンバーの三人は驚いた。マリナの復讐の念も信じられないくらい深いが、一文字も父親がいなくなっている為、荒谷家に対して、恨み辛みもまた深い。


「荒谷琢史が今回の星祭りの儀式中に仕掛けてくるという事ですか? 」

「かもしれないし、今回ではないかもしれない。取り敢えずは豚に対してのメインはL.M.Dの諜報部とオラジ、グローサリー、ジュリアルドの三名です。僕、ロレッタ、マリナの三名はL.M.Dの諜報部の別働組と東都南防衛校にいる一人息子の荒谷荒太に付きます」


 一文字はテーブルの上の粗暴な風体をしている男が映っている写真を指さした。

 グループ分けさせられたロレッタが慌てて一文字に聞いてくる。


「え? 息子の方ですか? つくってどうやって・・・・?」

「僕達三人は東都南防衛校の訓練生、三年生として入ります」

「へっ? は? 私今更、訓練生ですか?! 」

「ええ、年齢的には行けない事はありませんから、それにロレッタはここに入って日も浅いですから少し座学も学んでおいた方が良いという判断です」

「い、いままた、勉強ですか?! イヤーーー!!! 」


 ロレッタは頭を抑えて絶叫する。そして、絶叫するロレッタの頭をオラジは抑えた。


「しかし、坊主。この餓鬼を抑える必要があるのかの? 」

「豚から息子にどう繋がっているのかわかりませんし、こいつもまた豚とは違った悪童ですからね? 」

「その言いよう。隊長は息子の方も知っているのか? 」

「ええ、小学校の時一緒だったのですよ。その時から素行は悪かったですから。今となってはその成長の仕方も予測はつきますよ。あれは豚ならぬ猪でしょう・・・」

「なるほど」


 グローサリーは荒谷荒太の写真を改めて見て、その粗暴な風体から一文字の返答に納得をする。

 一文字は給湯設備に近寄り、お茶を入れてテーブルと自分の机の上に置き、椅子に座る。各々がお茶で乾いた喉を潤し、一旦場が落ち着いてからまた一文字は話しを続ける。


「猪もまた豚同様に鼻が利きます。油断は出来ません。特に今回、前回の事で西は不安定、そこに東の地である双樹に何かあれば、日本にとって致命的ともなりかねません。ですから岩魚殿を通して政府から殺人許可書マダーライセンスも発行されています。豚に猪、それに追従するもの、狩れるときには狩るつもりでいてください」

「今回は本当に恨み辛みが激しいな? 大丈夫なのか? 」

「この依頼元の樹皇家も恨み辛みは強いですよ。なにせ当代の母親が亡くなる事になりましたし、国を治めるものとしては断ちたいでしょう」

「・・・俺が言えた事ではないがあまりその感情に囚われると大事な所で見落とすぞ」

「そうですね・・・樹皇家の双樹、マリナもいるので判っているつもりではあるけれど、気を付けるよ」


 一文字はグローサリーの忠告を素直に受け取る。手に持った温かみのあるお茶を飲み干すと依頼内容も含めた話の纏めに入った。


「日本でやることは非常に多い、新規、新型のテスト運用、東京双樹における星祭り、そして、そこに入るであろう敵性の排除。皆、よろしく頼むよ」

「「「はっ」」」


 オラジ、、グローサリー、ロレッタ、三名は立ち上がり、敬礼をして返礼を返した。

「それと・・・」と一文字はロレッタをの方を見て、微笑みながら無情な言葉をかける。


「ロレッタは訓練校入りの勉強に加えて、日本語もある程度覚えないとですね? 」


「えっ」と一言漏らすと勉強することが増えたことがわかるとまたもや4638部隊の休憩室に大絶叫が響いた。

 こうして一文字達4638部隊は日本へ向けて準備を始めたのであった。


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