第3話 王と復讐の騎士03

「左方の木に抉られた痕・・・こちらのほうですね」

 

 ロレッタがモニターを見て、樹虫:飛蝗バッタの群れが逃走した方向を探しす。傷痕を追うように戦艦戦車キャッスルベースがギャラララと森の中をキャタピラの駆動音が響かせ進んでいく。さらに周囲に飛ばしている偵察用ドローンが送ってくる映像を精査するとすこし開けた場所を映し出した。


「この先に小さな広場のような場所が・・・あっ何かキラキラしています・・・見つけましたマリナさんです」


 ロレッタが広場の中央付近に見つけたマリナはピクリともせず、樹虫:飛蝗バッタとの戦闘の際に舞い散った氷に光が乱反射する光景が、切り取られた一枚の絵画のように神秘的な様子を生み出していた。

 そんな神秘的な風景が気になりつつもロレッタは周辺警戒を怠っていなかった。


「樹虫:飛蝗バッタがいませんね・・・何処へ行ったのでしょう?はっ、マリナさん全然動きませんが大丈夫なんですか!? 怪我でもしているのでしょうか?! 」

「いぁー大丈夫大丈夫。樹虫を殺しつくして、止まってるだけさ。いつものこといつものこと。キング、マリナいたってさ」

「ん。あー・・・ロレッタ、インカムを・・・」


 ジュリアルドは席より立ちあがり、前方の指揮官席の背を倒し、アイマスクをして休んでいる一文字に声をかける。一文字はだるそうにアイマスクを上げ、ロレッタからインカムを受け取った。一息ついてからマリナに指示を出した。


「んんーーー、あぁ・・・見つかりましたか・・・ふぅーマリナ、マンチェスター駐屯地へ帰還する!キャスルベースに戻れ!」

「了解」

「ヒッ」


 マリナはクリンと首を曲げて一声を返すとタタッとキャッスルベースへ戻ってくる。人形がいきなり動き出したかの様な動きはロレッタが驚きの声を上げたのはご愛嬌・・・


「マリナさん無事だったのですね。本当に傷一つないですね。良かったぁ・・・隊長達は大丈夫だと言ってましたが、あの数の樹虫:飛蝗バッタでしたから心配していたんですよ」


 戻ってきたマリナにロレッタはパタパタと身体に触れて、無事を確認すし、左手に持っていた柄しか残っていない大斧剣を見ると感嘆の声をあげる。


「ん? 相当激戦だったみたいですね! 持っていた大剣の柄しか残ってませんね。武器を壊してよく勝てましたね? 」

「「「な、なんだってーーー!!! 」」」

「!!! 」


 ロレッタの何気ない一言に一文字他ノメンバーはマリナの左手を見る。ロレッタによりマリナの復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードの状況を見た一文字とジュリアルド、オラジが某ミステリー漫画並みの声を上げ、寡黙なグローサリですら驚愕の表情を浮かべた。


「こ、これで三本目か・・・」

「・・・ック・・・」

「おおぅ・・・はっはふぅー・・・」

「マリナ、お、おま、またやったんか?!おおぅ!? キング?! 魂が!? はっこれが精神!? しっかりしろキング!? 戻れって!? 」

 

 操縦をしていたオラジはぼそっと呟き肩を落とし、グローサリは驚愕から抜け切れず、一文字は顔のパースは崩し、口を開けて呆けている。ジュリアルドはマリナの左手に持っていた復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードの残骸の柄を見た後、一文字を見ると「や、やべー」と慌てて近づき、一文字の口に手にある何かを押し込めるように動かしていた。


「ん? 何をそんなに驚いているんですか? あんな訳わからない大剣一本であれだけの樹虫の群れを倒せたんですから安いもんじゃないですか!?それよりもマリナさんが無事な事を喜びましょうよ!」

「はっマリナが無事、無傷はいつものこと。それよりも今は復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードの方が一大事だ・・・」

「アレク部隊長に叱られた上、始末書か・・・それとも僕たち全員減俸か・・・?」

「「おおぅ・・・」」

「マリナ・・・もう予備がないから復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードは壊すなって命じていたはずだけど・・・」


 一文字はマリナに確認をするとマリナは柄だけが残った復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードを見て、何か考えるように頭を上げ、再び一文字を見て、口を開く。


「・・・敵を殲滅するのに高ぶって忘れた。悪かったと思う。反省はしていない」

「はぁ・・・マリナだしなぁ・・・」


 マリナは壊したことは悪いと思っても、敵を殲滅したのだから問題無いと言っている様だった。それに対し、一文字達は溜め息をついて、マリナだししょうがないと思いつつも沈んでいた。そんな一文字達の様子にロレッタは憤慨した。


「一文字隊長達どうかしてますよ! 人命よりも剣のことですか!?たかが大剣一本じゃないですか! なんだったら私がその代金肩代わりしますよ!? 」


 ロレッタは薄い胸を張って意気込む。一文字達は何も知らずキャンキャン吠えているかわいそうな子犬を見るような生暖かい視線を流して、呟いた。


「・・・ロレッタが壊れた復讐騎士の大斧剣アベンジャーズソードの代金、肩代わりですか・・・そうしてくれると嬉しいですね・・・うんうん」

「はい! まかせてください! 」

「あぁーロレッタ、ロレッタ?あれがいくらするかわかっているのか・・・?」

「え?はい?あんな変わった剣物珍しさもあってちょっとは高いでしょうが、精々4千€(4千ユーロ)/48万円くらいでしょう? あ、分割って効きます!? 」


 ロレッタは能天気に答える。そんなロレッタにジュリアルドとオラジは呆けた声を出した。


「あははは・・・知らないって怖いなぁ・・・」

「本当になぁ・・・」

「えっえっ?なんなんですか?さっきからおかしいですよ?・・・あのーえーと・・・」


 乾いた笑いを浮かべるジュリアルド達。ロレッタが他のメンバーを見ると目をそらし始める。皆の本当におかしな様子にロレッタはついに不安を浮かべ始めた。

 先ほどの驚愕から抜け出したグローサリが不安を持ち始めたロレッタを見かねて話を切り出した。


「ロレッタ・・・未装備のMD一機の値段って知ってるか?」

「それは知ってますよ。確か約100万€/約1億4千万円ですね」

「実はな・・・あの剣二本あれば未装備のMD一機買える金額・・・と言ったら信じるか・・・?」

「へっ?剣二本でMD一機ですか?またまたぁ。グローサリさん、ジュリアルドさんじゃないですからそんな冗談言わないでくださいよ」

「あぁ・・・冗談だったらいいんだけどねぇ・・・」

「へっ」


 ロレッタを見る一文字は遠い目をして呟いた。他のメンバーは決してロレッタの目を見ようとしなかった。ロレッタは部隊メンバーのそんな様子に慌てて皆に声をかけた。


「あ、あの冗談ですよね一文字隊長? グローサリさん? はっオラジさんなぜ目を逸らすんですか?! ジュリアルドさん嘘ですよね、ね !ねぇーーー!? 」


 ロレッタはジュリアルドをガクガクと身体を揺らし、他のメンバーはロレッタの叫びを各々に聞き流した。

 

「あはは・・・次の給料日でも楽しみにしておけー」


 とはぐらかすジュリアルド。


「・・・何年タダ働きじゃろうなぁ・・・返せるまで死ぬなよ・・・」


 と呟くオラジ。


「・・・アーメン」


 と十字に印を斬り、手を合わせて祈るグローサリ。


「・・・肩代わり・・・渡します」


 と壊れた大剣をロレッタに渡し、もう関係ないとばかりにごそごそと席に座り、毛布に包まる(くるまる)マリナ。


「いやーーーなになに!?こんなの渡されても?! た、隊長?!」

「オラジさん駐屯地へ出発してください」


 とパニックになっているロレッタを尻目に帰還命令を出す一文字。


「い、いやーーーーーーーーー!!!」


 と頭を抱え、叫ぶロレッタ。


 戦いが生んだ虚しさと喪失の叫びが森に響く。

 一文字達を乗せた戦艦戦車キャッスルベースはマンチェスター駐屯地に向けて走り出した。

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