第24話 王と復讐の騎士24
一文字はL.M.D総部隊長室の扉の前に立っていた。また、パール一将の甲高い声に迎えられるのかと深呼吸をし身構えて総部隊長室に入る。
「4638部隊部隊長、大樹=一文字三佐入ります」
シュッという音と共に扉が開き、敬礼をした後、おずおずと一文字は部屋に入って行く。だが身構えて入ったのに反応がなかったので前を見ると部屋の右手にパール一将は窓の外を見る様に立っていた。
「パール一将、戻ってきました」
「・・・・・・」
「パール一将・・・? 」
返事を返してこないパール一将に訝しげに見ると、正面の机の奥の椅子の背がクルリと回った。鋭い目付きをした、長身で黒髪の落ち着きのなく少しよれたスーツ姿の男性が座っていた。そして一文字を見ると片手を上げて声をかけてきた。
「や・・・やぁー大樹、お帰り」
「エ、エル=バーハン総将・・・? お、おかえりで・・・」
「ああ、結構前にね。日本から帰ってきていたよ? 色々大変だったようだね?」
「あぁ色々大変だったよ。うん・・・」
「護衛任務で行ったカーライル城駐屯地で防衛戦になったり、その前に
バッとパール一将を見ると片手を上げ「スマン」と言っている様だった。一文字はガクっと肩を落とし、コツコツコツと机を叩いていたエル総将の方を向き謝った。
「すみません・・・」
「ん・・・まぁ色々言いたいことが有るけど、カーライル城駐屯地での防衛戦で守り切った事で、
エル総将は額に手を当てながらため息をついた。パール一将もバッと両手を広げ、陽気な声で会話に入ってきた。
「あぁー本当にね! あそこのロンガンの大樹に樹虫が接触していたらゾッとするよ! 失敗していたらここは沈んでいたかもね!? 」
エル総将に調子を抑えられていたパール一将が調子を取り戻した感じで合いの手を入れる。パール一将の様子を見て一文字も首肯した。
「ああ、運が良かったよ。それに
「ほう、祭祀エルウィン、そんな物を隠し持っていたとはな」
「それも含めて運が良かった」
一文字、パール一将、エル総将の三人は一様にため息を付いた。そして、パール一将が一文字にマリナの事を聞いた。
「して、
「いや、マリナは防衛戦になった村の被害者の葬送を行って、ミン=ガジが制御魔術式のチェック中だよ」
「葬送か・・・報告書は先ほど見た。小さな村で200名程、そのほぼ全てが樹虫にやられたか・・・」
一文字は顔を伏せ、目を閉じた。そして、次に眼が開いたときには剣吞な様子で盟友の一人たるエル=バーハンへ尋ねた。
「で・・・エル・・・僕はまだ今回の事による最悪を考えて行動を行ったが、その前の原因については知らないんだ教えてくれないか? 」
腕を組み怒気を孕む一文字にエル総将は落ち着きがなさそうに報告書を一つ持ち上げ、ピラピラと振りながら書類内容に目配せをした。そして、書類を机の上にパサっと投げ捨て、エル=バーハンもまた剣吞な感じで一文字に返答した。
「それについては報告書を見るに堪えんし、英国MD師団の者の物言いに聞くも堪えん。原因はヒューマンエラー。サボタージュ。見逃し三振でアウトな感じだ」
「「ほう」」
「エデン川上流より漂流してきた樹虫:蟷螂の卵が流れてきて、ドリネット村付近の川沿いに卵が引っかかり漂着。その卵が孵化して今回に繋がった」
「いやいや! 沿岸警備はどうした! 蟷螂の卵だって言っても樹虫の卵だそれなりの大きさがあるはずだ! 見逃しようがないと思うのだがね!? 」
「英国MD師団の中であまり勤務態度が良くない者が当たっていたようだ。しかし、どこでも人では不足している。司令部は河川で樹虫、樹獣類は出ないだろうと川の沿岸の警邏に配備したとの事だ。確かに水棲樹種というのはあまり見かけんがロンガンの大樹がある所でそれは杜撰だ! 」
エル=バーハンは怒りもあらわに机を叩いた。一文字はそれに意を介さず、見落としをした連中の事を一文字がエル=バーハンに尋ねた。
「で、そいつらは・・・? 」
エル=バーハンはネクタイを緩め椅子にもたれながら嘆息の息を吐き、また片手で机をコンコン叩き始め、怒気を孕む一文字の質問に答えた。
「ふぅー。卵が漂着したと思われる付近で
「っ!!! チッ八つ当たる所が無いね」
「さらに言えば、その連中が乗っていた
「どこまでも使えない! 」
一文字はエル=バーハンの答えを聞いて、やり場のない感情に眉を顰め、苦々しい顔をしつつ、毒気を吐いた。毒気を吐く一文字にパールは合いの手を入れる。
「はっはっは!!! 大樹が八つ当たりしたら、すぐに死んでしまって、八つ当たりにもならないさ! 」
「そんなことはないですよ。砦の大将辺りに生きながら徐々に腐っていく呪いをかけてもらうだけですよ? フフフ・・・」
「いやさ!? 大樹はおっかないこと言うねぇ! もう少し大人にならないと駄目さ! 」
一文字の心情を察するパールは弟をあやすように、平手で軽くポンポンと頭を叩き諫める。その兄弟の様に見える二人を横目にエル=バーハンは椅子ごと横に回り、左手の指で机をコンコン叩きながら呟いた。
「京都132万7501、ローマ115万4219、ロンドン241万5964、他20万と少しに今回で約200・・・もつのか? 」
「もたせる。それが彼女の我儘で、その先に僕の我儘があるからね」
「・・・・・・」
この場の三人にしかわからない会話で前日のカーライル城防衛戦の報告を閉じた。
パールが手を叩き場を改める。彼は顎を擦りながら、エルの顔に近づき、違う方向の話を持ち出した。
「それはそうとエル。君が日本へ行った結果はどうなんだ?! エルの事だから有用な話を纏めてきたのだろう? ここには盟友たる3人しかいない! さっきまでの話は重すぎだ! 話しの内容が明るくて良い話を聞かせちゃくれないか!? 」
そんな事を言い出したパールの顔を両手で抑える。
「くっこの・・・顔が近いし、五月蠅い・・・離れろ・・・」
「くくく、パール、エル・・・」
二人の様子に大樹は片手を軽く握り、口を押えて笑った。
普段の部隊では雰囲気が暗くなった時にはジュリアルドが場が明るくなるように切り替えてくれるが、ここではパールが担ってくれている様だった。
「エル、僕も知りたいな? 教えてくれないか? 」
と一文字はエル=バーハンへと微笑みながら問いかけのだった。
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