第9話 王と復讐の騎士09

 翌日、カーラエル城の駐屯地へ向かう補給部隊が駐機所に集まっていた。そこへ一文字達が載った戦艦戦車キャスルベースが入ってきた。その戦艦戦車キャスルベースを見た補給部隊の兵士たちがざわめき始めた。


「おぉ! あのいかれた戦車はL.M.Dの王様か! 」

「ひゃっほー今回は楽だぜ」

「夜もゆっくり休めるな」


 補給部隊の兵士たちのざわめきに語られる話は概ね好意的な内容だった。しかし、戦艦戦車キャスルベースの指揮官席に座っていた一文字はむっとした顔をした。


「いかれた戦車とはなんですか。いかれた戦車とは! いかした戦車でしょぅ? むぅ僕は気に入ってるんですがね」

「あはははは・・・」


 と一文字は文句を言い、ロレッタは乾いた笑いを浮かべた。一文字は首をふるふると振り、左前方の操縦席に座るオラジに顔を向けて指示を出す。


「オラジ、艦首を12時方向回頭、甲板、火星の6展開」

「了解じゃ」


 とオラジはコンソールをコントロールする。戦艦戦車キャスルベースのキャタピラがギャタギャタギャタと回り、艦首を12時方向へ回頭させる。一文字は指揮官席の肘置きの右にあるスイッチを押すと、操縦席、管制席の間にある艦橋の壁がシューという音と共に外側に倒れ甲板へ向けてスロープが現れた。一文字は指揮官席から立ち上がり、スロープから外の甲板へ歩き出した。甲板に出るとパァーと魔法円を描きだし、その前で立ち止まった。一文字は顔の前に右手の人差し指、中指を立てて、剣印を作り、十字に印を斬り祝詞を唱え始めた。


王冠ケテルより理解ピナーを経て峻厳ゲプラーに至りて、その座に降りよ、守護天天使カマエル。そして、火星より軍神マルスを迎えよ。軍神マルスよ。我が前にありし護符に力を与えよ」


 そして、剣印を魔法円に向けて振り下ろす。振り下ろされたと同時に魔法円が燃え上がるように赤く光消える。


守護天カマエルよ。火星より来たりし軍神マルスを送り返したまえ。峻厳ゲプラーの座に降りし、守護天使カマエルよ。汝もまた理解ピナーを巡り、王冠ケテルを抜けてあるべき処へと帰れ」


 一文字は祝詞を唱え終えると振り下ろした剣印を顔の前に戻し、逆十字に印を切った。魔術をかけ終わった一文字はまたスロープを渡って指揮官席に戻り、耳にインカムを付けるともう一度肘置きのスイッチを押す。甲板に向かって出ていたスロープは畳まれ元の艦橋の壁に戻る。


「補充部隊の皆さん、これからカーライルはカーラエル城駐屯地へ向かいます。護衛はL.M.D所属4638部隊がいたします。部隊長は大樹=一文字三佐です。よろしくお願いします」

「おーーー頼むぜーキング」

「楽させてもらうぜ!」


 と補給部隊の兵士から反応が返ってきた。その反応に対して一文字は苦笑いしながら答えた。


「えー火星の6の護符を使わせてもらいましたが、完全に何かに襲われないと限りませんので、気を抜き過ぎないでくださいね」

「「「OK,OK」」」

「ふぅーではカーラエル城駐屯地へ出発」


 と一文字は陽気な返事を貰い、出発の指示を出した。一文字達を載せた戦艦戦車キャスルベースは物資を載せた補充部隊の車両と共にマンチェスター駐留地から北部にあるカーライル、カーライル城にある駐屯地に向け、物資運搬の護衛として出発していった。


 出発してしばし後、ロレッタが一文字が出発する際にしていたことについて質問をしてきた。一文字はその質問に対して答える。


「一文字隊長、あの出発時に火星の6と言って、祈祷してきたのが魔術なんですか?」

「ん?あぁそうだよ。あれが僕の魔術の1つだよ。ソロモン王の大いなる鍵The Greater Key of Solomonに記載されている惑星を利用した護符魔術だよ」

「わ、惑星を利用した魔術ですか!? 随分スケールが大きいですね!? 護符魔術?火星の6の効果ってどんなものなんですか?」

「火星6の護符は旅行中に盗賊などに襲われないようにするための護符だよ。今は盗賊だけじゃなく樹獣や樹虫避けの効果も持たせているんだよ。補給部隊の兵士の皆はロレッタが来る前に何度か一緒に任務に就いているものだから、この魔術の効果をしってて、気が抜けまくってるのは困りものだよね」

「あははは・・・」


 と一文字は苦笑しロレッタもつられて苦笑する。ロレッタは1つあることに気が付いて、ばっと両手を振り上げて一文字へ質問する。


「あれ、ソロモン王ってこうエコエコなんとかぁーって言って、悪魔を呼んだりするする魔術じゃないんですか? 」

「エコエコって・・・召喚魔術もソロモン王が残した魔術だけど、あれはもう片方の魔術だよ」

「もう片方? 」

「そうソロモン王の鍵の魔術と呼ばれるものには今ロレッタが言い、有名な召喚術の小さき鍵The Lesser Keyとさっき言った惑星を利用した護符魔術、大いなる鍵The Greater Key of Solomonの2つ有って、主に僕が使うのはこっちの大いなる鍵The Greater Key of Solomonの護符魔術だよ」

「おーーーなるほど、樹獣や樹虫がよってこないのは良いですね! でもなんでこんな便利な護符を使わないんですか?一文字隊長みたいに護符を使える人は少ないでしょうけど? 」


 ロレッタは顎に人差し指当てて、首をかしげる。その問いに一文字の苦笑が止まらず、指揮官席に深く沈みながら答えた。


「あー便利だよね。いつでも使えたら。だけどね、この護符魔術は使う条件に曜日に対応した惑星の護符しか使えないという制限があるんです。今みたいに火星の護符は火曜日にしか使えず、水星の護符は水曜日にしか使えないとかね」

「えぇーーー効果は確かですがそれは使い勝手が悪いですねぇ・・・」

「うん、まぁ使い勝手が悪い魔術ですが科学にはできないことが出来るのも確かです。それに甲板に映し出した魔法円や護符を使用せず他の手段を用いる方法もあります。効果が縮小されたり、薄くなったりするのが難点ですが・・・そこは魔術師の腕前1つ、魔術の術は技術の術と同一というのはこういうところです」

「なるほど。魔術師も技術者や専門職なんですね・・・」

「なんですよ」


 とロレッタと一文字は腕を組んでうんうんを頭を動かした。MDⅡに騎乗待機しているジュリアルドがロレッタへ声をかけてくる。


「ロレッタ、俺たちが隊長をキング、王様と呼んでいるのは、隊長が使う魔術がソロモン王、王様というところからさ」

「そういう繋がりだったのですね。私は一文字隊長はあきらかに日本人なのにどこの国の王様ですかとジュリアルドさんお馬鹿すぎですと突っ込みまくりでしたよ。」

「ひ、ひでぇーーーキングなんとか言ってくれよ」

「う、うーーーん、ジュリアルドが残念なのは否定がぁ・・・」

「ガーン」

「「「あはっはー」」」


 とジュリアルドはショックを受けて固まり、一文字を始めとして皆笑っていた。そして戦艦戦車キャスルベースは補充部隊を護衛しつつ、カーラエル城の駐屯地へ向かっていった。


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