第26話 王と双樹の皇(おう)01
東京にはシードブレイク以前人口千四百万人とそこへ来ていた観光客二百六十万人が落種、発芽そして樹種の氾濫によってほぼ壊滅。
壊滅により生まれた大量の残留思念によって東京関東圏内が死都と化そうとした。
当時の天皇がその身を持って、旧帝国時代に築かれた山手線環状沿線に引かれた二重の魔法円と魔法陣を利用した大規模儀式魔術を敢行した事により、残留思念は浄化、樹種の氾濫は沈静した。
大規模魔術の波及は狭い日本列島の地脈を通り、古来より日本を守護していていた神樹の幻影に呼応する樹種と融合し、日本を守る結界となった。そして、これ以後、天皇家は儀式魔術の持続と各神樹の管理を行う事となった。
政治面においても、楽種によって国会議員も壊滅状態、全国が混乱に陥ろうとしたが大規模儀式魔術の成功により、生き残っていた議員が天皇家に主権を戻し、政治と治安の安定を図り、日本は何処よりも早く立ち直った。
政治の中心及び儀式魔術の持続と各神樹の管理を担った事で天皇家は樹皇家と呼ばれるようになっていった。
都庁に落ちた種子は発芽の際、大きく二股に分かれ双樹と育っていた。その地下には祭壇が出来上がっており、その中央に二人のおかっぱ頭の女の子が立っていた。
「咲姉上・・・かの王に依頼をお願いしました」
「岩魚、お疲れ様。ありがとう」
連絡事項と感謝を交わすおかっぱ頭の女の子の顔は瓜二つだった。ただ、姉である咲が岩魚と呼んだ顔には大きな痣があり、咲と岩魚、二人の、双子の女の子の見分けは付いた。
「京都では大きな痛手を負いました。此度の双樹での星祭りは成功させなければなりません。その次の前哨戦でしかありません」
「はい、咲姉上、京都同じ間違えは・・・今度は・・・すべてを排してでも・・・! 」
二人は双樹の前で鏡合わせの様にお互いの額を当て、両手を組んで瞑想をする。
これから進むべき星祭りに向けて決意を固める。
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双樹より南東部にある一室に脂ぎった太った男がいた。その男な前にいるスーツを着た男が『荒谷琢史様』と書かれた封筒をカバンから取り出した。
「荒谷様、ご希望の調査報告書が出てきました。ご確認を」
「で、出たか!? ようやく! さっさと渡せ! 」
「荒谷」と呼ばれた男は封筒ひったくる様にスーツの男から封筒を取った。封筒から資料の束を取りだし、書類の内容に目を通し始める。
「フム! フム! クフフ・・・あ? まだいたのか? もう出て行っていいぞ 」
「費用は? 」
「いつもどうりいれておく! とっとっ出ていけ! 」
「・・・ん」
荒谷がスーツの男に向かって、部屋を追い出す勢いで手を振りった。スーツの男は荒谷を一瞥すると部屋の外へ出ていく。
スーツの男が出て行くと、荒谷はもう一度書類の束を読みだした。
「ようやく樹皇が動いたか・・・クソ遅いだよ。ガキ共め・・・さっさと祭り位やればいい物を・・・前は清彦はいつもいつも見下してたが結局は失敗した。ワシは、ワシは上手くやってやるぞ! ・・・・・・くははっは!」
暗い一室の中で「荒谷」という男の狂った様な笑い声を出していた。廊下に出て帰っていたはずのスーツの男は帰らず、荒谷の笑い声が聞こえた来た時、スーツの男のにやりとしてその場を立ち去って行った。
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遥か西方の地において、とある地下の一室に高級そうな机、高級そうな椅子に座った黒い司祭服を着た男が電話をしていた。そこからは女性の声が聞こえてきた。
『お久しぶりです。ドロテオ司祭。何か? 』
「赤頭巾・・・相変わらずの不遜ですだな」
『電話相手が貴方ですから。寮の電話なのでさっさと言って下さい』
「ック・・・赤頭巾。これれからお前のいる学園に異端者が現れる。そいつは天使より渡された神聖な聖書を持っている。そいつから奪い持ってくるのだ」
『っは? 私は賊ではないのですが? 』
「黙れ異端者が貴重なで神聖な聖書を持っていること自体、不信で許さざる事なのだ。」
『・・・それで子細は? 』
「後ほど資料を送る。確実に手にするんだぞ」
と『ドロテオ司祭』と呼ばれた男は通話を切った。電話を切った男は椅子に深く座り込み、天井を見上げて呟く。
「フフフ、神聖力が甦った。これが有れば何でもできる。後はあの男が持っている聖書があれば、あ奴を下ろす事が出来る」
ドロテオ司祭は赤頭巾が手に入れてくるであろう聖書を手にした時の事を考えた。
「天も魔も精霊、世界の法則もこの手に収まれば私の好き放題・・・世界が私の前に跪くことになる・・・」
ドロテオ司祭は暗い野望に浸り、地下の一室に絵がしがたい空気が包まれていた。
ドロテオ司祭から『赤頭巾』と呼ばれた女性は切れた電話の受話器を片手に胡乱気な顔をしていた。
「聖書を奪ってこいですか? 信心もなさそうなあの男が? 何を考えています? 」
『赤頭巾』は受話器を置き、自分の寮の部屋へ戻りながら考える。しかし、『赤頭巾』は途中で考えるのを止めた。
「子細も分からず考えても、どうにもなりませんね。どちらにしても異端者は死すべしですね。久々の狩りは楽しみでもありますね・・・」
『赤頭巾』は自分の部屋に入った時、恍惚と笑みを浮かべてベッドへ倒れ込んだ。
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イギリス、マンチェスター駐屯地のL.M.Dの4683部隊の休憩室では、一文字がロレッタに次の依頼をこなす為、日本語を急ピッチでレクチャーしていた。
「ロレッタ、そこの文章間違ってるよ」
「ど、どこですか?! 隊長?!」
「ここは、”は”ではなく”が”です」
「ふぇぇーーー何で今更学生する為に勉強しなくちゃいけないんですか!?」
「それは依頼があったからですよ。仕方がありません」
「
「ロレッタ、あっちの防衛校は大学扱いですから当てはめれば、2年か3年ですよ? 」
「勉強は終わったと思ったのにイヤーーー!!! 」
と一文字がロレッタへ教科書片手にペンを向けて、早く書き取る様にと促し、ロレッタは頭を抱えていた。そして、4683部隊の休憩室にロレッタ哀愁の声があがる。
因みに一緒に行く予定のマリナは日本に住んでいたこともあり、教科書を見て、復習するぐらいですんでいた。
魔術を理解し思考するには自頭が良くなければ難しい事もあり、その点でもロレッタとは差異があった事はロレッタにとって悲しい事項でもあった。
ともあれ、世界東西の要地に置いて、それぞれの思惑が生まれた。その中心地となる日本へ一文字達は数日後で旅立つことになった。
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