第5話 王と復讐の騎士05

 食堂で一悶着あったころ、一文字は改造ディーゼルエンジンの試運転結果と遭遇戦となった樹虫:飛蝗バッタと樹獣:緑豹との戦闘報告の記載した書類を小脇に抱えて、L.M.D総部隊長室を訪れていた。


「4638部隊部隊長、大樹=一文字三佐入ります」


 シュッという音と共に扉が開き、敬礼をした後、一文字は部屋に入って行く。


「ヤーヤーヤー! オカエリ! オカエリ! どうだったかね! どうだったかね! 改造したエンジンの調子は!? うんうん、調子がいいと他からも声が上がっているしね! もちろん君との所も良いだろうね! うんうん! もうグンッってあがっていたんだろうね! ね! ・・・」


 と左右に護衛を付けたターバンを巻き、女性とも見える顔立ちのアラブ系の青年が立っていた。そして、部屋に入ってきた一文字を両手を広げつつ、大きなハイテンションに大きな声で出迎えた。まだ、続きそうな声に一文字は額に指を耳栓にして、大声かわすと一息嘆息を吐く。


「はぁ、パール一将そんな大きな声出さなくても聞こえてますよ」

「あぁそうかね。なにやら最初にはこうしなければならないような性質があってね。んん、でどうだったかね試運転の結果の方は? 」

「まぁその性質はわかってはいますが・・・いつもその声で出迎えられると鼓膜がやぶれます」


 と一文字が耳を抑えながらゲンナリと答える。パール一将は顎を撫でながらそんな感じなのかと思慮しながら返答した。


「んんーーーそうかね? 」

「えぇ・・・そうです。所で、エル=バーハン総将はどちらに? 」

「エル=バーハン総将なら知人に呼ばれて日本へ行ったよ。それで、私が代理としているのだがね、ん? どうしたんだね? 」


 一文字はニヤケそうな顔を隠すため、顔を横に背け、腰の横でグッと拳を握りガッツポーズをする。一文字の様子にパール一将は訝しげな表情を見せた。

 一文字は慌てて話しを反らすように、落ち着きを取り戻したパール一将に小脇に挟んでいた報告書類を渡す。


「いえいえ、何でも。これが試運転の結果です。他の部隊と同じように出力は3割増し、中型の樹獣相手に力負けしてませんでしたよ。」

「そうかね、うーん既存で、打ち捨てられつつあったディーゼルエンジンを改造しただけで、それほどとはねぇ。今までなぜしなかったのか・・・」


 とパール一将は疑問を問いかけてきた。それに対し一文字は目線を落として答える。


「僕らと同じで打ち捨てられつつあったからですよ。人は得てして、新しいもの、新しいものへと移ろいやすく、足元にあった旧いものには目もくれなくなるものですから・・・」

「ふふふ・・・その人の性からこれから用意する新しい人形に新しい心臓をかね?だけどなかなか道は険しそうだ。そうだ、たしか日本には温故知新という言葉もあっただろうに?」

「ええ、ですが人の一生は短いので、中々後ろや足元を見ている暇がないのですよ。それに現状を考えるとそうも言ってられないでしょう」


 人の性について一文字は切なそうに答えたが、パール一将は目を細め、何か価値がある物を見つつ一つ頷く。


「確かに。だが私から見ても君たちは十分に現状を抗っているように見えるがね」

「っ。とりあえず報告書にサインを」


 パール一将は顔を横に向けつつ、目を細めて流し目で一文字を見る。一文字は苦笑いしながら肩を竦めて、先ほど渡した書類にサインを求めた。パール一将は机に戻り、サラサラと万年筆で書類にサインをして一文字に書類を返した。

 一文字はその書類を受けとると小脇に抱えていたもうひとつの書類をパール1将にオズオズと差し出した。


「こちらにもサインをお願いします。」

「ふむ、なにかな? 」


 パール一将将は一文字から書類を受け取り、書類内容を見た瞬間、ビシリと身体が固まった。そして、ギチチギチという音がしそうな感じで、一文字を見る。パール一将の手元にある書類にはこう書かれていた。


 "装備破壊による補充依頼書"

 "復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソード 1本"

 "柄を残して、他、粉砕したため補充を求む"

 "マリナ=姫路=ジャハル1曹"


「あ、あっあー大樹、我が盟友、大樹よ。なにかおかしな事が書かれているのだが・・・」

「いえ何も。おかしな事は。ないよ。我が盟友パール。柄から先、綺麗に無く、木っ端微塵と化した様だよ。あっはっははは」

「あははは、そうか、50万€/約7千万円が木っ端微塵か! だからアレクがいなくて、あの態度か!? 」

「いたら確実に雷落ちるの確定だったからね!? 」

「「あははははは。っは・・・はぁー」」


 と二人の笑い声がピタリと止まる。お互い顔を見合わせ、肩を落とした。

 そして、二人は復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードを粉砕した者へと思いを馳せる。


「今あれは? 」

「帰還当初は戦艦戦車キャッスルベースで寝ていたけど、川へ石採りにいったようだ」

「君の騎士はかなりフリーーーダムだね」


 一文字はさらにガクッと肩を落とした。パール一将は顎に手をやり、擦りながら思案顔になる。ブツブツと復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードを粉砕したマリナの身について、自らの考察を述べ始めた。


「しかし、3本目の復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードは材料の質も高め、匠の手も借りて、前2本よりも相当な出来栄えだった。それを粉砕するとは、騎士、魔術師としての力だけでは有り得ない・・・彼女自身の呪力が相当上がってきているようだね? 」


「えぇ、マリナの身の内のモノが身体が馴染み、呪力となってあふれだしてきている。その発散のために樹獣や樹虫の討伐は今のところ必須だね。なによりマリナが強くなり本懐を遂げられるようになるのはうれしいことだ。ただ強くなっていく僕の騎士に十全に戦える武器を用意できないのが不甲斐ない所だよ・・・」


 一文字は軽く俯き、自らの力不足に遣る瀬無さを醸し出す。その様子を見て、パール一将はため息をつきながら、補充依頼書にサインをする


「とりあえずサインはするが、あの復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードの替えはもう無いぞ。作ろうにも材料も無いしな。予算も無いしな!あはっはっはー」

「わかってるよ。だから、壊すなといっておいたんだけど・・・樹獣、樹虫を前にするとね」

「んー自らの存在意義により止められないか・・・」

「あの子は王たる僕が認めた正式な復讐騎士アベンジャーだからね」


 パール一将はそれ以上尋ねず、代わりに試運転をした改良型の水素エンジンや新型MD等について尋ねた。


「それで今回試運転したエンジンで大樹の所で作っている新型MDには合いそうなのかね? 」

「MD自体は今回の改良型の水素エンジンでも動くことはできる。出力は上がっているから動きは良い。ただ魔術関連に関しては・・・マリナの騎士剣技から派生する儀礼魔術はなんとか再現できるが、マリナ、メインの秘印ルーン魔術の行使は無理だな。呪力を通す呪術路が形成出来ない・・・」

「やはり根本的な所の問題で魔術が使えないのがどうにもならないのか・・・」

「んー解決策ある・・・MDの外側はほぼ出来上がっている。ただ、呪力を発生、増幅可能な心臓部がないとやはり厳しい。幻想だといわれていたあの機関を完成させたい所だね」

「そこも今回の試験で製造の目途はついたんだろ? 」

「理論としては。ただここの場所、英国では無理だね。魔術の行使は魔術を行使する土地に左右される性質を持っているから作成しようとしたら、現状日本ぐらいだね」

「そうか、そのためにエルが・・・? 」

「たぶん、技術者が見つかったのだろう」


 二人は静かに目を閉じ、一文字はここにはいないエル=バーハン総将へ期待の念を込めてつぶやいた。目を開けたパール一将は机に座り、引き出しより1枚の用紙を取り出し、なにやら書き出した。書き終えたパール一将はその用紙を一文字に渡した。


「これは? カーラエル城の駐屯地へ物資運搬及び護衛? 」

「MDに関してはアレク待ち、今できる所で、新しい復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードの準備だが、材料が足りん。そこでだ一文字部隊長、カーラエル城の駐屯地へ物資運搬及び護衛を命ずる。行ったついでに復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードのメインの材料を貰ってきてくれ。予算は・・・まぁなんとかする」

「パール・・・ありがとう。護衛任務、了解しました! 」


 盟友パールの心遣いに胸を震わせ、一文字は盟友パールに受諾の敬礼をした。

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