第22話 王と復讐の騎士22

 書類仕事を終わらせ一文字とロレッタはマリナの部屋へと向かった。部屋前まで来ると一文字がロレッタに目を瞑る様に指示を出す。


「目を閉じるのですか? 」

「あぁ今マリナの部屋の中は光も通さない程、真っ暗だ。先に目を閉じて暗闇に慣れさしておいた方がいい」

「な、なるほど、わかりました」


 一文字はマリナの部屋の扉を開けて、ロレッタの手を引き、部屋の中へと入る。扉が閉まると一文字はロレッタへ話しかける。


「もう少し目をつぶていてくれ」

「は、はい」


 一文字はロレッタの手を引き、シャーッシャと音をさせて、カーテン奥へとロレッタを誘う。カーテンを閉めた後、ロレッタのにもう目を開けて良いと声をかけた。

 ロレッタが目を開けるとそこは光が入らない漆黒の闇だった。目を瞑って暗闇に慣れさせていたとしても周りに何があるかわからに程の闇に包まれていた。


「右だ」

「え・・・あ、あれって・・・」


 ロレッタが顔を右へ向けるとベッドの上に綺麗な裸体をさらしたマリナが寝ていた。その前に長い白銀の髪プラチナブロンドをした女性が身を屈めて、マリナの身体の上で人差し指と中指を立てて、クルリ、クルリと円を描くように指を回していた。

 ロレッタはこの暗闇の中で何故かマリナ達が見える事が気になった。マリナと白銀のプラチナブロンドの女性の周りには青白い光が幾つも漂っていた。それはあたかも人魂のように見えた事にロレッタは声を上げそうになった。


「ッヒ、ヒェ・・ウグ・・・」

「ロレッタ静かに・・・」


 声を上げそうになったロレッタの口を一文字はすかさず手で抑えた。大丈夫そうになった頃合いをみて、一文字は手を外すとロレッタは大きく深呼吸をした。


「ふぅーはぁーあ、あの光は何ですか? それにあの方はマリナさんに何をしているんですか? 」

「もしかしたらと思ったがやっぱり見えるのか・・・」

「え、見えたらいけないんですか・・・? 」

「見えちゃいけないことは無いが・・・」


 一文字は言い淀んでいると奥にいたマリナに対して何かを行っていた白銀のプラチナブロンドの女性からしゃがれ声が聞こえてきた。


「タ・・・イキ、ソコ・・・ナ娘・・・ハナンダ・・・? 」

「ミン=ガジ。この子は今度うちの部隊に配属されたロレッタだ」


 一文字はミン=ガジと呼んだ白銀のプラチナブロンドの女性にロレッタを紹介した。ロレッタもそれに合わせて、慌てて自己紹介をする。


「わ、私はロレッタ=ティラーと言います」

「ウムゥ・・・ワ・・・レハ・・・ミン・・・ガジト呼バ・・・レテイ・・・ル」


 ロレッタは正面を向いたミン=ガジをよく見ると綺麗な白銀のプラチナブロンドでスレンダーな身体をした女性だったが、顔を見ようとすると骸骨の仮面で隠れていて素顔を見る事は出来なかった。また、ロレッタは仮面を外せば綺麗な女性と思われるのだが、しゃべる声がしゃがれ声が気になったが、姿勢を改めて正して挨拶をした。


「ミン=ガジさん。よろしくお願いします」

「ウ・・・ム、ナ・・・カナカ、礼・・・儀ガア・・・ルコダ」

「あ、ありがとうござます。それでミン=ガジさん、周りに浮かんでいる光は何ですか? それとマリナさんの身体の周りに浮かんでいる丸は何なんですか? 」


 とロレッタは矢継ぎ早にミン=ガジへ質問をする。ミン=ガジはしゃべるのが苦手なのかどもりながら声を出す。


「・・・ン・・・娘・・・良イ・・・眼・・・ヲモッテ・・・イルナ。コ・・・ノ光・・・ハ」

「ミン=ガジ。説明は僕が引き継ぎます。その前に貴方が良い眼と言ったロレッタの眼が何だか分かりますか? 」

「ン・・・ソウ・・・カ。ソコ・・・ナ娘・・・ノ眼ハ・・・マダサダ・・・マッテオ・・・ラズ・・・」

「そうですかまだ分からず・・・ミン=ガジ、作業中申し訳ありませんでした。もう少し様子を見ます」

「・・・イヤ、問題ナ・・・イ。デワ・・・作・・・業ニモ・・・ドルゾ」


 一文字はロレッタの眼の事をミン=ガジに聞いてみたが、まだわからないという返答だった為、もう少し様子を見ることにした。そして、一文字はミン=ガジから引き継いだ話をロレッタにし始めた。


「まず、あの光は魔術で作り出した光でトーチと言うんだ。流石に真っ暗だと作業ができないからね。なぜ魔術で作り出した光でなければいけないかというと・・・」


 一文字は一度説明を切るとマリナに浮かび上がっている数々の円を見て、説明を続ける。


「マリナ自身にかけている魔術の調整には日の光や電気の光でもあってはいけないんだ。そして、あの魔法円はマリナが取り込んだ魂や残留思念が暴走せずに復讐を果たせるように制御、封印しているんだ」

「あの魔法円が・・・制御封印を。でもそこまで深い復讐心って・・・」

「そう思うのも分かる・・・だけど、前にも言ったが理不尽に死んだ者たちの魂や残留思念の数は相当な数です。マリナが消えないようにするには制御封印は必要な事です。そして、それを背負って復讐を決めた事はマリナ自身だ。誰が止められたものでもない」


 ここまで一文字が話していくうちに段々と俯き、手を握りしめていが、ばっと顔を上げ魔法円の調整を受けているマリナをみる。


「ただ、この先は僕自身の我儘です。マリナが魂や残留思念を背負った際、マリナがその場いる樹獣、樹虫に背負った事で得た力を喚き散らかすように振るって、そのまま霧散するように消えて行くのが嫌だったんです。だから僕は制御封印の魔術式をマリナへ施し、復讐をちゃんと果たせるように復讐騎士アベンジャーにしたのです」


 ロレッタは一文字の強い意志の吐露に驚きを感じ得なかったが、まだ話が続くようなので静かに続きを待った。


「当時も今もですが僕の制御封印の魔術式に関する技術は拙い所があるので、制御封印の魔術式の確認をミン=ガジにお願いしているんです。ミン=ガジは心霊術師で魂や残留思念関する魔術に関して深い見識と技術を持っているんです」

「なるほど、なるほど・・・」


 ロレッタは一文字の説明に何かどうしようもないもどかしさを感じながらも理解を示した。一文字はそこまで話して、マリナの事については語り終えたと感じ、これ以上はミン=ガジの邪魔になると思い、ロレッタに外へ出る合図を送った。ロレッタも承諾し、静かにマリナの部屋を後にした。

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