第4話 王と復讐の騎士04

 マンチェスター駐屯地に駐留している✖の字に重なった剣と杖の前、王冠の上に獅子が描かれた紋章エンブレムの旗がはためく英国MD師団の倉庫区画の一角に青い丸の右斜め上に緑の樹の図に同じく左斜め位置にキマイラが樹に爪を立てて立ち上がっている図が描かれた紋章エンブレムが上がっている倉庫隣にある駐機所にキャッスルベースを止める。

 ここは一文字達が所属する民間軍事会社Private Military Company竜眼魔術師団Longan Magic Division通称L.M.Dが間借りしている場所になる。

 駐機された戦艦戦車キャッスルベースからMD1とMD2がガチャンガチャンと降り、倉庫内の整備場へと入っていく。

 入っていった倉庫の中には先に戻ってきたであろうL.M.D製のMD:アルクレスタが2機駐機していた。その隣の開いていたスペースにジュリアルドとグローサリーはそれぞれのMDⅠ、MDⅡを駐機体制に映していった。

 最後に一文字を先頭にマリナ、ロレッタ、オラジは採取したサンプルを持って、キャッスルベースから降りてきた。こうして、森林内で戦闘を行ってきた一文字達の戦艦戦車キャッスルベースはマンチェスター駐屯地へ帰還を完了した。


 帰還した一文字達は倉庫内にいた整備兵や研究員たちにMDの整備や採取したサンプルの検査等の引き継ぎを行った。

 一文字、マリナを抜かした4人は食堂で食事をしていた。その中にいたロレッタは装備備品課の担当菅に相当怒られたのか肩落とし、しょぼくれつつ、スパゲッティを口にしていた。


「あううう・・・装備備品課のおやっさんにめちゃくちゃ怒られたし・・・まさか本当にあんなに高いとは思わなかったですー 戦闘中の装備破壊扱いになって会社持ちになったの・・・助かりました。よかったよぅ。」

「あっはは、なんだよ剣の代金払うんじゃなかったのか? ロレッタ」

 

 そこに肩肘をついて、ニヤニヤ顔のジュリアルドが声をかける。傍にいたオラジ、グローサリはさもありなんといった顔で見ていた。


「うぅぅ・・・いったい何なんですかあの剣・・・」

「教えてやりたいのは山々なんだが、今ここじゃな。一応あれはうちの会社の機密扱いだぜ」

「はっ?そんなにすごいものなんですか!? 」

「あぁ値段だけじゃないのさ、その素材、製法等についても機密でな」


 ジュリアルドは目を細めて答えた。ロレッタはあの剣先に両刃の斧の刃を持った奇妙な大剣の価値に顔が引きつっていた、そんなロレッタにジュリアルドは声を潜めて答える。


「ああ・・・だからその話は他の軍の関係者も沢山いるここじゃ話せなくてな」

「わ、わかりました・・・」


 ロレッタは黙々と残ったスパゲティを食べ始めた。

 出動していた英国MD師団の部隊が駐屯地へ帰還してきたらしく、英国軍人達が食堂入口に入ってきた。ジュリアルド達を見つけ、声をかけてくる。


「よーL.M.Dのジュリアルドじゃねぇか。お前たちは異常発生した飛蝗バッタの調査だっけか?帰ってきたのか」

「おーおー英国の。イヤ、本命は改造水素エンジンの試運転だ。飛蝗バッタはオマケだ。次いでにおっきな猫も出てきたがな。そっちも今か?」


 とジュリアルドは椅子の背に背中をそらしながら、声をかけてきた英国軍人を見ながら答えた。


「ああ、お前のところから来た改造ディーゼルエンジンの試運転がてらの討伐任務だ」

「ほぉぅ調子はどうだった?」


 と改造ディーゼルエンジンとそのエンジンを載せたMDの調子の結果を尋ねた。


「素直にすごいな。旧来のディーゼルエンジンを改造した上で、燃料を水素に変えてからの出力がMDの馬力や機動を3割増まで増加させてやがる。樹の化け物に力負けや反応負けしなくて助かる」

「そいつは良いこった。しっかりデータをうちの研究員へ報告してくれ」

「戦力が上がれば、生き残れるんだ。まぁやってやるさ。そっちこそ、新機体期待してるぜ」

「ただとはいえねぇな。うちも商売なんだ」

「なんだよケチ臭えなぁ。まぁしかたねぇ買ってもらえるよう出来の良い報告を上げておくか」

「たのまぁ」


 とお互いニヤリと笑みを浮かべる。英国軍人は片手を上げ、「じゃぁな」といって食堂の奥へと移動していった。その様子を食堂の片隅でガラの悪い英国軍人達が見ていた。


「っけ。傭兵如きが調子乗ってんじゃねぇよ。」

「まったくだ。最新の技術があるならさっさと出しやがれよなぁ」

「俺らにもその試作機使わせろよ。あんな奴よりうまく使ってやんぜ」

「そうそう、俺らがうまく使って、樹獣の2匹や3匹、軽く蹴散らしてやるからよ」


 ジュリアルドを見ていたガラの悪そうな英国軍人達が声を上げるが、ジュリアルドは剣呑な視線で一瞥し、ガラの悪い軍人達にきつい言葉を言い放つ。


「はぁん? おたくら何言ってるの? 今の機体でも十全に動かせない奴が粋がってるなっていうの」

「なんだと! 」

「てめぇ! 」


 その剣呑な言葉を聞いたガラの悪い軍人達はいきり立ったが、ジュリアルドはかまわず言い続ける。


「おたくらこの間、英国性量産MDセンチネルの足回り壊して帰ってきただろ。英国MD師団の整備課のやつらがぼやいていたぜ。よっぽどの素人じゃなきゃあんな壊れ方しやしねぇってな・・・まったく・・・軍服着た素人に虎の子にもなる試作MDになんぞ乗せるわけねぇだろ? 」


 ジュリアルドは両肩を竦め、やれやれと首を振り、ガラの悪い英国軍人達の物言いに心底呆れていた。ジュリアルドの態度にむかっ腹がたったガラの悪い英国軍人がガタッと椅子から立ち上がった。


「んだと!!! 」

「いわせておきゃ調子にのりやがあ・・・」


 ガラの悪い英国軍人の一人が拳を握りしめ、怒声を上げた。その軍人がジュリアルドの所へ行こうとした時、英国軍人の動きがピタリと止まる。


「そこまでだ」


 いつの間にか軍人の後ろに回っていたグローサリがナイフとフォークを二人の軍人ののど元に突きつけ、動きを制していた。そして、グローサリはジュリアルドを見て、諫めるようにジュリアルドの名前を呟いた。


「ジュリアルド・・・」

「あいあい、すみませんね。言いすぎましたよっと。皆さん騒がしてすまなかったねぇ。ほれ、ロレッタ何時までも食ってねぇで行くぞ」

「ふぁい。んっくっく・・・はぁ・・・待って下さいよぅ」


 とジュリアルドは肩をすくませ、ガラの悪い英国軍人達と周りにいた他の軍人達に謝罪する。まだスパゲティを食べていたロレッタの頭をポンポンと軽く叩き、食堂の出口へと歩いていく。

 グローサリも軍人ののど下に突きつけていた食器をテーブルに置くと食堂を後にし、オラジも後に続いた。

 残されたロレッタもスパゲッティを急いで口に入れ、コップの水を煽って、口の中に残っていた分を押し流した。ロレッタは口元を抑えつつ、皆の後を追って食堂を出て行った。


 グローサリーから開放されたガラの悪い英国軍人達はガタンと荒々しく椅子に座り、ガン!とテーブルを叩いた。傍にいた他のガラの悪い軍人達は盛大に愚痴をこぼし始めた。


「くっっそ!あの野郎!おぼえてやがれ!」

「今度闇討ちしてやる・・・」

「ふん、上から目を掛けられているからっていい気になりやがって!」

「な、なぁそれよりも、あの黒いのいつお前の後ろにまわり込んだんだ?」

「はぁそりゃ俺たちに見えないように、周り込んできたんだろうが」

「どうやって?あいつはテーブル2つは挟んだ所、しかも金髪よりも後ろにいたんだぞ・・・」

「んあ・・・」

「そりゃ」

「なんだ・・・」


 ガラの悪い英国軍人達は言葉を出せずに言い詰まり、得体の知れない悪寒を感じ、その場に沈黙を落とした。

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