第3話 結婚詐欺の被害者たち
すると、廊下の向こうから突然なにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「ええ、でも、ちょっと待ってください。今日、
社長秘書の
「待ってらんないわよ! 社長はまだなの? うちら本当に怒ってるんだからね! お金返してくれたら訴えないからさあ」
来客にしては、ずいぶんと乱暴な言葉使いだった。
また、あたふたとしている大沢の声が聞こえた。
「さ、さあこちらにどうぞ。社長室の方へ。社長の浅加が直接お話をお聞きするそうです」
光太は部屋の外でのやり取りにしばらく演奏の手を止めて耳を傾けていたが、廊下の声が社長室の中に消えていったのを待って、外に出た。
すると、社長室のドアの前で大沢が心配そうにウロウロしているのが見えた。光太を見つけると、慌てて駆け寄り、光太の腕を引っ張って秘書室へと連れて行った。
光太が秘書室に入ると、大沢はすぐにドアを閉めて、真っ青な顔で光太へ向きなおした。
「さっきの、何かあったんですか?」
光太が
「実は、今ね、ラ・メールブルーのファンだっていう子たちが来たのよ。それも、とんでもないことを言って」
「とんでもないこと?」
「
「詐欺? チケット詐欺とかですか?」
「違うの。う~ん、たぶん何かの間違いだと思うんだけど……」
するとそこへノックの音がして、リョウタと陸も入ってきた。
「大沢さん、事務所に来たら社長室から大きな声がしてて、社長が1人で対応してるみたいだけど、何かクレームでもあったの?」陸が心配そうに訊いた。
「あったもなにも。本当に全くの誤解だと思うんだけど……」
「あ、光太さん、先に来てたんだね? 社長に用事があったのに、今お客さんみたいだからさ、大沢さんに後で伝えてもらおうと思ってここに来たんだよ」陸が口を
「実は、さっきのお客さんたちって、
「裕星さんに?」「裕星に?」
三人は驚いて声が
「そうなの。それが……まだ裕星が来てないから言うけど。どうやら彼女たち、裕星にお金を貸したのに返してもらえないって言ってて……」
「NO WAY!(とんでもない!) 裕星がなんで彼女らに
「そうだよ、なんで裕星さんが彼女たちにお金を借りる必要があるのさ? お金に全然困ってないのに。それに、裕星さんがファンの子たちとプライベートで直接会ったりするわけないっしょ!」
陸も腕組みをして眉をひそめた。
「それだけじゃないのよ。裕星が彼女たちと結婚の約束までしたって。それを理由に結婚資金を出させたり、
「大沢さん、裕星が本当にそんなことをすると思いますか?」光太が半ば
「―—するわけ、ないわよね。でも、彼女たち、すごい
「全員まとめて結婚してやるとでも言ったのか?」
信じられないというようにリョウタが鼻で笑いながら両手を肩まで上げた。
「まさか。でも、どうやら一人一人それぞれに結婚を
「――
陸が笑いながら言うと、
「でも、もしかすると裕星だってストレスで人格が変わって、自分でも知らず知らずに夜な夜なクラブなんかで
リョウタがわざと大げさなことを言ってワハハと笑った。
「それがね……
「大沢さん、俺が彼女たちと話してきましょうか? 裕星が直接会えばそっちの方が早いでしょうが、あいつはいつ来るかわからないし、
そう言いながら、すでに秘書室のドアを開けて出ようとしている光太を大沢が引き止めた。
「光太、ちょっと待って。本当に裕星がしてない証拠がないと、ちゃんと説得できないでしょ? もちろん、そんなのデマだって分かってるけど、彼女たちを納得させて、どうしてそんなことを言ってるのか
「わかった。まずは頭から否定しないでちゃんと彼女たちの事情を聴くよ。それから
そう言うと、光太は急いで社長室に向かった。
コンコンと社長室のドアをノックして開けた途端、ものすごい
「だから、何度も言ってるじゃん! ひどいやつだって、裕星は! うちら一人一人に金を
光太は
すると、困り果てた顔で反論もできずあたふたしている浅加が、光太を見つけるやいなや、まるで
「おい、光太、来てくれ! この子達、どうやら裕星のことで誤解してるらしいんだ。さっきから何度もそいつは裕星じゃないと言ってるんだが、聞いてくれないんだよ。お前からも言ってやってくれよ」
「あ、光太だぁ~! ねえねえ、聞いて! 裕星って、本当はひどい男なんだね! 光太は紳士的だし真面目だからそんなことしないよね。社長に言っても、とりあってくれないの。このままだと警察に
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ちゃんと話してくれないかな? 本当にそれが裕星だという証拠でも持ってるの?」
「証拠、証拠って、これだからタレントって
そう言って、ポケットをゴソゴソ探ると数枚の写真が出てきた。
それはかなり
光太が目を
「ね、これって本当に裕星でしょ?」
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