第29話 王と双樹の皇04

 一文字はロレッタ、グローサリー、オラジへエル総将からの依頼内容を話し始めた。


「エル総将からきた依頼元は日本の樹皇家の西郷岩魚殿。東都双樹に置いての星祭りの護衛、補助、それに関わる危険分子の排除だ」

「樹皇家って・・・ここで言えば・・・女王様ですよねぇ?! 凄い所から依頼がくるものなんですね」

「それよりもじゃ。内容に物騒な事も含まれておるな・・・」


 ロレッタが依頼元に驚いている中、オラジは依頼内容に排除という含まれる不穏な部分に反応した。一文字はオラジの反応も当然だと思いながらも話しを続けた。


「護衛、補助については星祭り直前からとなると思いますが、危険分子の排除については、今春から東都南防衛校に僕、ロレッタ、マリナの三名が学生として入ることになった。オラジ、グローサリーはジュリアルドと共に新規MDのテスト運用、そして場合によって危険分身の取り押さえも入ると思いますので、よろしくお願いします」

「え・・・学生するんですか・・・私? 」

「・・・なぜ危険分子の排除で学生に・・・? 」

「学生運動でもしてる者でもおるんかの・・・・? 」


 一文字以外のメンバーが三者三葉に混乱する。一文字は深く一息付いた。


「なぜ、学生をという事については6年前に行われた京都での星祭りの失敗に端を発します」

「一文字隊長、依頼の中にも含まれている星祭りとは何ですか? 」


 ロレッタがおずおずと片手を上げて、一文字へ質問をした。一文字はロレッタが最近身近にあった事を含めて、軽く説明をする。


「星祭りは元旦や、立春、冬至などの季節の節目に行われる国家に起こる各種の災害や個人の災いを除くもの儀式だよ。今代の目的としてはシードブレイクや樹種により亡くなった者たちへの鎮魂を持って、龍脈上にある大樹への制御、無害化を行っている。ドリネット村でマリナが行った物の大規模でもっと安定した儀式魔術ですよ」

「・・・隊長・・・先ほどその星祭りが失敗したとはなぜ? 国も関わりそれ程の大規模魔術がそうそう失敗する様には思えんのだが・・・」


 当然の疑問をグローサリーが口にする。一文字はその問いに忌々しく、苦々しい表情を浮かべながら答えた。


「前樹皇が星祭りの儀式を行っている際に、私欲を持って儀式の乗っ取りを謀った者がいて、大惨事を引きを越したのですよ」

「なっ儀式の乗っ取りなんて出来るものなのですか?! 」

「できない訳じゃない・・・行っている魔術の事をよく知り、割り込みをかけられるように魔術を構築できれば可能です」

「どう割り込みをかけようとしたんじゃ? 」

「先ほどロレッタに軽く話した星祭りの内実ですが、東洋系魔術の中に泰山府君祭という物があります。それは神たる存在が人間の寿命と福禄を支配し,その侍者司命神が冥府の戸籍を管理するとというものを前提に構築さえれた儀式魔術です」


 一文字は椅子を横に回し、手をお腹の前で組み、他のメンバーに表情を見せないようにした。そして、日本で行おうとしている星祭りについて、その儀式魔術の構成と意味を説明を初めた。


「京都で失敗し、東京で再度行おうとしている星祭りはシードブレイクや樹種により亡くなり、行き場を見失った者達の魂や負の残留思念を侍者司命神が持つとされる冥府の戸籍登録する事によって、行き場を見失った魂を輪廻に帰化させ、負の残留思念を浄化する。それによって魂は鎮魂され、負の残留思念は安寧を得た。その行為の対価として得た呪力によって、龍脈上にある大樹への制御、無害化を行う儀式魔術でした」

「・・・ウム・・・人の魂をあるべき処への帰化と負の残留思念を浄化。その帰化と浄化の褒価として、龍脈上にある大樹への制御、無害化するだけの呪力を得る儀式魔術か・・・」


 魔術師でもあるグローサリーは一文字の話しを儀式魔術の内実を聞き、割り込みをかけようとした魔術に関して、腕を組み、親指と人差し指を顎に当てて考える。そのまま顔を天井に向けて考えた時、欲人が良く考えそうな事を思い浮かべた。


「隊長、もしかして、儀式魔術に割り込んだそいつは、帰化と浄化による褒価をそいつ自身に仕向けたのではないか? 」

「ん、グローサリー、その心は? 」

「・・・不老不死。国家レベルで行い、莫大な魂や思念を浄化する儀式魔術だ。それで得られる呪力は計り知れないだろう・・・それだけに得られる確率は高い」

「グローサリー、正解だ。不死までは得られずとも不老長寿は間違いないだろう。あいつがどれだけ生きたいのかわからないがな」

「え・・・? 」

「ふぅーーーー」


 グローサリーは顔を一文字の正面を向き、自分が行き当たった答えをぶつけた。

 一文字はグローサリーの答えに手を叩いた。叩いた後、『正解』と少し険しい声で返答し、叩いた手はまた、おなかの前に戻し、両腕を強く組んだ。

 ロレッタは口を開け、呆け顔になり、オラジはどうしようもない奴もいたものだと手を額に当ててため息をつく。


「え、え? 不老不死とか不老長寿ってそんなに得られるものなんですか!? 」

「なんじゃ。小娘。おまえは不老不死になりたいんか? 」

「い、いや、不老とかなら憧れはしますけど、聞いていたら、人の魂や命を対価としているんですよね! わ、私はそこまでしたい、なりたいとは思ってませんよ!? 」


 ロレッタは驚いて声を上げた。その様子にオラジはロレッタに問い、ロレッタは驚いた拍子のまま、思ったままの事をそのまま口にした。


「クックック・・・正直じゃな。まぁーこんな世の中じゃ、長生きなんぞしても、良い事なんぞ。ありゃーせんじゃろ」

「オラジには長生きしてもらって、整備とかしてもらわないと困るんですがね? 」

「かぁーーー死にぞこないに期待するのが間違ってるんじゃ! 坊主! 年寄りは労わるもんじゃぞ! 」

「・・・隊長、それでそいつや星祭りはどうなったんだ? 」


 とオラジと一文字が軽口を叩き合う。その様子を見ていたグローサリーがズレた話を修正するように問いかける。

 一文字はコホンを咳をすると両肘を机の上に置き、両手を組んで、額をその両手の上に付けた。一呼吸を置いて、その後の話をする。


「前樹皇の儀式途中で鎮魂、浄化で得られるはずだった呪力が無くなった為、京都の大樹は暴走しました。それに伴いシードブレイクで落ち、発芽していなかった種子は急成長、また樹種も狂暴化暴走しました。その時、京都にいた132万7501が死亡しました」


 一文字は両肘を机の上に置き、両手を組んで、額をその手の上に付けたまま、苦しそうに京都での儀式の失敗結果をメンバーへ告げた。

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