後編

カーテンの隙間から鈍色の光が差し込み、狭いワンルームの一室を照らす。

目を開けると、見慣れた天井が見える。

自室のベッドの上で寝ていたようだ。

起きあがろうと体に力を入れるが、体の節々は不調を訴える。

肩は重く常に鈍い痛みを放っており、体の関節は動かすたびに痛みが走る、そして頭は靄がかかったようにだるく、時々刺すような痛みへと変化する。

なんとかベッドから這い上がり、近くにあったカーテンを捲り上げ、窓の外を一望する。

どうやら、昨夜から降っていた雨がまだ続いていたようで、街全体を濡らし、情景を青白く濁していた。

窓をぼんやりと見渡していると、少しずつ頭の靄と眠気が覚めていくのを感じる。


ふと、服は昨日出かけたままだったことに気づく。

昨夜は荷物を捨て自宅のアパートに帰った後、そのままベッドで寝てしまったようだ。

そうだと気づいたら、昨日の汗と泥の惨状を思い出し、体の不快感が増す。

とにかく体を清めようと、ベッドからおり、風呂場へと向かう。

向かう途中、玄関が視界へと入る。

玄関には、昨夜使ったレインコートと長靴が乱雑に投げ捨てられて、泥が混じった小さな水溜まりを幾つか形成していた。

そんな中、大きく目を引いたのは、綺麗に床に鎮座している一束の白いハイヒールだ。

やや雨に濡れて光沢を放ったハイヒールは、汚れた床に何事もなかったように凛と佇まい、その様子は持ち主である彼女とそっくりだ。


衣服を脱ぎ、風呂場へと入る。

青いタイルが張り巡らされている室内は、薄暗く、冷たい。

浴槽に浸かろうと考えたが、浴槽にはすでに、水が溢れでるほど入っており、水は茶色く濁り底が見えない。

昨日の湖を思い出し、入るのをやめた。

ひとまず、シャワーをひねり全身を濡らす。

乾燥していた汗は水を含み粘性を帯び、体全体がベトベトになる。

そこに、石鹸を擦り汚れを落とす。

シャンプーをするために、一時的に視界を閉じる。

暗闇の中では、感覚が鋭敏となり、洗髪料の香り、シャワーの音、タイルの床の感触がより明確になる。

タイルの規則正しい凹凸の中で、奇妙な感触を感じる。

それは、徐々につま先から始まり、ゆっくりと足を侵食し、絡みつく。

シャンプーを洗い落として、目を開き、足元の方を見やる。

黒く長い髪の毛が足に絡みついている。

彼女で昨日浴槽を使ったことを思い出し、足から降り解き、水で流す。

髪の毛は排水溝へと流れてゆっくりと姿を消した。


脱衣所で、タオルを腰に巻き、体の熱を取るためにぼんやりと佇む。

肩が一段と重くなり、疲労を実感する。

背後からヒタヒタと水音が響く。

洗面台の鏡に頭をつけて、鏡の冷たい感触を楽しむ。

鏡は部屋に面しているため、部屋全体を見ることができる。

視界の端に白いものが映る。

彼女のワンピースだ。

ワンピースは水に濡れて、肌に張り付き、彼女の青白い肌が透けて見えた。

彼女が部屋の隅に立っている。

濡れた長い髪が顔を覆い表情は見えない。

手を伸ばし、彼女の姿を鏡越しに指でなぞる。

口角が徐々に上がるを感じる。

彼女の首元をゆっくりとなぞり、

覆われた髪の隙間から、赤黒い鬱血跡が一周しているのが見えた。

笑味が溢れる。



だから、言っただろ。

僕も君に憑かれてるって







これからもずっと。





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つかれた。 粟生屋 @inouuu

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