第30話 王と双樹の皇05
一文字は両肘を机の上に置き、両手を組んで、額をその手の上に付けたまま、苦しそうに京都での儀式の失敗結果132万7501人が死亡した事をメンバーへ告げた。
「は・・・132万7501人が死亡・・・・? 」
「そうです。樹種が暴走した事でそれだけの方が亡くなりました。内前樹皇恵様、マリナの両親、術式を観測していたL.M.Dと森林十架教の人間も含まれます」
「前樹皇って、かなり不味い状況じゃないですか?! それにマリナさんのご両親? 」
「L.M.Dと森林十架教が関わっていた? 何故こんな所に? わからんな」
ロレッタ、グローサリー当然の反応を見せたが、オラジは一人押し黙って聞いていた。そして、一文字は顔を伏せたまま、六年前の京都の出来事を話し続けた。
「ロレッタの言う通り、かなり不味い状況です。当時、儀式魔術の行使中、突然割り込まれた術式によって、大樹への報価による呪力の流れが無くなり、大樹への制御が効かなくなった事に術式を観測していたL.M.Dと森林十架教の観測者達が気付きました。気が付いた観測者立は他へ流れゆく呪力を辿り、割り込んだ術者の位置を特定、術式諸共、撃破しました。しかし、一度制御が外れた大樹の暴走を観測者達は止める事は出来ず、前樹皇であった恵様が人柱となって儀式魔術を敢行、大樹の暴走を抑止し、制御しました。暴走は止められましたが、その儀式場を中心に半径20kmは壊滅状態になりました」
「「・・・っ」」
一文字は冷めたお茶を含み喉を潤わせながら、L.M.Dと森林十架教の観測者達も動いたが最後は前樹皇が人柱となり大樹の暴走を止めた事を語った。
休憩室内の空気は凍りついたかの様になり、話を聞いていた三人は息を飲んだ。
そんな空気の中、グローサリーは話の中で肝心な事を聞くために口を開いた。
「それで隊長とマリナはどういう関わり方をしているんだ? 」
「ええ。僕の父親がL.M.D側、マリナの父親が森林十架教側の観察者の一員として大樹にかけている儀式魔術を観測しに京都へ来ていました。僕とマリナ、その母親もまた観測者の家族として京都に来ていたんです」
「儀式魔術の観測者? 」
「ここ英国と日本では王室と皇室の差はあれど、似通った所があります。また、昔から繋がりの在る所でした。それだけにそれぞれの国の大樹にかけている儀式魔術も近い所も在った為、互いの儀式魔術を観測し、見比べて研究をしていたのです。政府としては王室だけ、皇室だけに任せてばかりでは負担が大きいので、何とかしようとしていたのですよ」
一文字はマリナと当時その場にいた理由とL.M.D等の関わりを説明する。
一文字の思考の中に当時の記憶が浮かび上がり、京都の片隅に構えていた森林十架教の修道院でマリナと一緒にいて、マリナの母親に良くしてもらっていた事を思い出していた。それと共にその時に起きた惨劇の記憶もまた思い出していた。
「僕とマリナ、その母親が京都の森林十架教の修道院いましたが、大樹の暴走により近辺にあった樹々に影響し、急成長を起こしたりした性で、建物等が倒壊しました。また山の中にわずかにいた樹獣の犬タイプや猫タイプにも波及し、狂暴化により、死者が出ました」
「それが132万7501人・・・」
ロレッタが倒壊と樹獣の襲来により亡くなった人数を呟くと一文字は首肯する。
「僕とマリナは修道院が倒壊する前に外へ出ることが出来たのですが、出た所を樹種に強襲されました」
「な! でも今一文字隊長がここにいるという事は助かったという事ですけど、どうやって助かったのですか? 」
「それは・・・祭祀エルウィン殿とマリナの両親が駆けつけて、樹種を討伐してくれたのですが・・・その討伐の際にマリナの両親は命を落としました」
「あぁぁやっぱりそうゆう事ですか」
ロレッタは以前よりの話からこの事によりマリナの両親が亡くなった事を察し、声のトーンを落とし、一文字の続きを待った。
「更に樹種討伐の際、樹種は強い断末魔の残留思念を放ちました。強い断末魔の残留思念は京都で亡くなったばかりの魂を集め、悪霊や怨霊の類となろうとしました。その集めた魂の中にはマリナの両親も取り込まれていきました」
一文字は少し目を瞑り、その後マリナが行った事への懺悔に似た思いを浮かべた。苦い思いがあっても一文字は口を開き、その時あった事を話し続ける。
「見習いの修道女でもあったマリナは両親の魂を救う為、悪霊や怨霊になりかけた魂をその身を持って浄化しようとしたのですが、京都である事が災いしました。古都である京都には古くからの怨霊の類が多く眠る地です。それが新たに生まれようとする魂に惹かれ目覚めかけました。その古くからの怨霊の類とまで一緒になられたら止める手立てはありません。そこで祭祀エルウィン殿が森林十架教の古術にある生贄の魔術でマリナに集まった魂や残留思念を縛ったのです」
「そうか、弱肉強食を主とする生贄の魔術」
「い、生贄ってそんな!? 」
グローサリーは自分の黒魔術の根底である
「祭祀エルウィン殿はマリナの身に魂や残留思念を封じた事が精一杯でした。マリナの身に封じた魂や残留思念は突然その身に襲われた死に対して、恐怖や混乱等を起こしていた上、樹種の断末魔による怒りがマリナを暴走に走らせ、目に付いた暴走した樹獣の犬種や猫種を狩って行きました。数多の魂により身体のリミットが外れているとはいえ、素の身体では限界があり、マリナ自身も死の淵へと追い込まれていきました」
一文字は目の間で進む手出しのできない事柄に呆然として見ていることしか出来なかった自分を思い出し、あの時の無力さを噛み締めていた。
「その時じゃな。ワシとアビゴル二将が修道院に駆けつけたのは」
「え、オラジさん、その時いたんですか?! 」
「あぁワシは整備兵で車の整備などしていた時に事が起こってな。ワシが整備していた車は何とか無事で点検をしている時にアビゴル二将が来られて、坊主がいる修道院へと向かったんじゃ」
「そうでしたね。その時、オラジさんとアビゴル二将が来て、僕の父親からの預かり物だと言って、一個の指輪と一冊の本を受け取ったでしたね。これが僕らの始まりでしたね」
一文字の始まりという言葉を聞いて、ロレッタは一文字の方を見るといつの間にか一冊の古書を取り出していた。一文字の表情は伏せて見えなかったが羊皮紙で出来た古書の表紙を撫でていた。
「・・・一文字隊長。あの、そのぉ一文字隊長はマリナさんの事好きだったりしたんですか? 」
ロレッタから一文字へ女性らしい質問が飛んだ。一文字は古書を撫でるのを止めて、伏せた顔をあげて答える。
「さぁどうだっただろうね。ただ幼馴染でもあったマリナには死んで欲しくはなかったよ」
そういった一文字は強い意志を持った表情に変わり、羊皮紙の古書を両手で握りしめた。
「僕はこの古書に載っている知識とアビゴル二将、祭祀エルウィン殿の力を借りて、マリナと契約に行い、今に至る事になりました。この一連の流れが六年前に起こった事で、エル総将が樹皇家当代の妹君、岩魚殿から受けた依頼へと繋がります」
と一文字は長い過去の出来事を語り終え、それに繋がる依頼へと話を変えていった。
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