第19話 王と復讐の騎士19

 マリナが蟷螂に止めの一撃を刺したのを見た一文字はカーライル城駐屯地防衛戦に終戦を感じ、戦艦戦車キャスルベース側の状況を確認する。


「ロレッタ、オラジ、戦艦戦車キャスルベース周辺の状況を報告してください」

「隊長の魔術で集めてた蟷螂は完全に駆逐出来たようじゃ」

「カーライル城駐屯地方面に抜けた蟷螂もいません。全てこの場所で仕留められたようです」

『キング、駐屯地の防衛部隊と森林十架教の修道騎士テンプルナイト達は一足先に周辺に蟷螂が残っていないか確認しに行ったぜ』

『村の中にはまだ生き残りがいるようだ・・・センサーに反応がある』

「わかりました。僕らは村の中に入り、マリナとローランド殿と合流後、金星の6の護符魔術で全て集められたかと思いますが村の中を警戒しつつ、生き残った村人の救助に当たります。それでは前進」


 一文字は他のメンバーに指示を出し、戦艦戦車キャスルベースと2機のMDは警戒しつつ村の中へ入っていった。

 村の中は金星の6の護符魔術で蟷螂を全て集め駆除出来たようで、センサーやレーダーには反応は無かったが幾人かの人の反応が見て取れた。早く救助作業に入るべく、マリナとローランドの元へ急いだ。

 村の中央広場には周囲の警戒に当たる鈍銀色のMD1機とマリナが倒した蟷螂の前にいたのが見えた。一文字はジュリアルドとグローサリーに周辺の警戒、大丈夫であれば周辺で人の反応があった所で壊れた建物をどかすなどの出来る救助をするように指示を出し、ローランドとマリナへ声をかける。


「ローランド騎士団長。無事でありますか?」

『おぉ一文字部隊長、こちらは問題無い。孵化したてとはいえ、あの数の樹虫に囲まれては少々心配したぞ』

「お気遣いありがとうございます。あのような無茶は孵化したてでなければ出来ませんでしたよ。それにロンガンの大樹に近づける訳にもいきませんでしたから・・・」

『そうであるな。間一髪であった』

「それから遅ればせながら、ローランド騎士団長。マリナの救援ありがとうございました。うちは蟷螂の駆除でまったく動けませんでしたので・・・」

『いやいや、こちらもマリナはうちの聖女だ。救援に行くことが出来て良かった』


 一文字は一息付き、ローランドとの挨拶を済ませて、マリナへ声をかける。


『マリナ、周辺はどうだ? 何か感じるか? 』

「何も」

復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードはどうだ? 』

「壊れてない」

『そ、そうか・・・』


 マリナは一文字へ少ない言葉数で返事を返した。そして、今回は復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードは壊れていないと片手で掲げて一文字に見せた。そんなマリナに軽く引きつつ、村の中ので生き残っている村人の救助をするようにマリナに指示を出した。


「ローランド騎士団長、これでひとまずは終戦として、カーライル城駐屯地へ連絡を入れようかと思いますが、どうですか? 」

『ああ、それで良いかと。私も救助へ回りましょう』

「わかりました。カーライル城駐屯地司令部、こちらL.M.D所属4638部隊、戦闘終了を報告する。なおドリネット村の村人が生き残りがいます。これより救助活動にはいります」

『こちらカーライル城駐屯地司令部、状況確認・・・戦闘終了を確認。お疲れさまでした。救助活動よろしくお願いします』

「了解」

「オラジ、ロレッタ、僕らも下に降りて、救助活動に入りますよ」

「了解じゃ」

「はい!」


 と一文字達も戦艦戦車キャスルベースを降りて、救助活動に加わった。

 大抵の村において危機が近づいた際、逃げ込む先のシェルターは地下に作られていた。蟷螂の襲撃や戦闘で建物家財を壊され、それらは瓦礫となった。シェルターの出入口は瓦礫で埋め尽くされた。瓦礫をどけて村人たちを救助していった。

 ジュリアルドとグローサリーのMDは中央広場にあった樹虫の大きな蟷螂を村の外へ置きにいった。空いた中央広場にはまだ遺体が安置されていく。村中に残る他の蟷螂の死骸を外へ運び、遺体を中央広場へ運ぶ作業は夕暮れまで続いていった。完全な夕闇に包まれる前に中央広場の周囲に篝火が焚かれ、亡くなった村人達の周りをオレンジの灯りで照らされた。生き残った村人達もまた遺体の周辺に集まり悲しみに暮れていた。

 マリナも安置された遺体の一体の傍に立ち、遺体を見下ろしていた。マリナが見ていた遺体は柔らかい胴体はなく、固い頭部部分が残された遺体だった。頭部の大きさからみて子供のモノと見て取れた。遺体を見ていたマリナにロレッタが尋ねた。


「マリナさん、そのご遺体は見知った方だったのですか? 」

「ん。この子は最後に休憩した時、私に声をかけてきた子」

「な、え・・・あの子」


 ロレッタは手を口に当て、マリナが見ていた遺体が先日見かけた子である事とその状態に血の気が引き顔が青ざめた。青い顔したロレッタは改めてマリナの方を見るとショックを受けた訳ではなさそうだったが、その子供の遺体から目を離せないのかじっと見ていた。


 一文字達もマリナやロレッタ、村人達の様子を見ていた。

 そこへカーライル城駐屯地へドリネット村に救援物資の搬送の為、英国のMD部隊とローランド旗下の修道騎士テンプルナイト帰還し、その入れ替わりで来たであろう法衣に身を包んだ祭祀エルウィンと森林十架教の修道士達が近づいてきた。


「一文字殿、お疲れ様です」

「祭祀エルウィン殿もお疲れ様です」


 エルウィンは挨拶もそこそこに身を寄せ、一文字に耳打ちをしてきた。


「一文字殿、少し宜しいでしょうか・・・? 」

「えぇ・・・この状況ですね」


 一文字も小さな声で答えるとエルウィンも体を話すと一緒に首肯する。二人は広場を離れ、人のいない少し薄暗い場所へと移動した。


「この村で思う以上に血が流れ過ぎた上、ロンガンの大樹に近すぎました。このまま行くと蟷螂との接触程ではないですが、良くない状況です」

「そうですね・・・地脈からロンガンの大樹に影響が出そうですね・・・」


 二人は少し思案し同時に思案結果を告げる。


「「葬送」」

「申し訳ありませんが、聖女様にお願いしてもよろしいでしょうか」

「それしかないですね。その前の葬式や村人のケア等はお願いしても? 」

「それはお任せください」


 エルウィンと一文字は今後について話し合った後、他のメンバーや修道士達のいる広場へ戻り、悲しみに沈む村人を見守った。

 祭祀エルウィンと修道士達は深夜になる前に破壊されておらず、就寝できる場所へ村人を誘導する。誘導した村人へ「どんな形でも生き残った者たちには明日は来る・・・今は辛くても床に入り、心と体を休ませなさい」と説法を説き、生き残った村人達へ眠る様に促した。

 村人たちを祭祀エルウィンと修道士達に任せた一文字達は自分たちにできる事、夜を通したドリネット村の周辺警戒に当たる事にした。そして、悲しみに包まれ、ともしびが減ったドリネット村を照らしていた月が沈み、地平の果てより太陽が昇り、朝日がドリネット村に指してきた。

 一文字達がドリネット村の警戒中に敵性反応がなかった事で、蟷螂との戦闘は完全終結とした。それはドリネット村で生き残った村人に明日がきた証拠でもあった。

 

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