第16話 王と復讐の騎士16
早朝、目を覚ましたマリナは何故か先日、声をかけてきた女の子が気になった。軽く首を捻ると
しばらく馬を走らせると村の入り口が見えてくるが、立ち昇る黒煙が見えた。マリナは村の異常を感じ、馬を止めて降りる。馬の首を駐屯地の方向へ向け、「お帰り」とと告げて、馬の尻を軽く叩きいた。すると叩かれた馬は駐屯地の方へ駆けていく。
馬から降りたマリナは村を見据えて、ポケットから小石を一つ取り出し握りこんだ。
「そは馬、然るべく運ぶ力、わが身に宿れ、
握りこんだ小石が砕けると光の砂がマリナの足にまとわりついた。マリナは村に向かって走り出した。その速さは馬よりも早くあっという間に村の入り口にたどり着いた。
村にたどり着いたマリナの右目に入ってきた村の風景は惨劇・・・ただその一言だった。建物に取りつき嚙り付く体長50cm程の蟷螂、右手にあった牛の厩舎の前では牛の死体を齧る同じ大きさの蟷螂が数体群がっている。そして、村の入り口より村の中央広場へ向かう道には、右手にあった厩舎より、ミルクを貰い家へ帰ろうとしていた親子であろう死体にも同様な蟷螂が群がっていた。
マリナは蟷螂が何匹いるかわからなかったが、村全体が目の前で起きている状況になっていることが察しがついた。だが、マリナの右目は目の前の親子の死体、特に子供の頭部に釘付けにされていた。その頭部の血に塗られた顔は先日、声をかけてきた女の子だった。
限界まで見開いたマリナの右目が、痛みと共に真っ赤に染まっていく。その痛みを抑えようと左手を当てるが痛みは引かず、血の涙が流れ落ちた。左の眼帯の下から赤黒いモヤが滲み出て幾つもの手のようなモノを形成していく。そのモヤの手はマリナに縋りつくように身体を捉えていった。
左眼帯の下が、現状を見る右目が、脳裏に幻視を見せ始める。それは今、ここではないいつか日、同じような風景を幾つも見せていく。それは樹獣の爪に殺される父親や男の子、樹虫に噛みつかれた彼女、友達、etc,etc・・・
マリナの世界が死んだ者、殺された者の恐怖、それらを守れなかった怒りと後悔とそれらを生んだ樹種への憎しみ、恨みで赤く黒く世界が染まっていく。
赤黒い世界はマリナに怒りや憎しみ、恨みを晴らして欲しいと縋りつかれて、身体を負の感情で支配されていき・・・意識が弾けた。
「GuAGAAAAAaaaaaaaーーーーーーーー」
マリナの口から復讐に燃えた獣が如き叫び声を上げた。叫び声と同時に
「
ビキビキビキ・・・ボゴーーーーーーン
マリナの呪言により小石はビキビキという音と共に膨れ上がり、大爆発を起こし、真っ赤な炎が牛や厩舎に噛り付いていた蟷螂達を骨や肉の一遍も残さず厩舎ごと消し炭に変えた。
マリナは
中央広場にたどり着いたマリナに、村の至る所で貪っていた蟷螂達がマリナに気が付き、身にまとう殺気に反応した。ブーーーンという音と立て、Gasyaaaと声を上げて蟷螂達の群れがマリナを囲み殺到する。
赤く血に染まった右目は収まらない怒りを湛え、殺到する蟷螂を見定める。両手に持った
「全てを切り伏せる・・・樹虫共・・・復讐の刃の果てに消えろ」
とマリナは復讐の宣言をし大斧剣を大きく振り抜いた。振り抜いたことでマリナの背中にスキが出来た。背後にいた蟷螂達は鎌手を持ち上げ、マリナの背に切り付けてくるが、大斧剣を振り抜いた勢いのまま身を翻した。その時、狼革のマントもまた一緒に翻った。翻ったマントは空気と風を纏い、切りつけてきた蟷螂の鎌手を払い逸らした。
マリナがいくら蟷螂の攻撃を躱し、逸らしても、蟷螂の数には勝てず、身体に切り傷が付いていく。だが、その身に宿る数多の復讐心の幻視の炎が身体を纏う。幻視の炎がマリナの身体の痛みを消し、傷から新たな幻視の炎を生み出し、傷が消えていく。
復讐の執行を行う
周囲の蟷螂達とマリナが戦闘を行っていると燃え上がっていた復讐心が鎖なようなもので絞め付けられ、感情が押さえつけられた感覚を受けた。その感覚と同時に頭上から声が聞こえた。
「マリナ=姫路=ジャダル!
その声にマリナの内にあった復讐心がスッと冷え、上空へ高く飛び上がった。ポケットから三つの小石を挟んで取り出し、小石を同時に下へ投げつける。マリナは呪言を口にし、それぞれの
「水、雹嵐、茨、凍え止めよ!
下へ投げつけられた三つの小石は同時に弾け、大量に発生した水を雹の嵐が巻き込み大雹嵐を起こした。大雹嵐の中の蟷螂達は鋭い氷の刃に切り刻まれ、次第に雹嵐は大きな氷となっていく。嵐に巻かれた水分も茨の蔦のように凍りつき、氷の茨の蔓の範囲内にいた蟷螂もまた氷の中に閉じ込められた。マリナは
中央広場にいた蟷螂達はほぼ殲滅出来たようだったが、まだ家などの建物内に逃げ込んで無事な住人もいるらしく、それ目当てに襲おうと建物にへばり付いている蟷螂達の姿も何か所か見えた。そこへ移動しようとした時、マリナの後方から一文字の呪力の波が村全体に広がったのを感じた。蟷螂達は誘われるように呪力の波の中心を目指して動き始めた。
マリナは一文字のいる方向へ移動しようとしたが、今いた蟷螂達より大きな気配を感じた。移動する事をやめ、気配を探り見つけた。そこにいたのは今いた50cm程の蟷螂などではなく、完全な樹虫だと言いことが出来る4m以上の大きな蟷螂だった。
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