第23話 王と復讐の騎士23

 マリナの部屋を出た一文字とロレッタは4836部隊に割り当てられた休憩室に戻ってきていた。ジュリアルド、グローサリー、オラジの三名はまだ戻ってきておらず、一文字は隊長席に、ロレッタはソファーに座って、コーヒーを飲んでいた。

 ロレッタはコーヒーを二、三口、口にしたところで一文字とミン=ガジが自分の眼について話していた事を思い出した。


「あ、そうです。一文字隊長、ミン=ガジさんに私の眼を聞かれていましたが、私の眼になにかあるんですか? 」

「うん? ああ、そのことですか・・・ロレッタ、貴方はドリネット村の葬送の場の柱や黒球、先ほどのマリナの部屋のトーチ、魔術円が見えていましたね」

「えぇ・・・それが何か? 」

「普通、葬送の場の柱や黒球、トーチと魔術円は常人には眼に見えるほどの存在情報力を持ってないのですよ。百歩譲って黒球の元の残留思念等はちょっと感性、感じる力が強い人の中には見えてしまうことはあります。霊感とか強い人とかね」


 そこで一文字は話しを一区切りし、コーヒーを一口含んで、口の中を湿らした。


「しかし・・・マリナの魔術で発生した柱やトーチと魔術円は別です。魔術の使用するにあたって周りの環境への悪影響を抑える為に多少なりとも隠蔽力が働くんです。ジュリアルドやオラジの一般人に近い人たちはそこに何かあるように感じることは出来てもロレッタの様に柱やトーチ、魔術円までは見えないはずなんです」

「えっ・・・そ、そんな。わ、私ははっき・・・り・・・」


 一文字の話にロレッタは持っていたコーヒーを机にタンと置き、背をのけ反らせ、口の端は引きつらせていた。


「で、でも私は魔術について知ったのは、この間の初任務後ですよ?! 今まであんなの見たこともありませんでしたし?! 」

「ああ、ここに来るまでは魔術とは無関係だったなら、見えた理由のほかにあって、元からの体質で魔術に触れたことによって覚醒したのかなと」

「体質? 覚醒? 」

「見鬼や審神者とか見る事に特化した魔眼の類かなと。それとジュリアルド達から魔術を聞いて、知識の前提が頭に入った後で、マリナの魔術に反応して何かしら目覚めたのと思って、魔術師の見識も深いミン=ガジに聞いてみたんです」

「そ、それで私の眼、というか私どうなっちゃっているんですか?! 」


 ロレッタは伸ばした背をズイッと屈め、一文字を何か期待した目で見る。一文字はロレッタの期待する眼に耐え切れず、クルっと椅子を回して横を向くとミン=ガジからの結果を言った。


「その結果はわからないとう事でした」

「あう」


 一文字とミン=ガジの会話の結果を聞くとロレッタは何かわかるかと思っていたのでガクッと肩を落とした。


「ただ、まだこれからとの事でしたので、魔術が使えるようになるか。体質として目覚めるかはこれからだそうですけどね」

「ヒャホーーー私でも魔術が使える様になるのかな!? 」


 一文字はミン=ガジからロレッタの可能性がある事について口にすると、魔術が使える可能性に無邪気にロレッタは喜んだ。

 魔術の可能性に心躍らせ喜んでいるロレッタの様子に、一文字は魔術の残酷な面も知っている為、複雑な気持ちでロレッタを見ていた。そこへジュリアルド、グローサリー、オラジの三名が入ってきた。


「なーに、はしゃいでいるんだロレッタ? 」


 とジュリアルドは飛び跳ねているロレッタの額を抑え茶化すように声をかける。いつもだったら怒るロレッタも今は自分の可能性の嬉しさが勝っていたようで、陽気にジュリアルドに言い返した。


「あ、お帰りなさい!むっふージュリアルドさん!私、一文字隊長から私にも魔術が使えるかもって言われたんです♪ 」

「何!? お馬鹿そうなロレッタが!? 」

「そっうですぅー。お馬鹿なジュリアルドさんには無理かもですけどー」


 びっくりするジュリアルドにロレッタはグフフという忍び笑いをする口に左手を当て、右手は「いやだよーあんた」みたいな感じで振って、ジュリアルドにさらに返した。ジュリアルドは少し悔しそうにしたが、ロレッタが苦手そうな事を思いつき口にした。


「ぐぅぅ・・・そ、そうか。なら、これからお勉強だな・・・魔術を使うためには天文学とか神話、伝承とか知らなきゃいけないことがごまんと出てくるだろうからなぁー。が・ん・ば・れ・よ! 」


 魔術が使うに当たって、知識を増やす事をしなくてはいけないことに気が付いたロレッタは頭を抱えて叫んだ。


「ふぁーーーお勉強はイ・ヤでぇーーーす」


 ジュリアルドとロレッタはたわいもない会話を交わす。

 先程まで一文字が纏っていた陰鬱さは二人の陽気さにかき消され少し微笑んだ。まだ、茶化し言い合っている二人を尻目にグローサリーとオラジにここまでの修復作業の具合を確認した。


「MDの方は修復作業は終わった。後は武器等の整備だ」

戦艦戦車キャッスルベースの方は後一日二日ってところじゃな。儂が見てなきゃならんところは超えたからな。後はスキンヘッドに任せてきた。それでマリナ嬢ちゃんの方はどうした」

戦艦戦車キャッスルベースの方は了解です。マリナの方は心霊術師のミン=ガジに見てもらっています。今日には復調するはずです」

「もう少しでひと段落するかの」

「そうですね。戦艦戦車キャッスルベースの方は後一日二日かかる様ですが、任せられる相手ですので良いでしょう。ここ二日間お疲れさまでした。戦艦戦車キャッスルベースの修復が終わるまで一休みしてください」


 一文字はメンバーの皆に休息する様に告げた。色々言い合っていたジュリアルドとロレッタは言い合いもやめ、ヒャホーと喜び、グローサリーとオラジは肩の力を抜いた。その様子を見た一文字はスクっと席から立ちあがった。


「ん? キング何処へ? 」

「L.M.D総部隊長室へ。パール一将へ今回の報告と原因を聞いてくるよ」

「それはいの一番でやらなきゃいけない事じゃないか? 」

「ほんとはね。だけどマリナの方が重要だったから・・・制御魔術がはじけ飛んだらここに死者の都ヘルヘイムが出来ちゃうからね。制御魔術の確認が先で報告とかは二の次だったんだよ」

「「「あぁーーー」」」

「じゃ、そういう訳で行ってくるよ」

「「「「行ってらしゃい」」」」



 一文字は部隊メンバーに見送られて、4836部隊の休憩室を後にして、パール一将がいる総部隊長室へ向かった。



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