第6話  王と復讐の騎士06

「置いて行くなんて酷いですよ!」

「いつまでも食ってるからさ」

「むぅ~、ちょっとくらいまってくれてもいいじゃないですか」

「そんなに怒っているとまた腹へるぞ」


 とシュッという音と声と共に”4836”と表札がついた休憩室に入ってきたロレッタに、片手を振りながら食後のコーヒーを飲んでいたジュリアルドは軽く答えた。

 休憩室にはジュリアルドの他にグローサリやオラジもその身を休ませていた。

 ロレッタはプリプリしながら部屋に入り、空いていたジュリアルドの対面へキュッと両手を握らせながらドスンと座る。


「ふぅ、グローサリさん、先ほどはありがとうございました。ジュリアルドさんは・・・もう」

「いつものことだ」

「あ、そうです。グローサリさんは私の隣にいたはずなのに、いつあの人たちの後ろに移動したのです?」

「いや、お前の隣にいたぞ」

「ふぅっへ・・・?いえ、でも、私の隣にいて、あの人たちの後ろにいて・・・」


 両腕を組み、気にした素振りも見せずにグローサリは答える。ロレッタは間の抜けた声を上げ、手をワタワタさせていた。そんな様子を見たジュリアルドはコーヒーを片手に、ニヤリとして、この部隊の秘密の一端を口のする。


「・・・それがグローサリの魔術なのさ」

「また魔術ですか・・・?そんな事一文字隊長の時もそうですけど、ジュリアルドさんはまた私をからかってもう!」


 とロレッタはまたからかっているのかと頬を膨らませた。しかし、ジュリアルドとグローサリはロレッタに軽い感じだが、真面目に切り返した。


「からかっちゃないさ、な、グローサリ?」

「ああ、あれは俺の魔術だ」

「そもそもここは会社名直なところだぞ?うちの会社名言ってみろよ?」

「え・・・えーと、ロンガン・・・マギ・・・カデバイス?」

「そうだMagic Division。魔術師の集まりだ。わかって入ってきたんじゃないのか?」

「いやーーー戦場の奇術師とか手品師とか作戦とかが奇抜だったりして有名になった所だったりしてなぁなんて思ったりしてましたのでぇ」

「ロレッタお前なぁ・・・」

「いやだって普通魔術だなんて言っても信じられないですよー」

「ふぅーまぁ一理はあるが・・・どういう会社かはもっと調べて入社するだろうよ」


 とあわあわし始めたロレッタを見て、ジュリアルドは額に手を置き、天井を仰ぎ見て呆れた。そして、ロレッタは何やら意気消沈し始めてもごもご言い始めた。


「それは仕方がないじゃないですか・・・前働いていた所が潰れて、お金なくなってきて、その・・・、入社通知きたのここだけだったんですからぁ。一応ね。PMCって、ほら、お金とか良いじゃないですか。他にも応募面接試験受けたんですけど、体力とか運動とかでひかっかって不採用で・・・」


 ロレッタは肩を落として更に意気消沈していく。グローサリーはロレッタの話の中に引っかかるものを感じ思わず、言葉を口にし、ジュリアルドも反応した。


「むぅ、他全て不採用で、うちだけだと?」

「あーそれは・・・ん、ロレッタには芽があるのか?」

「っへ、め?」

「ああ、魔術師になれるという芽じゃよ」


 グローサリー、ジュリアルド、オラジの三人はロレッタに探る様な視線を向け、視線を向けられたロレッタはキョトンとしたのち、言葉の意味を飲み込むとガバッと立ち上がった


「えーーー私、魔術師になれるんですか?!こう、ファイヤーって言ったら火を出せたり、ウォーターって言ったら水出せたりしちゃえるようになれるんですか!?」


 とロレッタは興奮しながら、身振り手振りで、火を出したり、水を出したりしている様なポーズをする。そんなロレッタを三人は何か可哀そうな者を見たという感じで見ていた。その視線に気が付いたロレッタはたじろいた。


「え、なんです。その可哀そうだなぁーコイツ的な目は」

「いや、まぁーそのままだけどな」


 とジュリアルドは答え、テーブルにあったコーヒーを手に取り、一口含んだ。


「まぁ魔法と魔術、存在しない空間に火や水とか望んだ現実を表すって意味じゃ似ちゃいるけど、違うものなんだぞ」

「ジュ・・・ジュリアルドさん?」

「良し!ロレッタ、この部隊にも関わる事だし、特別に俺が教えてやろう!」

「えーーージュリアルドさんがそんな真面目な話できるんですか?」

「お、馬鹿にするなよ。俺にだって真面目な話の一つや二つできるぜ!」


 コホンと一つ間を置いてからジュリアルドは魔法と魔術について説明を始めた。


「いいか、ロレッタ、もう一度言うが、魔法も魔術も頭に同じ魔という文字はついてるが、魔法、魔術がもたらす、それぞれの結果とそこに至る手段が違うんだ。なぁロレッタ、魔法の法、魔術の術は何を指しているかわかるか?」

「んーーーなんでしょう?」


 ロレッタは顎に手をやり、首を捻り、ジュリアルドの答えを求めた。


「まず魔法の法は法則の法で、その法が指すものは、誰であっても一定の条件のもとで、必ず成立する事物相互の関係を言うんだ。例えばさっきロレッタが言っていた事のようなこと。ファイヤーと言ったら火が出る。ウォーターと言ったら、水が出るような感じだ。もっと言えば良く小説に出てくる魔力を必要数消費し、一言言えば、その現象が起こるのが魔法。それでロレッタ、実際そんなんで火が出たり、氷が出たりする現象は起きるか?」

「んーーー起きないですねぇ・・・?」

「そうだな。なぜ起きないかと言うとだな。一定条件下というのを満たせないからだ。火や水をだせる世界の法則を満たせる為の魔力が必要だっていうんだ?ロレッタは想像がつくか?」

「うぅー世界の法則を及ぼす位にだなんて想像もできませんよー」


 ロレッタはジュリアルドから出た想像の埒外に頭が痛くなってきていた。こめかみをグリグリと揉んでいるロレッタにジュリアルドは話を続ける。


「だがな世界の法則を満たせる為の魔力が足りなくても火や水を出すような現象を起こすすべがない訳じゃい。世界の法則を満たせる為の魔力が足りなくてもも火や水を出すような現象を起こすすべ、それを魔術というんだぜ。さっきロレッタはおめぇをからかったと怒ったが、食堂であの軍人の後ろにいたのはグローサリーはそのすべを利用したものなんだ。そのすべとは、どういったものだと思う?」

「うううーーーん。すべすべ・・・?」


 とジュリアルドはロレッタに質問した。そして、手に持ったコーヒーで喉を潤せて一息ついた。ロレッタは腕を組んで、頭をふりつつ考えている。答え悩んでるロレッタを見たジュリアルドが口を開いた。


すべというだけでは難しいぞ。ジュリアルドの話に出た魔術の術、すべが指す言葉の前には技という文字が付く。即ち技術の事を言う。望む現象を魔力の取り扱いや処理の方法や手段、それを行う業によって引き起こすのだ」

「ほぁーーー技術。どんな技術があるんですか?いえ、それよりもグローサリーさんが使ったという魔術はどんななんですか?」


 とロレッタはグローサリーが使ったという魔術にようやく興味を持ったようで、グローサリーの魔術について質問した。グローサリーは一つ頷いて自分の使った魔術について話し始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る