第17話 王と復讐の騎士17
艦橋からみるドリネット村は火勢と黒煙が上がっていた。
先行させているドーロンからは家などの建物や死んだ家畜に噛り付き、貪り食っている50cm程の大きさの蟷螂が数十匹を画像に捉えていた。
指揮官の一文字は
ジュリアルドの報告より思考の海に沈み、目を閉じていた一文字の目が薄く開く。そして、メンバー全員に現状確認と指示を出し始める。それと同時的に建物に嚙り付いていた蟷螂の顔上がり、
「やっべ、キング、鎌野郎こっちに気が付いて動き始めたぜ!?」
「ジュリアルド、グローサリーは左右に展開、攻撃開始、ロレッタ、対空火器準備、上空に飛び上った奴を撃ち落とせ」
「「「了解」」」
カーライル城駐屯地防衛戦がけたたましい音と共に戦闘の幕が切って降ろされた。
カーライル城駐屯地の後続部隊も続々と到着し、
戦闘に入った各MDは思ったよりも小さい蟷螂の大きさと小ささから生まれる素早さに苦戦している所が見て取れたが、まだ入り口部分にいるせいか蟷螂の数はそれ程でもなかった為、蟷螂達を逃がさず殲滅出来ている様だった。ただ一文字は蟷螂達の数の少なさに疑問に感じ、オラジへマリナの様子をたずねた。
「ドローンでマリナの様子を捉えられますか? 」
「もう捉えとる。映像だすぞ」
先行したドローンの映し出したドリネット村の中央広場の映像が蟷螂達の数の少なさの答えだった。
中央広場の映像には一人の赤い
赤いドレスの騎士は長い黒髪と狼の毛皮のマントを翻すと同時に黒い死の大剣が振り回される。その剣閃が降りぬかれた空間は消しゴムで消したように蟷螂は消し飛び、空間が生まれた。しかし、その空間を埋めるように蟷螂が次々と湧いて出て、赤いドレスの騎士へ死の圧力を掛け続ける。
赤いドレスの騎士は死の圧力など気にせず、大剣を振るう剣閃の合間に何かを蟷螂の群れに投げつけると火球が現れ、焼き消していく。
赤い
「不味いマリナがキレている!オラジ!ドローンに音声は繋がるか?! 」
「問題無しじゃ! 」
「マリナ=姫路=ジャダル!
一文字は左手でインカムのマイクを口に当て、懐から取り出したカラビナを右手で握りしめてマリナへ急いで命令を出す。その命令はマリナの頭上に飛んでいるドローンのスピーカーから一文字の声が発せられる。
マリナはその声を聞いた瞬間、上空へ高く飛び上がった。ポケットから三つの小石を挟んで取り出し、小石を三つ同時に下へ投げつける。
ドローンが捉える映像には大量に発生した水を雹の嵐が巻き込み大雹嵐が発生していた。大雹嵐の中の蟷螂達は鋭い氷の刃に切り刻まれ、次第に雹嵐は大きな氷となっていく。嵐に巻かれた水分も茨の蔦のように凍りつき、氷の茨の蔓の範囲内にいた蟷螂もまた氷の中に閉じ込められた。
マリナは自らの
「これでマリナの方は大丈夫だろう! 後は村に残っている樹虫だ! 分散されずに纏めてやるには・・・」
一瞬、一文字は顎に手を当て、オラジに甲板の魔法陣の準備を指示する。
「オラジ、金星の5、儀式魔術で蟷螂をおびき寄せる」
「お、おびき寄せるじゃと!? 」
「一文字隊長危険ですよ!? 」
オラジとロレッタは一文字から出てきた言葉に飛び上がるくらい驚いた。その反応も当然と思う一文字は苦々しい言葉で作戦を伝えた。
「ああ、手持ちの魔術で蟷螂達を分散させずに全て駆除するにはそれしかない。ロレッタ、危険は承知だ。しかし、英国が沈む危険を前にしてはそんなことも言ってられない!」
と一文字はそこで一息入れ、オラジとロレッタを見る。二人は一文字の決心した顔を見てうなずいた。ロレッタはMDの操縦者二人に指示を出した。
「ジュリアルドさん、グローサリーさん、これから一文字隊長が儀式魔術を施行します。絶対に蟷螂を
「な!? キング!」
「・・・わかった」
二人は一瞬慌てたが、直ぐに気持ちを切り替え、迎撃姿勢へ変えていった。それをみた一文字はオラジに全体通達を出すように指示した。
「オラジ全体に通達してくれ、これから
「了解じゃ」
オラジはコンドールを操作し、金星の6の護符の魔術円を甲板の上に映し出した。
一文字は艦橋のスロープを下ろし、甲板に出てソロモン王の
一文字の魔術行使の体制に入ったのを見て、オラジはカーライル城駐屯地防衛戦に来ている部隊員に通達をする。
「L.M.D所属4638部隊、操縦菅のオラジじゃ、一文字隊長が魔術を行使して蟷螂どもをこの
「そ、そんな事が可能なのか?! 」
「うちの一文字隊長なら可能じゃ! じゃから虫共の駆除を頼む! 」
「わ、わかった各員態勢を整えろ! 」
一文字は甲板に出て魔術円の前に立ち、人差し指、中指を立てて剣印を作りる。左右上下に十字に印を斬り呪文を唱え始めた。
「
剣印を魔法円に向けて振り下ろす。振り下ろされたと同時に魔法円が新月のような白い光を放ち、村へと魔法円が広がり消えた。
一文字は振り下ろした剣印を護符に向けたまま帰還の呪文を唱え始める。
「
一文字は呪文を唱え終えると振り下ろした剣印を顔の前に戻し、逆十字に印を切って、魔術に使用した存在情報力の残滓を焼失させた。金星の6の護符を発動させた一文字はこれから蟷螂達が押し寄せてくるため取り急ぎ艦橋へ戻った。
一文字が指揮官席に座ると同時にドリネット村からおびただしい蟷螂達の重音な羽音が鳴り響いた。ドリネット村にいた全ての蟷螂の姿が村の上空に沸き立つ雲の様に現れ、
「迎撃!僕らと銃器を持っている
とカーライル城駐屯地防衛戦を貼っている部隊全体へ指示を出した。ここまでして一文字は両手を組み、身体の力を抜いて、指揮官席へ深く沈んだ。
「生身であれば危険だが、孵化したての蟷螂ならMDや
「いえ・・・そうもいかないようですよ」
一文字が肩の力を抜こうとして所で、村中央の広場に飛ばしたドローンでマリナを見ていたロレッタが冷や汗を垂らし、一文字へ焦り交じりに叫んだ。
「一文字隊長見てください! マリナさんが危ないです!? 」
「はっ? 危ないって、何が・・・? 」
「体長4mを超える蟷螂がマリナさんの所に残ってます!? 」
「何?! 」
「なんじゃと?! 」
中央広場の上に飛んでいるドローンは氷山の上に立つマリナと体長4mを超える蟷螂が相対しいている映像を画面に映していた。
カーライル城駐屯地防衛戦の戦いはここからが正念場だった。
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