第11話 王と復讐の騎士11

 最後の休憩地である小さな農村の外で全車両駐機すると一文字は部隊全体に声をかけた。


「ここが最後の休憩地です。ここを出発後カーラエル城駐屯地に入ります。補充物資の積み下ろしがあるのでしっかり休んでおいてくださいね。食事当番は食事の準備をお願いします」


 補充部隊の兵士から一息付いた声がガヤガヤと聞こえてくる中、一文字以外のメンバーも声を上げた。


『おっしゃーやっと背を伸ばせるぜー』

『フゥゥゥ』

「ふんむー」

「ああぁーーーっと」

「んーーー年寄りには腰にくるのぅ」

「・・・」


 と言いながら、駐機状態の操作をし、戦艦戦車キャスルベースを降りてくる。

 この周辺は農地用に切り拓かれ、田園状態が見て取れた。他の地域とは一味違い放牧もやっているらしく何頭かの牛の姿も見えた。


「この辺りの様子はロンドンとは全然違いますね。本当に昔の?良い農村の姿ですよー」

「ここは小僧が中で話していたロンガンの大樹にかけた魔術のおかげでな。普通の動植物が住み着き、昔ながらの自然の営みが残っているのじゃ」

「それにこの付近以外では秘密なんだけどよー。樹獣や樹虫といったものも比較的穏やかなんだぜ」



 ロレッタは牧歌的な風景に見取られ、オラジは昔を懐かしむように目をすがめ、風景を見ていた。ジュリアルドが言った言葉にロレッタはエッとなってそちらの方を見た時、トントットトンコロコロと高い音がした。音がした方を見るとボーっと遠くを見ていたマリナの足元に大きめのゴムボールが転がってきた。足に触れたボールをマリナは拾い上げた。トテトテと可愛らしい足音を立てて幼い女の子が駆け寄ってきた。


「うわぁーおねぇちゃん、軍人さん?」


 マリナを見た幼い女の子は興味津々で見上げながら声をかけてきた。女の子の問いにマリナはコクンを首を一振りする。マリナを先ほど拾い上げた手元のボールを見た。


「これはあなたの?」

「うん!」

「そう・・・はい」


 と女の子から元気な返事が返ってくるとマリナはしゃがんで女の子へ手渡した。


「えへへーありがとーおねぇちゃん!」

「おーい、早く戻って来いよー」

「うん。今行くよー。おねぇちゃんバイバイ」


 女の子はお礼を言うと遊んでいた男の子か声がかかった。女の子はマリナに手を振って駆けていった。マリナも微笑を浮かべて手を振って応えていたが、女の子が見えなくなるとスクッと立ち上がって元の無表情に戻っていった。


「ほぁマリナさんもあんな表情出来るんですねぇ」

「良きかな良きかな」

「おぉ普段無愛想なマリナもあんな表情出来るんか。珍しいもの見・・・ボグァ」


 マリナの普段見れない表情を見た面々が揃って、感想を口にするとツカツカとマリナがジュリアルドの傍に行き、目つきをかまして食事場の方へ去って行った。ジュリアルドは両手で両目を抑え、「うぉぉ目がぁ、目がぁー」と言いながら地面に転がった。


「うおーマリナの奴、なんで俺だけ目つき喰らわしてくるんだよ!?おぉいてぇー」

「それはぁ普段の行いが悪いんじゃないんですか?」

「ロレッタ普段の行いってなんだよ!?」

「言葉のまんまだと思うが」


 ジュリアルドはマリナに文句を言っていると普段の彼の様子を見ているロレッタとグローサリーが突っ込みを入れた。


「ほらほら食事に行きますよ。ここで食べ逃すと積み下ろしで体力使うのに夜まで食べ物は無しですよ」

「「「「はい」」」」


 一文字は戯れているメンバーへ声をかけ、食事場へと向かっていった。


 食事場では食事当番の兵士以外に農村の村人たちの姿も見えた。臨時の外貨稼ぎとして食事の準備を手伝っていた。この農村では牛を飼っているおかげか他ではなかなか味わえないドリアやグラタン等の温かい食事が振舞われていた。シードブレイク以降食料を手に入れる手段も難しい為、兵士たちはこころよく受け入れていた。

 一文字達は食事場に張られたいくつかのテントのうち端の方で食事をとっていると先ほどのボールを持った女の子がマリナを見つけ寄ってきた。


「あ、ボールを拾ってくれたおねぇちゃんだ」


 と女の子はにぱっと笑顔を見せ、マリナは女の子をみてコクンと頷いた。女の子は改めてマリナの格好見る。赤いドレスに合わせた鎧、マリナの横に置かれた狼の頭の飾りとした灰色の毛皮のマント、そして、マントと共にある大剣を見ると周りの軍人と服装が全く違うので疑問に思った事を聞いた。


「おねぇちゃんは本当に軍人さん?皆と違うよ?」

「ええ、軍人ですよ。ただ私はあそこにいる森林十架修道会の騎士でもあります」

「ええ、おねぇちゃん、修道騎士テンプルナイツ様なの!?わーーー凄い、凄い」


 とマリナはカーラエル城の駐屯地の方を指さし説明すると、女の子は両手をパタパタさせながら喜んだ。それに対してマリナはちょっと困った様な表情を浮かべアワ付きながら答える


「い、いえ、いえ、私はそんな立派騎士ではなく。あのその・・・」

「おねぇちゃん。いつも守ってくれてありがとう。えへー」


 と女の子はカーラエル城の駐屯地にいる修道士や騎士達に良くされているのかマリナの膝に両手を置き、満面の笑みでお礼を言った。マリナは優し気な笑みを浮かべ女の子の頭を撫でる。そこへ女の子の母親らしき女の声がした。


「こらー。軍人さんの食事を邪魔しちゃダメでしょ。こっち来なさい」

「はーい。ママに呼ばれちゃった。おねぇちゃん。バイバイー」


 女の子はまたお別れの挨拶の言葉と手を振って、母親の方へ走って行った。マリナは優し気な笑みのまま、手を振っていた。


「おぉ普段無愛想なマリナのあんな表情を連続してみれるとは。珍しいもの見・・・ボグァ」


 マリナは表情を元に戻し、スクっと立ち上がるとジュリアルドの傍に行き、フンと声と共に目つきをかました。そして、マントや大剣を手にして戦艦戦車キャスルベースの方へ歩いて行った。またジュリアルドは両手で両目を抑え、「うぉぉ目がぁ、目がぁー」と言いながらのけぞりながら身を悶えさせる。


「うおーマリナの奴、また俺の目に目つき喰らわしてくるんだよ!?おぉいてぇー」

「余計な事を言うからですよ」

「「まったくだ」」

「さ、食事が終わったのなら、戦艦戦車キャスルベースへ戻って、出発準備です。行きますよ」

「「「はい!」」」

「いちち・・・へーぃ」


 一文字は肩肘ついて、じゃれ合っているメンバーに困り顔をしつつ、次の指示を出して、立ち上がり、戦艦戦車キャスルベースへ歩いて行く。他のメンバーも戦艦戦車キャスルベースへ歩いて行くが、ジュリアルドだけが両目を抑えつつ、涙目で歩いて行った。


 一時間程の休憩を終えた一文字達、戦艦戦車キャスルベースと補充部隊の車両はカーラエル城駐屯地へ出発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る