第16話



楓は驚いた顔で


「へぇー。龍弦老師の事を弦爺って呼べるなんて凄いわね…どんな関係?老師がまたどっかから拾って来たのかしら?

…貴方名前は?」


「は、初めまして…僕はレイルって言います。

えっと、弦爺にそう呼べって言われたんですが凄い事?なんですか?」



「そう!分かったわ、よろしくね。レイル!

とても凄いことよ?

貴方とても気に入られているのね!

誰も龍弦老師の事を「弦爺」だなんて畏れ多くて呼べないわよ!」



レイルのカンが龍弦の事を偉い人と囁いていたが、

見事にカンが当たった形になった。

 


(やっぱり偉い人だったんだ。でも、

なんで僕なんか気に入ったんだろ?)



「それにしてもレイル、

貴方とても綺麗な眼をしているのね?

オッドアイの銀、金なんて初めて見たわ。」



(…え?えっ!?僕両眼とも銀色の筈なんだけど…)


レイルは急いで横にある庭園の池に顔を覗かせる。

そこには左が銀、右が金の鮮やかなオッドアイが映っていた。



「な?なんで…?右眼が金??」


「レイル?どうしたの?そんなに慌てて?」


「い、いえ…なんでもないです。」


(なんで眼の色が変わったんだろう?)



「そう、貴方龍弦老師に待ってろって言われたくらいだから暇でしょ?

そろそろ門下生達が来てるはずだから

ちょっと道場の稽古でも覗いて行かない?」



元いた世界とは違う異世界の武術に興味が出たレイルは眼の事をすっかり忘れて顔を輝かせた。


「は、はい!是非観てみたいです!お願いします!」


道場の中を覗いて見ると屈強な男達が各々、

柔軟や組手をしていた。



「どぉ?結構凄いでしょ?これだけ強そうな人達がみーんな門下生よ!まぁ、実際強いんだけどね。」



「……なんだか圧倒されるなぁ、皆さんそんなに強いんですね。いいなぁ…強くなりたいなぁ。」

レイルの呟きは門下生の掛け声で掻き消されていた。


口を開けながら呆然としているレイルを見て、

気を良くした楓が更に説明をしてくる。



「この道場はね、日本に現存している古武術で最も古く、そして歴史上でも最高峰の武術なの。


……名を、天真正伝・摩利支天流

(てんしんしょうでん・まりしてんりゅう)と言うのよ。」



「な、なんか凄い歴史のある武術なんですね。」



「ふふっ!歴史だけじゃないのよ?

摩利支天流は

剣術を中心としながら、居合術、小太刀術、槍術、棒術、手裏剣術、体術、柔術…

更には陰陽道や築城法、兵法とかの学問も含んだ「総合武術」なの!」




「へぇー!話を聞いてると凄く強そうな武術ですねっ!」



「実際かなり強いわよ?遥か昔の人だけど、摩利支天流を奥義も含めて全て会得した人が居たけど生涯無敗だったそうよ?

因みに龍弦老師もほぼ全ての奥義を会得して今まで無敗らしいわ。」


レイルは龍弦の強さに驚きを隠せなかった。


「…あの人そんなに強かったんだ。凄いなぁ…

けど、楓さんは何故そんなにお詳しいんですか?」



「あははっ!それはね…

私もその門下生の1人だからよっ!

そんな事よりほら!

行くわよ?付いておいでね!」



レイルは楓に腕を引っ張られながら道場の中に入っていく。



「貴方にはまだ分からないかも知れないけど、

この世界にはね、ダンジョンや迷宮なんて物があるの。

その中にはモンスター…魔獣や罠なんかがいっぱいあるの!

もちろんモンスター由来の資源や宝箱、スキルオーブなんかがあったりするわ。」



レイルは内心驚いていた…

自分の居た世界でも似たような場所や物があったからだ。



「…へ、へぇ…モンスターってゴブリンとかオークとかですか?」



「あら?よく知ってるわね?勉強したの?

そうよ!他にはね…ミノタウロスやワイバーン、

果てはドラゴンまで居るそうよ?」



(ドラゴンまで居るんだぁ……この世界も危ないんだな。)



「だから、スタンピード…

魔物氾濫が起こるのを未然に防いだり、

お宝を求めて一攫千金だったり、

ただひたすら強くなる為に戦ったりしてる人がいるの。

そして、ここの門下生は初心者は勿論、高位の冒険者も居るのよ?

今日来てるのはその中でも、日本でも名のある冒険者ばかりなの。

初心者でも熟練者でも魔法使いやヒーラーですら

武の基本が出来てないとダンジョンじゃすぐ死んじゃうからね。」



「へぇー、それで皆さんあれだけ強そうだったんですか…」



「そうよ!……けどそれでも門下生止まりなの。

これまで誰も内弟子になれた人は居ないのよ。

全員で掛かっても龍弦老師には勝てないのよ…


あの方は冒険者とかではないけど、実質日本トップクラス…

世界でも10本の指に入る程の実力者よ。」



レイルはここに来て何度目か分からないほど驚くのだった。

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