第4話 初恋の人を追いかけて
「え、いや……これじゃ、誰かすらも分からないよ。どうしてこれが裕星だって分かるの?」
光太は
「だって、直接本人に会ったからよ。テレビで観たりライブで会った裕星と同一人物だったと思うけど?」
「本当にそうかな? この写真はいつ撮られたものなの?」
「これは
「
光太は写真から顔を上げると、ハハハと笑って写真を彼女に返した。
「それじゃ、これは裕星じゃないよ。裕星なら
「そんな……嘘よ! だって確かに本人だったよ。仕事が忙しいとかなんとかいって、たまにはこうして
「俺のことも信じらない?」
光太は二人の女性の顔を交互に見つめた。
「信じられなくは……ないけど。でも、本当に裕星だったんだって。他の子に訊いてもいいよ。もっと深い付き合いの子を教えようか?」
女性たちは光太の言葉を聞いても、自分たちの方を信じて疑わないようだった。
その後、光太が何度か説得して、ハッキリするまではまだ
「光太、どうしたもんかね。裕星に限ってこんな振る舞いはしないと断言できるが、彼女たちはあの通り一歩も
「困りましたね。裕星本人に会わせて弁解させた方がいいかもしれませんね。ファンだと言ってましたが、たとえファンでも、本物と
「ああ、残念ながら前にもあったな。もうこれで数度目かだ。裕星は男にも憧れの存在で、そのクールなファッションやヘアスタイルを
物まね男を裕星本人だと誤解する若い女の子たちもいると聞いて
どう比べて見ても本人とは違うのに、テレビで見るのと実物が多少違うのは当然だ、とか何とか勝手な先入観を持ってて、ただイメージが似てるだけで本人だと思ってSNSに出したり、それを利用した週刊誌がガセとわかっても記事にしたりな。そういうことは前からよくあったからなぁ。
今の方がSNSという手段ですぐ出されて迷惑こそするが、
「そうですか……。まあ、人気が出ると、こういうことも起きるんですね。ただし、仕方ないじゃ済まされない重大な誤解ですよ。
俺はこの
光太は社長室を出ると、廊下で心配そうに待っていた陸とリョウタに言った。
「大丈夫だ。あれは裕星じゃなかったよ」
リョウタはやっぱり、といった風にやれやれと両肩をクイッと上げた。
しかし、翌日、昨日の彼女たちからの
【海原裕星 如何わしいクラブで夜中の
早朝の街角の新聞スタンドに、この派手派手しくて全くデタラメな見出しと、例のぼんやりとしか写っていなかった男の画像が、
しかも、それを見つけたのが、他でもない事務所に来る途中の裕星自身だった。
*** 教会前 ***
美羽は夕食の買い出しをするために教会の門を出た。街にはたくさんの買い物客が
スーパーマーケットで両手いっぱいに買い物袋を下げた美羽が歩道に出たとたん、突然背中にドンと
「す、すみません! ぼんやりしてて」若い女性が大きなリュックを背負ってすまなそうに頭を下げている。
「あ、あの、あなたの方は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。あの……実は、東京は初めてで、道に迷ってうろうろしていたら眩暈(めまい)がしてきて……」
「ええ? 大丈夫ですか? 今日上京されてきたばかりなの? お仕事ですか?」
すると女性は美羽をじっと見ていたかと思うと、すがるような目で近づいて来た。
「あの……どこかこの近くに泊まれるところってありませんか? あ、ホテルとかはダメです、高いから。民宿とかどこか知っていたら……」
「民宿があるかどうか分からないですけど……どうされましたか?」
「私、宿泊費や食費を節約したくて、実は昨日から何も食べていなくて……」
そう言った
「昨日から何も? それは大変! もしよかったら私と一緒に来ませんか? 私、この近くの教会にいるんですけど、よかったら、お
「夕食をいただけるんですか? あ、ありがとうございます! お願いします!」
女性はパッと顔を明るくして何度も何度も頭を下げた。
孤児院『天使の家』で、美羽は子供たちと一緒に食事を作り、さっきの女性を自分の隣に座らせ、出来上がったばかりのカレーを出した。
「ありがとうございます。いただきます!」
女性は急いでスプーンをとると、かきこむ様にして口に運んでいる。
「
美羽が声をかけると、女性はゴホゴホと
「はい、本当に助かりました! ありがとうございます」
「あの……まだお聞きしてなかったけど、お名前を聞いてもいいかしら?」
美羽が女性に話しかけると、「あっ、ごめんなさい。先に言うべきでした。私は
「誰かを追いかけて?」
「ええ、子供のころからずっと隣の家に住んでた
私には兄弟がいないから、本当の
「ええ? 初恋の人を追いかけて上京してきたの? すごいわね! 彼のことが本当に好きなのね? でも、その方はここで何をされているんですか?」
すると、岡田は目を伏せて言いづらそうに下を向いた。
「分からないの。たぶんアルバイトとかでバーやクラブで働いてるかも。私たち、家が貧乏だったから。でも、この間、テレビに顔が出てて。それで東京まで追いかけて来たんです」
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