第20話 王と復讐の騎士20

 数日後、ドリネット村はL.M.Dが手配した2×4な住居を建て、生き残った20数余名が住める様になった。生き残った村人の中で働けるものは森林十架教の修道院でもって働くことになり、村人の生活の基盤を整えた。そして、ドリネット村のはずれにおいて、森林十架教の祭祀エルウィンを始め、生き残った村人達が葬儀を執り行っていた。この葬儀をもってL.M.Dの救援支援も1つを残して終了となる。


「祭祀様ありがとうございました」

「祭祀様程の方に祈られれば亡くなった者たちも安心して天国へと行けますじゃ」

「ありがとうございます」

「お、おかぁさん・・・グスグス」

「いえ、これが私たちの役目ですから、あなた達はこれからが本当の試練なのですから、さぁ家へ戻り英気を養い、まだ続く明日への糧としなさい」

「わかりましたじゃ。さぁ子供たちも帰ろう」


 葬儀が終わり、村人たちが祭祀エルウィンの周りに集まってお礼を言っていた。そしてエルウィンの言葉に誘われる様に年老いた村人が子供を連れて葬儀の場から去り、それに合わせて他の村人達も新しい住居へと帰って行った。

 村人たちが見えなくなったのを見て祭祀エルウィンが一文字達、マリナに声をかけきた。


「一文字殿。これで形式上一通りの葬儀は終わりました。聖女様この地に残る嘆き、悲しむ魂の葬送を頼みます」


 マリナは頭を一度縦に振り、墓場の中央へ赴き、「B」と刻まれた拳大の石を一つ置いた。その石の前で復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードを横にして両手で上に捧げ、朗々と呪言を唱え始めた。


「この地に嘆き、悲しみ、恐怖に失墜し魂よ。我が前に集い、我が身に宿り、力となれ。さすれば、復讐の女神たるモリガンが使徒であり、ススキの王に仕えし、復讐騎士アベンジャーマリナ=姫路=ジャダルが汝らの復讐をなそう。汝は女神、汝は間が世界、汝は成功、秘印よ印し示せ! Bペオーク! Dダエグ! Tティール! 」


「B」と刻まれた拳大の石は砕け、呪力の柱を形成した。柱の上の方にはBペオークの秘印が浮かんでいた。マリナのずっと後方に目の前のBペオークの呪力の柱と同じようにDダエグTティールの呪力の柱が建っていた。三つの柱が正三角形で囲むように図形を描き出していた。

 墓の地面より黒いモヤのようなものが立ち昇り、マリナの前斜め上に集まっていく。気が付くとマリナの後ろ村全体からも立ち昇り、マリナの前斜め上に集まり黒い球体になった。両手で持っていた復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードをドンと地面に突き立て、黒い球体に両手を伸ばした。そして大きく口を開け、黒い球体を吸い込み始めた。

 その様子をエルウィン、一文字達は静かに見ていた。ただ、ロレッタは声も出せず、後ずさった。少し青い顔をして一文字に尋ねた。


「た、隊長、マリナさんはい、一体何をしているんですか・・・? 」

「ん? 今マリナはこの村に残った良くない残留思念やこの地に彷徨う魂を食べているんです。そして、それを身の中に蓄え、復讐騎士の力の糧となすんです」

「な?! 」

「救わらぬ魂をその身に背負い、復讐を持って、魂を浄化するのが聖女としての役目なのです。」


 一文字とエルウィンを静かな答えにロレッタは反論する。


「そんな!? そんな事許されるわけが?! 」

「ロレッタ。許す、許さないとかじゃないんですよ。今この地に負の残留思念が残り続ければ、カーラエル城駐屯地にあるロンガンの大樹が吸い上げ、暴走しかねない状態なんです。それに救われない魂を背負う事を決めたのはマリナです」


 感情を高ぶらせるロレッタに対して、一文字はやるせない気持ちを隠しつつ静かに反論は認めないような声で答えた。エルウィンが一文字の言葉を引き継ぐように話をつなぐ。


「マリナは6年前、今回のドリネット村の様に樹種絡みの事件で残留思念や救われない魂等が多大な発生する事件が起きました。その時、マリナは残留思念や救われない魂救われぬ魂達を救う為にその身に背負いました。しかし、数多の魂を背負いきれず、マリナは暴走しました。近くにいた樹獣や樹虫を探し出し、場当たり的に戦闘を仕掛けていました。本来マリナの身体も魂も削られ死ぬ所を芒の王が騎士契約によって、魂を縛って今の今までマリナを存続させいるのです」


 祭祀エルウィンの話しを一文字は引き継ぐ様に話を続けた。そこには一文字の心の奥底の色々な後悔や思いを封じ、うら寂し気な表情でロレッタの顔を見ていた。


「ロレッタ良いですか。一度発射された弾はどこかに当たるまで飛び続けます。同じ飛び続けるなら確かな的に・・・復讐を遂げるべき相手に届くように導いて上げる事が幼馴染だった自分に出来る事なんですよ」

「なぁ!? 」


 祭祀エルウィンとそれに引き継いだ一文字の説明にロレッタは絶句し、以前聞いた話しにズレがある事に気が付き、険し気に一文字に詰問した。


「一文字隊長、以前、マリナさんは怒りの精霊フューリーに取りつかれたといってましたが・・・あれは? 」

「あれ嘘ですね・・・入ったばかりのロレッタに全て正しい事は言えませんよね。ただ事情は今祭祀エルウィン殿が話しと変わりません。残留思念や救われない魂救われぬ魂達が怒りの精霊フューリーに変えて話しをしただけです」

「そ、そんな霊に取りつかれたのと死んだ後でもそれをこんな風に飲み込むなんて!? 」

「ロレッタ・・・残留思念等に対して取れる手段はあまり多くはありません・・・何もなければ、葬式や時間が経つ事で浄化されていくのですが・・・今は状況が違います。何だかわかりますか? 」

「ロ、ロンガンの大樹・・・え、でも・・・」


 一文字の話しに含まれる危険さにロレッタは慌てる。そして一文字はロレッタに聞く。


「ロレッタ今、君は世界の裏を覗き込んでいます。どうしますか? マンチェスター駐屯地に戻った時に、色々と守秘契約があるでしょうが除隊しますか? 」

「わ、私は・・・お金もありませんし、除隊する訳にいきませんので・・・それに観ていなければいけない気がしますので・・・」

「そうですか・・・ロレッタの選択は尊重しますよ。それでロレッタ、君はあれが見えてるのかい・・・? 」


 一文字は黒球を指さす。ロレッタは何故その質問をしたのかわからず、キョトンした表情で返答した。


「え・・・はい」

「んーーーそうか・・・マリナの事は第S級秘匿事項になるから言動には気をつけてな」

「わかりました。気を付けます・・・」


 一文字は眉を潜め、顎に手を当てて思案し始めた。ロレッタはなにかおかしい所があるのかわからず首を傾げ、一文字の言葉を待つ。しかし、一文字が思案し始めた所で黒い球体を飲み込み終わったのかマリナは復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソード持ち上げ、背負いなおして一文字の方へ歩いてきた。


「隊長終わった・・・」

「お疲れ様です。マリナ」

「芒の王、聖女殿、ありがとうございました。これで完全に英国の危機は脱しました」


 祭祀エルウィンは一文字とマリナに会釈をし、礼を言った。直後、マリナが脱力し、身体を傾げたが、隣にいた一文字が身体を支えた。


「だ、大丈夫か? 」

「ぐーーーーーーZZZzzz」

「寝てる・・・ガク。ジュリアルド、復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードを頼む。グローサリー、肩を貸してくれ」

「うが?!キング俺が肩変わりますよ? 」

「了解・・・」


 というジュリアルドを無視して、一文字はマリナがいきなり寝ている事実に肩を落とした。そして、ジュリアルドに大斧剣を渡し、グローサリーと二人でマリナを支える。一文字達の一連の流れを見て、エルウィンは微笑む。


「本当にお疲れ様でした。これからどうするつもりですか? 」

「もうここでやるべき事は無いので、マリナを連れてマンチェスター駐屯地へ戻ります。この葬送でマリナの魔術装も緩んでしまったようなので、掛け直ししないといけませんしね」

「そうですか。わかりました。ここ一連の騒動については、修道騎士テンプルナイトの騎士団長ローランドが筆頭として調べて、L.M.Dに報告書を上げてあります。そちらをご確認ください」

「わかりました。報告書はマンチェスター駐屯地で確認させていただきます。祭祀エルウィン、色々とお世話になりました」

「いえ、こちらこそ・・・貴方方がいなければ、ロンガンの大樹の防衛もままならなかったでしょう。最悪の場合この英国は海の中に沈んでいたかもしれません」

「それこそ森林に宿る主の導きがあったのでしょう」

「確かに主の導きがあったのでしょう・・・我らが聖女殿をお願い致します。貴方達に森林に宿るの主のご加護を」

「かしこまりました。祭祀エルウィン、それでは」


 祭祀エルウィンは一文字の言葉に納得し、主に祈りと祝福を捧げた。その祈りと祝福を背に一文字達は戦艦戦車キャスルベースへ向かい乗り込んだ。戦艦戦車キャスルベースに火が灯り、マンチェスター駐屯地へ帰路についた。

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