第8話 王と復讐の騎士08

「あ、そうしたら、MDで魔術が使えたら、強いですよね!グローサリーさんの”Doppelgängerドッペルゲンガー”の魔術を使ったら1体が2体で戦力倍増ですよね。樹獣や樹虫なんてドンドン倒せますよ!」


 とロレッタは一つ手を叩きにこやかに言った途端、部屋の雰囲気がぴしりと固まり、一文字やジュリアルドを始め他の者達も苦虫を嚙み潰したような顔をする。そして、ジュリアルドが頭を掻きながら答えた。


「あーロレッタ・・・MDに乗って魔術は使えねぇんだ・・・」

「え?なぜです?」


 ロレッタは予想外の返答にキョトンとして首を傾げたジュリアルドは少し考えて、一文字へ話を投げた。


「うーぁーキングどうぞ・・・」

「んーロレッタ・・・単純にいうとMDと魔術とは相性が悪いんだ。MDがというより鉄を始めとした金属、一部の例外を除いたものと相性が悪いんだよ・・・魔術を使用する際に存在情報を追加したり、上書きしたりすると聞いたとは思いますが、鉄や金属というのは固有存在情報が固定されすぎてて、追加や上書きが出来ない。それどころか固有存在情報内に魔術が象徴する森羅万象自然神秘の対になる物質科学文明の象徴が含まれていたりしていて、魔術が発動しないんですよ」

「なっ魔術が発動しない?! 一文字隊長、なぜそれほど魔術と鉄や金属の相性が悪いんですか?森羅万象・・・物質科学・・・って? 」

「魔術側の象徴とする森羅万象自然神秘の存在情報とは、人類の未知に対する恐怖、威圧感、信仰や尊敬、憧れから生まれてきた実体を持たない存在情報だったんだ。その実態をもたない存在情報故に自らの火や水を出したい等の望みの追加、上書きをしやすかった・・・魔術が発動しやすかったのです」

「おおーーー魔術が発動しやすかったということは昔は魔術をよく使っていたということですか?」

「その通りです。ただ人類は鉄を手に入れた事により事態は変わりました。鉄を始め金属加工をしていくことによって、人類の文化、文明レベルを引き上げた。それは森や山などの自然を切り開き、森羅万象の事象を人の知識や技術として解明していった事により、実体のなかった存在情報を固定していき、魔術の低迷の要因となったのが鉄を始めとした金属なんだよ」

「んんーーー?鉄がそこまでの意味を持っているというのは俄かに信じられません」


 とロレッタはこめかみに人差し指を当て、眉をひそめる。一文字は話しを続けロレッタへ問いかける。


「例えば昔話として、深い海には大きな蛇の怪物がいる。高い山には人を食う巨人ががいる。そんな話は聞いたことはないか?一昔前はほとんどの地球の陸海空、宇宙まで人の手が入って、そんなモノはいなかった事を知っている。深い海には潜水艇が、山には航空機、絶対に人の手が届かず神秘の塊だった月でさえはロケットや衛星で人が現地へ向かい、森羅万象が起こす不思議な現象や神秘的な現象を科学で解明してきた。実体のなかった存在情報の実態を浮き出す為に人類の英知をもって作った潜水艇や航空機は何出てきている?」

「潜水艇、航空機・・・あ、チタン合金・・・金属ですね」

「そう、金属。そして鉄は人が初めて手に入れた加工しやすく、堅固な物質なんだ」

「初めてですか?でも鉄の前にも銅や青銅って金属もあると思いますが?」

「確かに銅や青銅も金属ではあるが鉄ほどではない。エジプト、中国、日本などの国の礎は鉄を手に入れた国が戦争に勝ち、その土地に住む者を纏め、文明を築き、文明を育んできたのは紛れなく鉄なんだ。特に中世ヨーロッパにおける産業革命の中核をなしのは鉄だ。文化文明の形を成し、鉄は国家なりと文言すら残したんだ」


 ひと段落ついたところで、オラジが冷えたお茶を入れ、一文字に手渡した。一文字は冷えたお茶を一口含み喉を潤した後、また独白じみた話を続け始めた。


「とここまで鉄の事を説明してきたが、今度は森羅万象自然神秘の方だ。こちらも色々と象徴的なものがあるけれど、我々が重要視しているのは’樹’だ。ユグドラシル、世界樹、セフィロトの樹、マナの樹、生命の樹と・・・魔術的な象徴に事欠かない。それそれが世界を体現する巨大な木であったり、すべての命の源だったり、神に等しき永遠の命を得るとされたり、莫大な存在情報の塊を有していたりとされていた」

「はぁそんな話はオタクな話やオカルトとかでは聞いたことはありますが、それが鉄の話とどうつながってくるんですか?」

「んーちと鈍いぜ、ロレッタ」


 とジュリアルドが突っ込んできた。


「ロレッタ、鉄の斧は何を伐る? 鉄の剣、銃弾は何を奪う? 」

「え・・・あ・・・木を伐ります。命・・・を奪います」

「そ、鉄やそれに髄する金属は、樹そのものや象徴するモノを壊してしまうのさ」

「それにね、逸話ではあるけれど、エクスカリバーとかって聞いたことはあるかな? 」

「それは知ってます!アーサー王が持っていた剣ですよね! 特にここでは有名な話じゃないですか」


 ロレッタは自分でも知っている話が出てきた事で、少し元気が出てきた。


「エクスカリバーが持っていた意味とか何でできていたとかは知っている?」

「意味ですか?持った人が王様になれるとか、有名なミスリルーとかオリハルコンとかじゃないんですか? 」

「そういった話が筋ではあるんだけどね。そこにさっき出た逸話とゆうものにつながるんだ。エクスカリバーの話の中の一つに鉄、鋼、木を斬るものという意味が含まれているものがあるんだ。それにエクスカリバーそのものが鉄で出来ていたという話もあるんだ。木に鉄・・・何か気にならないかい? 」

「確かに気になりますね」

「うん、そして合わせたような話が一つ、神々や巨人の王達が治し、神秘的な九つの世界を内包していた世界樹に、鉄で作りし1本の剣、銘をエクスカリバーが突き立てられたことによって、世界樹は伐り分け放たれ、世界樹は枯れ果てた。世界が枯れ、死ねば、そこにいた神々や巨人なども死に絶える。次にできた世界で剣を引き抜き、王となったのは人っていうのはどうだろうね? まぁ・・・そこは置いておいて、結論的に言うと、そこまで神秘を殺してしまう鉄に神秘等の存在情報持つモノに存在情報の追加、上書きは難しいという最初に話した所へ帰結するんです」

「でも、一文字隊長。難しいという事は出来ないわけじゃないんですよね? 」


 とロレッタは一文字の難しいという言葉に引っかかりを覚え、素直な疑問として聞いてみた。


「うーん。完全には出来ないわけじゃないんだけど、精製方法によってね・・・日本の技術、たたら製鉄法で玉鋼とか作りこんでいけばあるいは。火・水・樹の要素にさらに神への祈禱などにより神秘性の存在情報が練りこまれるからね。」

「おぉーそれでMDを作ってみては! 」

「いやいやロレッタよ。人の手だけでMD1体分の玉鋼の精製ってどれだけ時間とコストがかかるとおもってるんだ!? 」

「あぅ! 」

「第一になMDにはもっと硬くて軽い金属で作られてるだ。全部製鉄されたものなんて重くて、樹種と戦えやしねぇよ」

「あうぅぅ」


 威勢のいい声を上げたロレッタにジュリアルドが手刀を喰らわせる。手刀を喰らったロレッタは頭を押さえ、両肩を落としてしょぼくれた。一文字はそんなしょぼくれたロレッタの肩を軽く叩き、話しかける。


「まぁロレッタのMDでも魔術を使えるようにする。その意見は正しい。そして、僕たちの部隊はその魔術が使えないという問題をどうにかするための実験部隊でもあるんだよ」

「え・・・?どうにか・・・? 」

「そう。どうにかだよ。そのためにもロレッタ、ジュリアルドや他の皆も試作機はあと少しでロールアウトされる。更なる情報収集の協力を頼むよ」

「はい!」

「っは!」


 と隊員達は一文字に敬礼を返した。そして一文字はパール1将からの輸送護衛任務を小隊メンバーへ伝える為、口を開けた。


「それから次の任務が決まりました。明日、ここマンチェスターからカンブリアにあるカーライル城駐屯地へ物資の補充運搬の任務護衛です」

「データの収集じゃなく護衛任務ですか? 」


 ロレッタは今までの話の流れからすると引き続きのデータ収集の任務だと思っていたため、疑問の声を出した。一文字はそれに対して自分たちの裏事情も含めて、肩を落としながら答える。


「ええ・・・本当ならもう少し休みを取ってからデータ収集任務だったのですが、マリナが壊した復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードを作る材料が足りなくてね。パール1将がその材料を取りに行くために表向きに護衛任務を出してくれたんだよ」

「え!?あの剣の材料ですか!? そもそもなんなんですか?あのMDを買うのと一緒の値段になる剣って! 」

「さっきの話ではないけれど、あの剣は魔術を使えるようにした剣なんだよ。ロレッタもここまで話を聞けばわかるだろう。ただの鉄や金属で出来た剣じゃなく、特殊な材料、それに合わせた製法で作り上げた1本なんだ。それを3本もここ最近で粉微塵にされて・・・アレク総隊長にばれる前に作り直してごま・・・」

「「「あっ・・・あぁ~」」」


 と一文字は最後を濁し、一文字の事情を察したロレッタ以外の隊員達は肩を落とした。一文字は強引に話しの取りまとめに入った。


「んっまぁそんな訳で明日、カーライルへ材料を取りに行く。皆、本当に頼むよ」

「「「「っは! 了解! 」」」」


 と一文字の声に応えて、隊員達は立ち上がり、一斉に敬礼をした。

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